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婚約者として恥じぬように。自慢の娘として誇ってもらえるように。
そう思えば思うほどに空回りしてはいたのではないだろうか。

今まで積み上げてきたものを無駄にしたくはなかった。
しかし、どんどんと今の自分が嫌いになっていく。
肩を寄せて家族と共に抱き合っている姿を思い出しては涙が溢れ出しそうになる。

昔は上手く甘えられたはずなのに、今はもう……。

これだけ頑張っても報われない。その気持ちが心に影を落とす。

次の日記帳を取り出そうと引き出しの中を探っていると、指にコツンと何かが当たる。

(何かしら、このボロボロの本……)

部屋にミスマッチな古びた本を引き出しの中から取り出した。
汚れている本の表紙をそっと撫でた。
懸命に記憶を手繰り寄せてもコレが何なのかは分からない。
しかし今、書いている日記帳が丁度こんな感じの色だったと思い、引き出しに手を伸ばして探してみるが見当たらない。

(どうして……!?昨日も日記を書いたはずなのに)

汚れた表紙に染み込んでいる涙のような染みを見ていると、嫌な気持ちが込み上げてくる。
恐怖と不安があるものの、何故かその本が気になって仕方なかった。
背筋がゾワリとするような不思議な感覚に襲われた。
恐る恐る中を開くと、そこには日付と文字が書かれていた。


「え……?」


それを見て、驚きから掠れた声が漏れる。
そして、この不思議な日記を見つけることによって人生が百八十度変化してしまうとは、この時は夢にも思わないままページを開いた。


「これって……まさか」


そんな筈はないと、勢いよく本を閉じる。
首を横に振ってから「あり得ないわ」と呟いた。
今すぐその不気味な日記張を窓から海に投げ捨てよう手を振り上げた時だった。


ーータスケテ、オネガイ


日記帳から、そんな声が聞こえた気がした。
まさか、と自分の耳を疑った。
誰かが悪戯しているのかと思ったが、ここまで手の込んだ嫌がらせを思いつくだろうか。

日記帳をすり替えたり、声を吹き込んだりすることはできる訳がないと思った。
もしあったとしても何を目的にこんな事をするのか、理由が分からない。
ここの屋敷には昔から父が厳選した信用出来る使用人しかいないはずなのに……。

捨てようとした日記帳に再び視線を送り、自らを落ち着かせるようにサイドテーブルにそっと置いてから距離を取る。
疲れているだけかもしれないと背を向けるけれど、どうしても気になってしまいチラリと日記帳に視線を送った。

汗ばむ手を拭いてから、震える手で日記帳を開いた。


「な、に……これ…………っ、わたくしが!?」


そこには「未来に起こる事」が書き込まれていた。
そして、この日記帳を書き込んだのは信じられない事に自分自身だと気付いた瞬間、息を止めた。

(間違いない。わたくしの字だわ……!)

勿論、未来予測をした日記を書いた記憶などない。
指先が震えて上手く動かないなか、恐る恐るページを捲っていくと他のページとは違い、殴り書きのように書かれている部分があった。


ーーー今、この日記を見つけた貴女は幸運よ……!

信じられないかもしれないけど、これは今から起こる事なの。

マデリーン……今日貴女はパトリック殿下から卒業パーティーに一緒に出席出来ないと言われて、悔しさに耐えながら思い悩んでいる頃でしょうね。
それか昔の日記帳を見て落ち込んでいる頃かしら。

でもね、貴女は今日から一週間後の卒業パーティーでパトリック殿下から一方的に婚約を破棄されるわ。

これはもう変わりようがない"運命"なのよ!!
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