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第一章 花屋の花子さん
③ 暗闇
しおりを挟む──次の日
今日はクラブも委員会も夏希ちゃんの習い事もない。
学校が終わってから宿題をして、お店に立ってお花で花束を作っているお母さんに声をかけた。
お母さんは魔法使いみたいに、色とりどりの花束をまとめていく。
「お母さん、宿題おわったから夏希ちゃんといつもの公園で遊んでくるね」
「わかったわ! お店が閉まる五時までには帰ってくるのよ」
「は、はーい」
いつものように公園に遊びにいってくると言ったけど、本当は夏希ちゃんと今から旧校舎に向かう。
緊張しているからか胸がドキドキした。
でも怖くないから大丈夫だと言い聞かせて家を飛び出した。
すこし離れた場所には夏希ちゃんがにっこりと笑いながら手を振っている。
わたしは急いで夏希ちゃんの元に向かった。
「夏希ちゃん、おまたせ!」
「おそいよ、小春! はやくいこう」
「うん、ごめんね」
「間に合わなかったら大変だもん!」
夏希ちゃんはわたしの手をつかんで走り出した。
わたしは夏希ちゃんについていくのが大変で「ちょっと待って! 早すぎるよ~」と声をかけた。
空はすっかりとオレンジ色になっていて、太陽がかたむいていく。
毎朝通っているはずの通学路なのに、いつもとは違って見えた。
あっというまに旧校舎について裏口にむかった。
夏希ちゃんの言っていたとおり、旧校舎の裏門のカギは開いていた。
鎖を外してサビている真っ黒なフェンスを開ける。
キィ……と不気味な音。
簡単に旧校舎の中に入ることができた。
夏希ちゃんは草がわさわさと生えている道をどんどんと進んでいく。
わたしも追いかけようとした時だった。
すると左側で真っ赤な古い扉が自然とひらいている。
夏希ちゃんは「ラッキー」と言ったけれど、わたしは何かに導かれているようで怖かった。
足が動かなくなって、その場で立ち止まっていると夏希ちゃんがこちらを振り返る。
「小春? なにしてるの?」
「夏希ちゃん、こんなところに赤い扉なんてあったっけ?」
「私たちが知るわけないじゃん! 旧校舎なんだから」
「そうだけど、やっぱり変だよ!」
わたしは夏希ちゃんに手を掴まれたれて、一緒に開いている真っ赤な扉から入った。
──バタンッ!
触っていないのに勝手に真っ赤な扉が閉まったことに驚いていた。
夏希ちゃんは気にならないのか、赤い扉からどんどんと前に進んでいく。
わたしは慌てて夏希ちゃんを追いかけていく。
建物の中は真っ暗で、窓から少しだけ光がはいってくる。
一歩足をふみだすと、こげ茶色の床がギシと不気味な音をたてた。
「うわぁ……めちゃくちゃボロボロだね」
「う、うん」
「今にも壊れちゃいそう」
わたしはこんなに怖いのに、夏希ちゃんは平気な顔だ。
今すぐにここから逃げだしたいほどに。
けど、夏希ちゃんに手を引かれるまま震えそうになる足を動かしていた。
階段を一段、また一段と上がっていく。
目的地は三階の女子トイレだ。
ミシ、ミシと音を立てる階段は、今通っている学校の校舎とは全然違う。
ホコリっぽい匂いと、二人の足音だけが耳に聞こえた。
「なんだかワクワクするね!」
「えっ……あ、うん」
夏希ちゃんの言葉に首をタテに動かしてうなずいた。
でも、ワクワクというよりはドキドキして心臓が飛び出してしまいそう。
三階までついて、わたしは乱れた息を整えていた。
運動が得意な夏希ちゃんとちがって、わたしは体を動かすことが少しだけ苦手。
わたしは足も遅いから、いつも秋斗くんにからかわれている。
わたしは怖い気持ちを押さえて、深呼吸してから顔を上げた。
廊下の向こう側は見えなくて、なんだか暗闇に吸い込まれてしまいそうだ。
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