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しおりを挟む「わ、わたくし………」
「……ゆっくりでいい」
ウォルリナ公爵がマデリーンの様子を見兼ねて側にあった椅子に腰を掛けてから優しく背を撫でる。
「本当にいいのでしょうか……?」
いいだろう?と確認するようなウォルリナ公爵の視線に、ゴクリと唾を飲み込んだ後に首を縦に振る。
「今日、初めてパトリック殿下とお会いしたのですが、何と言ったらいいか分かりませんが……」
「……」
「……」
「嫌悪感で胸がいっぱいですッ!!」
「ーーーは!?」
「お顔を拝見しているだけでも、胃がムカムカして……吐き気がします」
そう言ってマデリーンは真っ青な顔をして口元を押さえた。
さすがにそれには怒ることも反論することも忘れて、言葉が出ずに固まっていた。
マデリーンは体をガタガタと震わせて怯えるようにして、ウォルリナ公爵の腕にしがみ付いている。
「すごく嫌な気持ちで………っ、涙が出そうになるのです!!何故でしょうか!?」
「なっ……!」
「それに腹立たしい気持ちと、苛立ちが湧き上がってくるのです…………どうして?わたくし達は、本当に婚約関係だったのでしょうか?」
「!?」
「…………マデリーン」
「こんな事を申し上げるのは失礼かもしれませんが、なるべくこの方と顔を合わせたくありませんわ……!」
「なるほどな……記憶になくとも、マデリーンは殿下の事を嫌っていたのか。顔も見たくない程に……!!」
「ちょっ……待ってくださいッ!マデリーンとはッ」
「ひっ……!」
「…………ぁ」
強く声を上げた瞬間……瞳に涙を溜めたマデリーンはウォルリナ公爵に縋り付くように服を掴んで顔を埋めてしまった。
ウォルリナ公爵は冷たく殺伐としている印象しかなかったが、今はどうだろうか。
マデリーンの頭を撫でて、心配そうに抱きしめているではないか。
(……一体、何が起こっているんだ?)
マデリーンに「無礼だぞ」と怒ることも忘れて、ただ次々に溢れ出てくる拒絶の言葉を聞きながら呆然とするしかなかった。
(俺は……マデリーンにこんなにも嫌われていたというのか?記憶がないのにも関わらずに拒否する程に……)
煩いマデリーンと話すことが嫌で、最近では必要なこと以外で会話をすることもなかった。
それにいくら邪険に扱っても、文句を言ったとしてもマデリーンは側から離れようとしなかった。
だからマデリーンは自分の事を好いているのだと無意識に思っていた。
しかし、実際はどうだろうか。
「吐き気がする」「嫌な気持ち」「腹立たしい」「苛立ち」
もし、今の発言がマデリーンの本音だとするならば、ずっと内心では拒絶していた事になる。
顔も見たくないどころか吐き気を及ぼす程に……。
(そんな事は一度も言ったことはなかったじゃないか……!!別に、こんな事は……こんな事って)
マデリーンにこんなにも嫌われていたのだと思うと、正直なところ驚きを隠せなかった。
(じゃあ何故今まで嫌だと言わなかった……!?何も言わなかったくせに今更……!!)
そんな筈はない……けれど面と向かって涙を流しながら言われてしまえば、これがマデリーンの本音に思えて仕方なかった。
ゆっくりと顔を上げたマデリーンは申し訳なさそうに此方を見ている。
「初対面の方にこんな暴言を……でも、何故か我慢出来なかったのです」
「……いいんだよ、マデリーン。我慢するのは良くないと言っただろう?ゆっくりでいいから話しておくれ」
マデリーンはその言葉を聞いて、ゆっくりと頷いた。
そして涙を拭った後に此方に向かって軽く頭を下げた。
「あの……パトリック殿下。不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」
「ぁ、……!!」
反論しようと唇を動かそうとすると、遮るようにウォルリナ公爵が言葉を被せる。
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