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それに幼い頃からずっと時間を共にして、国の為に尽くそうと支えてきた自分よりも、ローズマリーを選ぶのならば此方だって考えがある。

(このままで終われるわけが無いでしょう……!?パトリック殿下は今までの罰を受けるべきよッ!!)

この状況をひっくり返す為に、どんな事だってしてみせる。
幸い、自分には鍛え抜いた魔法の力がある。

手のひらをぐっと握り込んだ後に力強く日記帳を開いた。

今までローズマリーにばかり苛立っていた。
けれどこの日記を読んでいけば、パトリックも悪いのではないだろうか。
不貞行為を堂々としていて何の悪びれもなく邪魔だから追い出す。

(……最低よ)

約束を守らなければと、パトリックを信じきっていた自分が恥ずかしく思えた。
そう気付けただけで、十分価値がある。

(恥ずかしくとも、馬鹿らしくとも、わたくしは自分を信じるわ……!!)

今まで我慢していた不満はマグマのように煮えたぎっていた。

(日記にもそう書いてあったじゃない……!"その為には……死ぬ気で抗って"って)

『マデリーン』がマデリーンで居る事で、この事態を招いてしまったのなら、マデリーンが『マデリーン』でなくなれば、逆に上手くいくのではないか。

それにこのタイミングで絵本を開いたことにも、なにか意味があると思えて仕方なかった。

大きく息を吐き出した。
心臓が激しく音を立てるのがここまで聞こえてくる。
震える手でペンを取った後に感情のままに手紙を書き綴る。

パーティーのドレスを贈られなかった事。
今日、エスコートを断られた事。
学園でも二人の姿を度々目撃していた事。
そしてローズマリーとパトリックの関係に心を痛めている事を書き残した。

涙を拭うことすら忘れていた。己のプライドとの戦いだった。

(こんな事……日記を見つける前だったら絶対にしなかったわ)

恥ずかしくなり後悔が押し寄せてくる前に、急いで封筒に手紙をしまった。
動き出した理性は、やはり『やめといた方がいい』『他にやり方があるはずだ』と必死に訴えかけてくる。

この後の事が考えると、心が押し潰されるように痛んだ。

そのあとに「頭を冷やして参ります」「鍛え直して参ります」と、マイナスの意思ではない、あくまでも前向きである事を伝えるメモを残す。

家族に悲しんでほしくなかった……その為に必死だった。
皆のせいではないのだと、そう伝えたかったのかもしれない。

そっとサイドテーブルに封筒とメモを置いて、絵本は元の場所へと戻す。
あの日記帳は、誰にも見つからない場所にしまい込んだ。
ゴシゴシと目元を擦りながら涙を拭った。

そして、立ち上がった。

(……全て、捨ててしまえ。この状況を全てひっくり返す為にッ!!)

勢いよく窓を開けた。
冷たい海風が、やめろとばかりに部屋に吹き込んで髪を揺らした。
夜の海は不気味ではあるが怖くはなかった。

(わたくしなら大丈夫……!絶対に上手くいく!!)

言い聞かせるようにして胸に手を当てた。
侍女達のあの様子を見るに、また直ぐに部屋を訪れてくるに違いない。
窓は全開にしておいた方がいいだろう。

靴を脱いでから、窓の縁に立った。



ーーーそして、窓から海に向かって飛び込んだのだった。


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