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番外編(その後のお話)
一緒に歩めるように(ケヴィン)
しおりを挟むケヴィンには自慢の兄がいた。
いつも笑顔で面倒見も良くて誰からも好かれている。
ケヴィンもそんなエヴァンが大好きだった。
けれど、周囲はエヴァンとケヴィンを勝手に比較する。
急にエヴァンが憎らしくなりエヴァンを避けるようになった。
それに気づいたに父であるフェリクスがケヴィンを諭すように言った。
「ケヴィン、エヴァンはね……とても重たいものを背負っているんだよ」
「重たいもの?」
「そうだよ、だからエヴァンは必死に努力して周りの期待に応えようとしている」
「…………?」
「とても疲れてしまうから、ケヴィンが助けてあげてね」
初めはフェリクスの言葉の意味が良く理解できなかった。
ケヴィンのモヤモヤした気持ちは膨らむばかりで収まってはくれない。
けれど、エヴァンが抱える"重たいもの"の正体が分かった時、ケヴィンは胸が苦しくなった。
「流石です、エヴァン様」
「エヴァン様は王太子なのですから」
「素晴らしいです、このまま頑張りましょう」
「エヴァン様はとても頭が良いですね」
エヴァンはケヴィンよりも、もっとずっと苦しくて辛いのかもしれない。
(俺がエヴァン兄を助けてあげなきゃ……!)
*
「エヴァン兄、何してるの?」
「ケヴィンか……明日の予習と地理の勉強をしているんだ」
「ふーん……」
ケヴィンは、本を沢山持っているエヴァンに声を掛けた。
今日は特にエヴァンが疲れているような気がした。
「どうしたの?」
「エヴァン兄、俺と遊ぼう……!」
「えっ?待って……勉強が!」
ケヴィンはエヴァンの手を引いた。
このままではエヴァンが壊れてしまうような気がしたからだ。
「……ケヴィン!止まって」
「あ、ジャクソンとマリクソン見っけ!行こうぜ!!」
「ちょっ!?」
ホワイトライオンのジャクソンと、テディベアサイズのマリクソンにケヴィンはダイブする。
マリクソンが苛々した様子でケヴィンの頭に齧り付く。
「やぁ、エヴァン……大きくなったね」
「デリック叔父様!」
「……うわぁ、エヴァンってフェリ兄にそっくりだね」
「あの、ユーリン叔父様……隈が酷いですよ?」
「もうすぐ新薬が出来るからね……でもこのまま帰ったらアリスに怒られるから仮眠を取りに来たんだ」
「エヴァンだって隈が酷いよ?リオノーラに見つかったらベッドに引き摺られそうだね」
「あ、本当だ。一緒に寝る?」
「……僕は大丈夫です」
首を振るエヴァンにデリックは困ったように笑った。
「子供の時は遊ぶのも仕事だよ?」
「え……?」
「息抜きしないとね、俺たちもよくここで遊んだっけ」
「…………」
「マリクソンとジャクソンを貸してあげるから、いっぱい遊んでもらいな!さて、ユーリン……もう少しだから頑張って」
「……zzz」
「まったく、久しぶりにジュリエットの所に早く帰れそうだったのに」
二人の背中を見送りながら、エヴァンは立ち尽くしていた。
「エヴァン兄!何やってんだよ、早くジャクソンとマリクソンに乗せてもらおうぜ?」
ケヴィンは大きくなったマリクソンに乗って、エヴァンが来るのを待っていた。
「で、でも……!」
「エヴァン兄、早く」
エヴァンは恐る恐るジャクソンに乗る。ジャクソンがマリクソンの元に走り出す。
エヴァンは必死にジャクソンにしがみついた。
薄っすら目を開けるとビュンビュンと動く景色に夢中になった。
「わぁ……!」
「マリクソン、行け行けーっ!」
暫く走ったあと、ジャクソンは疲れたのかゴロンと寝転んでいた。
マリクソンもケヴィンを地面に落とした。
マリクソンと木登りをしたり、ジャクソンに追いかけ回されながら、二人は時間を忘れて日が暮れるまで遊んだ。
デリックとユーリンが戻ってくる頃には、エヴァンとケヴィンの服は汚れて髪はボサボサになっていた。
「ジャクソン、マリクソン帰るよー!」
エヴァンはその言葉を聞いてハッとした。
まだ予習も地理の勉強も終わってなかったからだ。
けれど久しぶりに頭が空っぽになるまで遊んで、とてもスッキリしている事に気が付いたのだ。
「ありがとう……ジャクソン、マリクソン」
そう小さく呟いたエヴァンにジャクソンとマリクソンが擦り寄るとデリックとユーリンの元へと走って行った。
エヴァンはペコリと会釈すると、二人は手を振って去って行った。
「あーあ、服汚したらリリシアに怒られるかもな」
「……」
「でもエヴァン兄がいるから平気かなぁ」
ケヴィンはズボンに付いた土を払いながら立ち上がる。
エヴァンは、歩き出そうと足を進めたケヴィンの服の裾を掴んで引き留めた。
「……エヴァン兄?」
「ケヴィン」
「なに?」
「ありがとう」
エヴァンはポロリと流れる涙を拭いながら、笑っていた。
「おう!俺がっ、俺がいつでもエヴァン兄を助けてやるからな!安心してくれよ」
「うん、そうだね」
久しぶりにケヴィンはエヴァンと手を繋いで歩いた。
そんな二人の様子を見ていた紅い鳥が、静かに枝の上から飛び立った。
end
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