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032 / ダンジョンは楽しい
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隠し通路を抜け、洞窟へと足を踏み入れる。
「わあー……!」
フェリテが、目をまるくして周囲を見渡した。
「声が響く!」
フェリテの声が反響し、うわんうわんと唸りを伴って耳に戻ってくる。
「すごいだろ」
「うん、すごい! さっきまでの遺跡とぜんぜん違うんだね」
「見てわかる通り、異様に広くてさ。第一層なんて三時間くらいでマッピング終わったのに、ここは一ヶ月かけても終わらないんだよ……」
「ひろすぎる」
「六層へ続く階段は見つけてあるから、さっさと下りちゃっていい気もしてる。開ける宝箱開ける宝箱、ミスリル鉱石ばっかだしな」
「換金できるのは嬉しいけど、ちょっとつまらないね」
「次に宝箱を見つけたら、マッピングが終わらなくても先に進もうか」
「うん、それがいいかも」
「じゃ、五層の未踏領域へ出発だ。鉱石以外の宝箱がありますように!」
「おー!」
未踏領域までは、かなり歩く。
五層のマッピングが遅々として進まない理由がこれである。
往復に時間がかかり過ぎるのだ。
体感で、行きに三時間、往復で六時間も必要とするのだから、ダンジョン内で二、三泊する覚悟を持たなければマップはいつまでも経っても完成しないだろう。
「──はい、ここが例の極大火炎呪跡となっております」
「わ!」
人工精霊の光で宝石のように輝くガラス化した岩肌を見て、フェリテが目をまるくする。
「あのログ、本当だったんだ……」
「本当だとも」
「あ、疑ってたわけじゃないよ。ただ、実際に目にすると、すごいなって」
「わかるよ。知識だけあるのと体験するのとじゃ、天と地ほどの差があるからな」
治癒薬の件がまさにそうだ。
傷が治ることは知っていても、その味や痛みは経験しなければわからない。
「……でも、きれい。えへへ、なんだかロマンチックだね」
「冒険者たちの中で、ここが観光名所になるかもな」
「なるかも! あたし、もう、来てよかったーって気分になってるもん。まだ何もできてないのにね」
「実を言うと、俺もそんな気分だよ。普段はただの目印なんだけどな。鬱々とした気分で、寂しさを紛らわせるために独り言を呟いたり、小声で歌ったりしながら歩くとこ」
「かなしい……」
「おかげで最近、宿でも独り言が激しいってアーネに指摘されてさ。すげーショックだった……」
「あはは……」
フェリテが苦笑し、俺の肩をぽんと叩く。
「でも、もう大丈夫。リュータにはあたしがついてるからね。もう寂しくないよ!」
「うん。わりとマジで助かってる。今、楽しいもん」
俺にとってのダンジョン攻略とは、ただただ孤独なものだった。
宝箱を見つけたときの高揚感はあっても、"楽しい"と思えたことは一度もなかったのだ。
フェリテが明るくて気持ちのいい子だから、素直に口にすることができた。
「えへへ。あたしもね、こんな楽しいダンジョン攻略、初めて。友達と一緒だからかな」
「前はどんな感じだったんだ?」
「もともと四人で組んでたパーティに入れてもらったんだけど、すごくピリピリしててね。休憩中なんかは談笑することもあったんだけど、なんか、四人のノリがもう完成してて、あんまり喋れなかったな……」
「ああ……」
グループに後から入ると、そんな感じだよな。
「それで、前にも言ったけど、最後には置いてかれちゃって。だから、いい思い出ないんだ」
「……そっか」
それは、すこしつらい。
「TRPGって、すごいね。あれがなかったら、あたしたち、こんなに仲良くなれてないと思う。友達じゃなくて、ビジネスライクな仲間って感じで、今ごろ無言で歩いてたかも……」
「それは嫌だなあ……」
「えへへ、帰ったらまたセッションしようね! もっと強くなるぞ!」
「現実でもお願いしますよ、アイアンアクスさん」
「わかってるよー」
笑い合いながら、俺たちは再び歩き出す。
ああ、いいな。
俺がGMとして導いてきた数々のパーティも、ダンジョンの中でこんな会話を交わしていたのだろうか。
そう思うと、胸が熱くなった。
「わあー……!」
フェリテが、目をまるくして周囲を見渡した。
「声が響く!」
フェリテの声が反響し、うわんうわんと唸りを伴って耳に戻ってくる。
「すごいだろ」
「うん、すごい! さっきまでの遺跡とぜんぜん違うんだね」
「見てわかる通り、異様に広くてさ。第一層なんて三時間くらいでマッピング終わったのに、ここは一ヶ月かけても終わらないんだよ……」
「ひろすぎる」
「六層へ続く階段は見つけてあるから、さっさと下りちゃっていい気もしてる。開ける宝箱開ける宝箱、ミスリル鉱石ばっかだしな」
「換金できるのは嬉しいけど、ちょっとつまらないね」
「次に宝箱を見つけたら、マッピングが終わらなくても先に進もうか」
「うん、それがいいかも」
「じゃ、五層の未踏領域へ出発だ。鉱石以外の宝箱がありますように!」
「おー!」
未踏領域までは、かなり歩く。
五層のマッピングが遅々として進まない理由がこれである。
往復に時間がかかり過ぎるのだ。
体感で、行きに三時間、往復で六時間も必要とするのだから、ダンジョン内で二、三泊する覚悟を持たなければマップはいつまでも経っても完成しないだろう。
「──はい、ここが例の極大火炎呪跡となっております」
「わ!」
人工精霊の光で宝石のように輝くガラス化した岩肌を見て、フェリテが目をまるくする。
「あのログ、本当だったんだ……」
「本当だとも」
「あ、疑ってたわけじゃないよ。ただ、実際に目にすると、すごいなって」
「わかるよ。知識だけあるのと体験するのとじゃ、天と地ほどの差があるからな」
治癒薬の件がまさにそうだ。
傷が治ることは知っていても、その味や痛みは経験しなければわからない。
「……でも、きれい。えへへ、なんだかロマンチックだね」
「冒険者たちの中で、ここが観光名所になるかもな」
「なるかも! あたし、もう、来てよかったーって気分になってるもん。まだ何もできてないのにね」
「実を言うと、俺もそんな気分だよ。普段はただの目印なんだけどな。鬱々とした気分で、寂しさを紛らわせるために独り言を呟いたり、小声で歌ったりしながら歩くとこ」
「かなしい……」
「おかげで最近、宿でも独り言が激しいってアーネに指摘されてさ。すげーショックだった……」
「あはは……」
フェリテが苦笑し、俺の肩をぽんと叩く。
「でも、もう大丈夫。リュータにはあたしがついてるからね。もう寂しくないよ!」
「うん。わりとマジで助かってる。今、楽しいもん」
俺にとってのダンジョン攻略とは、ただただ孤独なものだった。
宝箱を見つけたときの高揚感はあっても、"楽しい"と思えたことは一度もなかったのだ。
フェリテが明るくて気持ちのいい子だから、素直に口にすることができた。
「えへへ。あたしもね、こんな楽しいダンジョン攻略、初めて。友達と一緒だからかな」
「前はどんな感じだったんだ?」
「もともと四人で組んでたパーティに入れてもらったんだけど、すごくピリピリしててね。休憩中なんかは談笑することもあったんだけど、なんか、四人のノリがもう完成してて、あんまり喋れなかったな……」
「ああ……」
グループに後から入ると、そんな感じだよな。
「それで、前にも言ったけど、最後には置いてかれちゃって。だから、いい思い出ないんだ」
「……そっか」
それは、すこしつらい。
「TRPGって、すごいね。あれがなかったら、あたしたち、こんなに仲良くなれてないと思う。友達じゃなくて、ビジネスライクな仲間って感じで、今ごろ無言で歩いてたかも……」
「それは嫌だなあ……」
「えへへ、帰ったらまたセッションしようね! もっと強くなるぞ!」
「現実でもお願いしますよ、アイアンアクスさん」
「わかってるよー」
笑い合いながら、俺たちは再び歩き出す。
ああ、いいな。
俺がGMとして導いてきた数々のパーティも、ダンジョンの中でこんな会話を交わしていたのだろうか。
そう思うと、胸が熱くなった。
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