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第二章 白いユリ
⑧ 変化したものは
しおりを挟むわたしが頷くと凛々ちゃんは黒いユリが入った花瓶を持って、わたしと夏希ちゃんを手招きする。
わたしたちは凛々ちゃんに着いていくことにした。
トイレ近くの階段の裏に三人で向き合うようにして立っていた。
凛々ちゃんは花瓶をギュッと握りながら口を開いた。
「この花……本当は真っ白なユリだったの」
「え……? でも今は真っ黒だよ?」
「わかっているわよ! だんだん黒くなって怖くなったから学校に持ってきたんじゃないっ」
凛々ちゃんは不安なのだろうか。
目にはだんだんと涙が溜まっていく。
「こんなことなら花なんてもらわなきゃよかったのよ! あの子、嘘ばっかりっ」
「もしかして、何か言われたの?」
「このユリを持っていたら、あなたの望むものが手に入るって……そう言われたから受け取ったのに!」
「……凛々ちゃん」
「でも、どんどん花は真っ黒になっていくし……あの子、本当に最悪なんだけどっ!」
そう言った凛々ちゃんがその場で床を踏みつけるようにして、怒っているようだ。
しかしそれと同時に花瓶に生けているユリがさらに煙と共に黒くなったような気がした。
「今……ユリがもっと黒くなったんじゃない?」
「うん、わたしも見た。黒くなったよね?」
「気持ち悪いっ、地獄に堕ちろ」
凛々ちゃんがそう言うと、また黒い煙がユリを包み込んで花びらが黒くなっていく。
「もしかして、凛々ちゃんが悪口を言うたびに黒くなるんじゃない?」
「そうかも! こわすぎじゃない?」
どうやら凛々ちゃんが花子さんの〝悪口〟を言ったから、ユリの花が黒くなったみたい。
そして花子さんが言っていたことも思い出す。
「もしかして呪いって悪口のことなのかな……」
「呪いって、どういうこと!?」
凛々ちゃんが驚きながら、わたしに迫ってくる。
わたしは凛々ちゃんに黒ユリと白ユリの花言葉を説明する。
それから花子さんに会ったことを話した。
「花子さんって、トイレの花子さんのこと? なんで花なんか配っているのよ!」
「それはわからないけど……凛々ちゃんは花子さんと話さなかったの?」
「あの子が花子さんだなんて思わなかったから……」
凛々ちゃんはグッと手のひらを握りながら考えているようだ。
「……っ!」
「凛々ってば、悪口ばっかり言っているからこんなことに……」
夏希ちゃんの言葉に凛々ちゃんは、顔を真っ赤にして眉を吊り上げている。
そして夏希ちゃんの肩を押して叫ぶように言った。
「うるさいっ、余計なお世話よ」
「いたっ! ちょっと凛々、何すんのよ!」
「もう見ないでよ。あんたたちに関係ないでしょ!」
夏希ちゃんは壁に背をぶつけてしまった。
「夏希ちゃん、大丈夫?」
「背中がすごく痛いんだけどっ!」
夏希ちゃんの心配していると、凛々ちゃんはユリが入った花瓶を持って走って行ってしまった。
わたしは、カンカンに怒っている夏希ちゃんを連れて教室に戻る。
夏希ちゃんはわたしの席に座って怒っていた。
夏希ちゃんは「心配してあげたのに信じられない!」と、唇を尖がらせている。
机を叩いたせいで後ろの席の机にぶつかってしまう。
そこには本を読んでいる冬馬くんの姿があった。
「ごめんね、冬馬くん」
「小春……夏希はどうして怒っているんだ?」
「えっと、隣のクラスの凛々ちゃんと色々あって」
「……ふーん」
冬馬くんは、いつも一人で本を読んでいる。
その本が少し変わっているんだ。
あまり喋らないけど、静かで大人っぽいからと一部の女子からは人気があるんだって。
わたしたちは冬馬くんと昔から一緒にいるから、怒っているとか嬉しそうとかわかるけど、他の人にはわからないみたい。
今は夏希ちゃんを心配して驚いている。
ふと、冬馬くんが読んでいる本が目に入る。
そこには怖そうな真っ黒な表紙にお化けが映っている。
「冬馬くん、何読んでるの?」
「これ……? 幽霊に呪われた人が次々と呪い殺される話」
「そ、そうなんだ」
聞いただけで怖そうだ。
「もう読み終わるところ。小春も読む?」
「ううん、わたしは怖いのは苦手だから大丈夫」
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