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しおりを挟む(……花魔法って、こんな使い方も出来るのね。こうやって花をばら撒きながら索敵しているのかしら?)
こんな時に限って、誰も屋敷にはおらず出払っていた。
父は学園に向かい、母は父の代わりに仕事を片付けて、兄もそろそろ騎士団に顔を出さなければと出かけて行った。
午後までには帰ると言っていたが、丁度予定が被っていた。
明日は皆でマデリーンの卒業をお祝いしたいから、と従者達も大半は買い出しに出掛けていた。
「マデリーン様と会わせてくださいッ」
「どうしてもお話がしたいんです!!」
侍女や護衛達が制する言葉を無視して、一方的に投げかけられる言葉。
此方の話を聞く気がないのか、自分の話をすることに一生懸命なのかは知らないが、許可もなしに勝手に屋敷に上がるなど非常識にも程がある。
(ローズマリー様に常識を求めても仕方ないのかしら……)
それは学園で時間を共に過ごしていた時に判明している事である。
何かを言う度に「酷い」「マデリーン様は私が嫌いなんですか?」「怖いです」と言われた事を思い出す。
向こうからしたら此方が悪役なのだろうが、皆が暗黙のルールやマナーを守っている中、分からないからといって規律を破っていい訳ではない。
それに暫くはシーア侯爵邸でマナーを身につけたと本人は自慢気に言っていたが、とてもそうは思えなかった。
皆を代表して注意した事はあるが、普通ならば通じるような事も、ローズマリーには上手く伝わらない。
確かに意図が伝わらなすぎて苛々していた時もあったが、彼女はそれを直すどころか気にする様子もなかった。
しかし、そんな貴族社会では見ない型破りで天真爛漫な性格と柔らかい笑みで次々と令息達を虜にしていったのだ。
途中からはローズマリーは様々な令息に声を掛けるのをやめてパトリックに狙いを絞ったようだ。
そしてそんなローズマリーは自分のモノだと見せつけるようにパトリックは己の立場を利用して周囲を威圧していた。
国王や王妃、父や母に相談すれば、日記に書いてあるような結末になる事なく、すぐに解決出来たのだろう。
自分の立場とプライドに固執しすぎた為と、周りを頼らなかった事で相手の思う壺だったのかもしれない。
こうして落ち着いて考えたら、ローズマリーに何を言っても無駄だったとすぐ分かることだった。
こんな事を考えているうちにも隙間からはビュービューと色とりどりの花びらが部屋に流れ込んでくる。
それでも部屋に入って来ない様子を見るに、索敵に使っている訳ではなく、迷惑な事にただ感情のままに花を出しまくっているようだ。
研究室には通ってはいたようだが、己の魔力や魔法を高めている様子はなかった。
それよりもパトリックと共に居ることや、令息達との時間を重要視しているように見えた。
故に花と花びらを出すこと以外はまだ出来ないと聞いたが、やはり今も自分の意思はあまり関係なく、感情に左右されるそうだ。
(…………買い被りすぎだったわね)
こうなる前は"ローズマリー"という存在にずっと振り回されていた。
もっと冷静になっていれば、と今になって思っていた。
(わたくしもまだまだね……)
それにこれ以上放っておけば、屋敷が花で埋め尽くされてしまうだろう。
ローズマリーと会う事は面倒の一言に尽きるが、大好きな侍女達や大切な護衛達に、これ以上迷惑を掛け続けるのは気が引けた。
(屋敷が花だらけ……)
彼女の頭には"人の迷惑になる"という言葉は存在しないのだろう。
今日、改めてローズマリーの性格を再確認したところで、扉に手を伸ばす。
(今度は負けないわ……!)
二度も同じ失敗を繰り返すつもりはない。
それに以前とは違って今、『マデリーン』は『記憶喪失中』なのだ。
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