上 下
24 / 56
番外編(本編の内容とは少し異なります。時系列バラバラです)

④ 美味しいクッキーの作り方(料理長side)

しおりを挟む
(泣き腫らした後、手作りクッキーをゾイの元へ届ける前)




次の日、顔が風船のように真っ赤に腫れていた。
頬もそうだが、泣き腫らした目蓋はもっとひどかった。
それに喉も枯れて声が出なかった為、暫くは風邪を引いたと言う事にして、腫れが引くまで部屋に引き篭もっていた。

誰が来ても部屋に入れずに断る様にと、シンシアにお願いした。
だから誰が部屋に来たかは知らないし、知るつもりもない。
もしかしたら誰も部屋に来ていないかもしれない。
 
シンシアも何も言わないでくれた。
涙と共に心につっかえていたモノが取れて、妙にスッキリとした気分だった。


けれどずっと部屋に居ると流石に飽きてくる。
ふと、ゾイに会いたくて堪らなくなった。

シンシアに声を掛ける。


「シンシア、ゾイ様にこの間の御礼をしたいのだけど何が良いかしら」


御礼をしたくても、今の状態では何かを買うことも出来ないだろう。
あの日から父とは一度も顔を合わせていない。
となると、リオノーラの出来る事は限られてくる。


「そうですね……お花やお手紙、お菓子などは如何でしょうか?」

「シンシア、さすがだわ!お花とお菓子なら私でも出来そう」

「へ……?お嬢様、どちらへ」

「厨房を貸してもらって、クッキー作りましょう!」

「お、お嬢様が作るのですか!?」

「勿論!」

「あっ、お嬢様待ってください~!」


シンシアと共に厨房に入ると、料理人達は今までやっていた仕事を止めて、此方に釘付けになっていた。
そこら中から「我儘お嬢様だ」「最悪だ」という声が聞こえてくる。
以前まで料理にケチをつけ、偏食し放題だったリオノーラ。

(最近は残さず食べているし、料理の文句も言っていないのに……やっぱり悪い印象は中々消えないのね)

騒ぎを聞きつけて料理長が奥から出てくる。


「なんの騒ぎだ」

「リオノーラお嬢様が……」

「……ここは、お嬢様がくるところじゃないぞ」


これまた迫力のある大柄の男性が前に立ち塞がる。
シンシアは怯えたように「ひっ…」と声を上げた。
普通の子供が見たら泣き出しそうになるだろうが、普通の子供ではない為、平然と料理長の前に立っていた。


「お忙しいでしょうか?」

「…………」

「わたくし、クッキーが作りたいのです」

「……クッキーだと?」


後ろから「また我儘かよ…」と声が聞こえてくる。
確かに最近、我儘に拍車が掛かったと話題である。

クローゼットのドレスを全て入れ替えた。
高級ブティックに旦那様を連れてって、ドレスをおねだりした。
気に入らない侍女を追い出した……等々、事実ではあるがだいぶ脚色された噂話は出回っているらしい。

それでもリオノーラは否定しなかった。
事実が混じっているので下手に否定もできなかったのだ。
一番厄介なのは真実の後に積み上がっていく悪意のある嘘達だろう。
只、真っ直ぐに料理長を見ていた。


「クッキーを作って、どうするのですか?」

「お世話になった方にプレゼントしたいのです」

「……何故、クッキーを?」

「わたくしは、まだ自由に使えるお金を持っていないので何も買う事は出来ません」

「………」

「その方に、とても感謝をしています。御礼をしたくてもわたくしに出来る事は限られています。だからクッキーを作り、お花を摘んで行こうと思っています。それが今、わたくしに出来る精一杯のことなので」

「……!」


料理長は目を見開いて此方を見ている。
そしてそれを見てハッとする。

(しまったああああ!子供がこんなプレゼンじみた真似をするわけ無いのに!)



「と、どこかの本の主人公が言っていました……とさ」



無理があるだろ……と、みんなの心の声が揃った瞬間だった。
話を逸らそうと、料理の話題を振った。



「いっ、いつも美味しいご飯をありがとうございます!」

「…………」

「わたくしは玉ねぎのスープが一番好きです。あとチョコレートケーキも」

「……!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ
ファンタジー
 数年前に没落してしまった元貴族令嬢のエリーゼは、市井で逞しく生きていた。  元貴族令嬢なのに、どうして市井で逞しく生きれるのか…?それは、私には前世の記憶があるからだ。  毒親に殴られたショックで、日本人の庶民の記憶を思い出した私は、毒親を捨てて一人で生きていくことに決めたのだ。  そんな私は15歳の時、仕事終わりに赤ちゃんを見つける。 「えぇー!この赤ちゃんかわいい。天使だわ!」  こんな場所に置いておけないから、とりあえず町の孤児院に連れて行くが… 「拾ったって言っておきながら、本当はアンタが産んで育てられないからって連れてきたんだろう?  若いから育てられないなんて言うな!責任を持ちな!」  孤児院の職員からは引き取りを拒否される私…  はあ?ムカつくー!  だったら私が育ててやるわ!  しかし私は知らなかった。この赤ちゃんが、この後の私の人生に波乱を呼ぶことに…。  誤字脱字、いつも申し訳ありません。  ご都合主義です。    第15回ファンタジー小説大賞で成り上がり令嬢賞を頂きました。  ありがとうございました。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。