27 / 87
027 / その戦斧、あまりに重く(2/2)
しおりを挟む
「フェリテ、ちょっと頼みがあるんだけど」
「?」
「その戦斧、持たせてくれないか」
「いいけど、重いよ……?」
「知ってる」
フェリテが、背中の大斧を下ろす。
ずしん。
尖頭部が地面に触れた瞬間、僅かに足元が揺れた気がした。
「はい」
「ありがとう」
両手で柄を握り込み、戦斧を持ち上げ──ようとする。
「ぐ」
重い。
死ぬほど重い。
振り回すどころか、そもそも持ち上がらない。
「え、何キロあんのこれ……」
「量ったことないけど、あたしの倍はあるかなあ」
「──…………」
「──……」
アーネと顔を見合わせる。
「……重そうだとは思ってたけど、そこまでとは」
「そりゃ転ぶわけです」
「だよなあ……」
「あ、いや、それはあたしの鍛錬が足りないからで」
なかば呆れながら告げる。
「鍛錬の問題じゃないんだよ」
「フェリテ、シーソーは知っていますか?」
「知ってるけど……」
「シーソーの片側に、フェリテ。反対側にこの戦斧を乗せるとしましょう。さあ、頑張ってシーソーをあなたのほうへ傾けてください」
「えっ」
フェリテが考え込む。
十秒。
二十秒。
三十秒──
「……あたしがアーネを担ぐ?」
「それ以外で」
「リュータを担ぐ」
「重いものを持つ以外の方法で、です」
「無理だと思うんだけど……」
「はい、無理です」
フェリテが目をまるくする。
「え、そんなのあり?」
「あなたがしようとしていることですよ」
「……?」
まだ理解できていないのか、フェリテが小首をかしげた。
「フェリテにどんな力があったとしても、自分より重い武器を扱うなんて物理的に不可能なんだよ。振り回したつもりが振り回されて、重心が傾けば倒れることは免れない。解決策があるとすれば、一つだけだ」
「……それは?」
「フェリテが、その斧より重くなればいい」
「──…………」
「パン、たくさん食べますか?」
「えーと、そのー。それは、乙女として、選んじゃいけない道のような。軽鎧も入らなくなるし……」
「だったら武器変えよう」
「ええ、それがいいです」
「えー!」
フェリテが不満げな声を上げた。
「いいか、フェリテ」
俺は、真剣な顔を作り、なるべく冷たい声で言い放った。
「ダンジョンで扱いきれない武器なんて振り回したら、本当に死ぬぞ。その戦斧を使い続ける限り、俺はフェリテに同行できない」
「──…………」
厳しいかもしれないが、フェリテの命には代えられない。
仮に、それが、先祖代々伝わる形見の品だとしても、俺の意見は変わらない。
「その戦斧に、思い入れでもあるのか?」
「実は……」
フェリテが訥々と語り始める。
「冒険者になると決めて入った武具屋で、いちばん強い武器くださいって言ったら、これが出てきたの」
浅い理由だった。
「……それ、絶対売れ残りを押し付けられてるからな」
「普通は買いませんからね。そもそも持てないでしょうし」
持ててしまったのが悲劇の始まりだったのかもしれない。
俺は、溜め息を一つついた。
「予定変更だ。ダンジョン攻略の前に、武具屋に寄る」
「お金ないよ!」
「貸す。お願いだから遠慮はするな。これは先行投資だ。ろくに戦えない仲間なんて連れてみろ。ソロより厳しい探索になるぞ」
「う」
「幸い、売っ払える鉱石はいくらでもあるんだ。あれ運んでくれたら売却額の半分はフェリテにやる。そこから返してくれればいい」
「……それなら、いい、のかな?」
「その膂力があれば、俺が三個しか持てない鉱石も、十個くらい一気に運べるだろ。正直あれ持ち出すのにうんざりしてたから、ありがたいくらいだよ」
フェリテが、覚悟を決めたように頷いた。
「わかった。二人のアドバイス、素直に聞くことにする。死にたくないし、リュータに迷惑かけたくないもんね」
アーネが安堵の息を漏らす。
「是非そうしてください。せっかく友達になったのに、死んでほしくはありませんから」
「ほんと、ご心配おかけします……」
ダンジョンの入口に背を向ける。
「じゃ、武具屋行こうか。ついでにその斧も買い取ってもらおう」
こんなもの売りつけられても、武具屋のおじさん困ると思うけど。
「だね。使わないなら重いだけだし」
「せっかくですから、私も同行します。フェリテがまた妙な武器を買わないとも限りませんから」
「買わないよー……」
「前科があるからな」
「それはそうだけど」
「アーネも心配なんだよ。三人で見繕えば間違いはないだろ」
「……そっか」
フェリテが嬉しそうに微笑む。
「じゃあ、お願いしようかな」
「ええ、おまかせください」
俺たちは、来た道を戻ると、行きつけの武具屋へと足を向けた。
「?」
「その戦斧、持たせてくれないか」
「いいけど、重いよ……?」
「知ってる」
フェリテが、背中の大斧を下ろす。
ずしん。
尖頭部が地面に触れた瞬間、僅かに足元が揺れた気がした。
「はい」
「ありがとう」
両手で柄を握り込み、戦斧を持ち上げ──ようとする。
「ぐ」
重い。
死ぬほど重い。
振り回すどころか、そもそも持ち上がらない。
「え、何キロあんのこれ……」
「量ったことないけど、あたしの倍はあるかなあ」
「──…………」
「──……」
アーネと顔を見合わせる。
「……重そうだとは思ってたけど、そこまでとは」
「そりゃ転ぶわけです」
「だよなあ……」
「あ、いや、それはあたしの鍛錬が足りないからで」
なかば呆れながら告げる。
「鍛錬の問題じゃないんだよ」
「フェリテ、シーソーは知っていますか?」
「知ってるけど……」
「シーソーの片側に、フェリテ。反対側にこの戦斧を乗せるとしましょう。さあ、頑張ってシーソーをあなたのほうへ傾けてください」
「えっ」
フェリテが考え込む。
十秒。
二十秒。
三十秒──
「……あたしがアーネを担ぐ?」
「それ以外で」
「リュータを担ぐ」
「重いものを持つ以外の方法で、です」
「無理だと思うんだけど……」
「はい、無理です」
フェリテが目をまるくする。
「え、そんなのあり?」
「あなたがしようとしていることですよ」
「……?」
まだ理解できていないのか、フェリテが小首をかしげた。
「フェリテにどんな力があったとしても、自分より重い武器を扱うなんて物理的に不可能なんだよ。振り回したつもりが振り回されて、重心が傾けば倒れることは免れない。解決策があるとすれば、一つだけだ」
「……それは?」
「フェリテが、その斧より重くなればいい」
「──…………」
「パン、たくさん食べますか?」
「えーと、そのー。それは、乙女として、選んじゃいけない道のような。軽鎧も入らなくなるし……」
「だったら武器変えよう」
「ええ、それがいいです」
「えー!」
フェリテが不満げな声を上げた。
「いいか、フェリテ」
俺は、真剣な顔を作り、なるべく冷たい声で言い放った。
「ダンジョンで扱いきれない武器なんて振り回したら、本当に死ぬぞ。その戦斧を使い続ける限り、俺はフェリテに同行できない」
「──…………」
厳しいかもしれないが、フェリテの命には代えられない。
仮に、それが、先祖代々伝わる形見の品だとしても、俺の意見は変わらない。
「その戦斧に、思い入れでもあるのか?」
「実は……」
フェリテが訥々と語り始める。
「冒険者になると決めて入った武具屋で、いちばん強い武器くださいって言ったら、これが出てきたの」
浅い理由だった。
「……それ、絶対売れ残りを押し付けられてるからな」
「普通は買いませんからね。そもそも持てないでしょうし」
持ててしまったのが悲劇の始まりだったのかもしれない。
俺は、溜め息を一つついた。
「予定変更だ。ダンジョン攻略の前に、武具屋に寄る」
「お金ないよ!」
「貸す。お願いだから遠慮はするな。これは先行投資だ。ろくに戦えない仲間なんて連れてみろ。ソロより厳しい探索になるぞ」
「う」
「幸い、売っ払える鉱石はいくらでもあるんだ。あれ運んでくれたら売却額の半分はフェリテにやる。そこから返してくれればいい」
「……それなら、いい、のかな?」
「その膂力があれば、俺が三個しか持てない鉱石も、十個くらい一気に運べるだろ。正直あれ持ち出すのにうんざりしてたから、ありがたいくらいだよ」
フェリテが、覚悟を決めたように頷いた。
「わかった。二人のアドバイス、素直に聞くことにする。死にたくないし、リュータに迷惑かけたくないもんね」
アーネが安堵の息を漏らす。
「是非そうしてください。せっかく友達になったのに、死んでほしくはありませんから」
「ほんと、ご心配おかけします……」
ダンジョンの入口に背を向ける。
「じゃ、武具屋行こうか。ついでにその斧も買い取ってもらおう」
こんなもの売りつけられても、武具屋のおじさん困ると思うけど。
「だね。使わないなら重いだけだし」
「せっかくですから、私も同行します。フェリテがまた妙な武器を買わないとも限りませんから」
「買わないよー……」
「前科があるからな」
「それはそうだけど」
「アーネも心配なんだよ。三人で見繕えば間違いはないだろ」
「……そっか」
フェリテが嬉しそうに微笑む。
「じゃあ、お願いしようかな」
「ええ、おまかせください」
俺たちは、来た道を戻ると、行きつけの武具屋へと足を向けた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます
ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。
何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。
何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。
それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。
そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。
見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。
「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」
にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。
「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。
「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる