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第二章 【世界を護る役割】

第三節 旧友

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基本的に星巡り部隊に所属している隊員は、どの部隊に配属しても必ず一度は他部隊と挨拶を交わす機会が与えられる。そのためほとんどの隊員とは顔見知りになるわけだが、そんな中でもトレイシーとは何度か顔を合わせ会話する機会の多い相手だった。

「しかし、レナトゥスくんが第一星巡りの纏ねぇ。君が護だった頃がこの前のように感じられるよ」
「この前って、何年も前の話だろそれ…」

俺が第一星巡りの纏に配属される前、第三星巡り部隊で“護”として配属されていた頃をよく知る人物だ。

部隊に配属され、緊張でうまく立ち回れずにいた俺に軽口いいながらも助言してくれた先輩でもあった。その頃はまだトレイシーも第四星巡りの纏じゃなく、導として配属していたはず。

気が付けば俺と同階級になっているのだから、驚いた。

「護といえば、第四星巡り部隊にいる護…聞いたことないやつだったな」
「あぁ、クレノかい?この前配属されたばかりの新米くんでね。ふふ、少し挨拶していってくれ。クレノ、ちょっとこっち来てくれるかい!」

人もまばらになった大広間内。良く通るトレイシーの声音は対して大きな声でなくとも相手にはすぐに届いたようだ。

「お呼びですか、トレイシーさん」

司令官に名指しされ、答えた時より落ち着いた雰囲気。
普段の声音はこちらなのだろう、耳に残る低めの声に頭の中で背の高い男性を想像してみたりして、振り返ってみれば誰もいない。

困惑しながらもきょろりと辺りを見回してみるが、やはり男性の姿は見えなかった。

「…ッ、ぶふっ、ふふふ、あはっ。レナトゥスくん、クレノは下だよ、下」
「下…?」

見回していた視点よりもはるか下に目線を向ければ、俺の腰くらいの位置で濃い緑色の髪が揺れていた。

驚いた俺に、クレノは不服そうな表情をするだけで俺の態度にどうこう言うつもりはないようだった。流石に決まりが悪く、お互い無言になってしまったところでトレイシーは手を叩き、笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。

「改めて紹介させていただくよ。第四星巡りの護、クレノ・アンバー。そしてこちらが、第一星巡りの纏である、レナトゥス・リィン・リーディルク。クレノ、私が君を呼んだのは彼を紹介したかったからだよ」

交互に紹介し、トレイシーは一歩下がりクレノが前に出てくる。
一人分の空白を空けてクレノは立ち止まり、右手を胸にあて、左手は後ろで組んで目を閉じた。俺が右手の甲でクレノの右手を二度叩けば、クレノはぱちりと目を開く。

「ふふ。クレノ、偉いね。別部隊の上官に挨拶するときの動作、完璧だったよ」
「ありがとうございます。…それで、僕に第一星巡りの纏であるレナトゥス・リィン・リーディルクさんを紹介したかったというのは――」
「あぁ、俺がトレイシーにクレノのことを聞いたんだ。……名前呼びづらいだろ?レナトでいいよ」

クレノが問いかける前に、俺が言葉をかさねる。
髪色と似た緑の瞳がこちらに振り向き、俺の瞳を見据えて訝しそうに首をかしげていた。

「なぜ、第四星巡り部隊の皆さんのことではなく僕のことを?」
「トレイシーの部隊…―第四星巡り部隊は隊員の入れ替えが滅多にない部隊だからな。部隊内での昇級、降格はよく聞くけど新入りは全く聞いたことないから、かな」

―正直に言えば、司令官に名指しされていたクレノの存在が頭に焼き付いていたからなのだが。

「レナトゥスくん、正直に言ってごらんよ。司令官に名指しされて、それで気になったのが大部分だろう?」

トレイシーに心の内を読まれぎくりと体を強張らせるが、クレノ自身は何とも思っていないのか「そうですか」っと一言だけ返してきた。想像していたよりも落ち着いた様子で、小さい体躯ながら大人びた雰囲気すらも感じてしまう。

「レナトゥス・リィン・リーディルクさん」
「だからレナトでいいって――」
「……配属したての僕は一度も話した事がないため分からないのですが、第六星巡り部隊の皆さんは一体どのような方達だったのですか?」

純粋に好奇心から聞いているのだろう。
どのような、と問われ思い浮かぶのはお互いを好敵手として切磋琢磨しあっていた毎日。特に、第六星巡りの剣の一人と、ノヴァは馬が合うようで宿所にいても俺たちの部隊の一室にいつの間にか交じっていることが多かった。

気の合う仲間、背中を任せられる相手。

かつての記憶があるからこそ、信じようと思える。
盲目的かもしれない。痛い目を見るかもしれない。裏切りを幇助した部隊として監視対象とされている今でも、俺は第六星巡り部隊の皆を疑いきれないんだ。

「…気の合う、良い奴らだよ。クレノも一度会ってみればあいつらが良い奴らだって、すぐ分かると思うぜ」

司令官の決定に思うところはある。

けれど十三をもある部隊員全員に信頼を向け、任せていた先で星巡り部隊の存続を危うくさせるこの仕打ちをされたら。俺だとしたら、どうするのだろう。考えてみても、司令官と同じ立場になりえない俺に答えは思い浮かばない。

信頼は、実績があって成り立つもの。
上に立つ者ほど、責任は多くのしかかる。

どれほど信頼を寄せてる相手とはいえ、上に立つ者としての線引きはきちんとするべきなのだろう。

「…――」
「さぁ、お互いに紹介も終わったことだし取り合えずここから出ようか。あんまり入り浸っていると叱られてしまうからね」

何か言おうと口を開きかけたクレノを遮る形でトレイシーは言葉をかさねる。
見れば大広間には一人の部隊員の姿もなく、俺たち三人だけ残されてしまっていた。それほど長く話したつもりはなかったが、お互い話し込んでいる内に他の隊員たちは素早く大広間を後にしたようだった。
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