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"全く興味がない"それだけだった
⑧
しおりを挟むミケーレの目が大きく見開かれる。
そこには今までのソフィーアの姿が嘘のように輝く美女が立っていた。
薔薇のように華やかであり、宝石のように艶やか。
ミケーレは驚き、そして魅入られたようにソフィーアから目が離せないでいた。
ソフィーアはクスリと笑みを浮かべた。
「あら、辛気臭い顔をしている方がいると思いきや元婚約者のミケーレ様では?」
「ぁ‥」
「ランドリゲス公爵様、ソリッド様‥お待たせして申し訳ございません。準備に手間取ってしまいましたの」
「相変わらずだな、ソフィーア」
「‥‥ソフィーア、君は本当に美しい」
「恐れ入ります」
ランドリゲス公爵とソリッドの瞳と声には明らかに熱を孕んでいる。
それは誰が見ても分かる程に。
そんな2人を見て驚いていたミケーレはハッとして、すぐさまソフィーアに問いかける。
「――何故、俺に素顔を隠していたんだッ!?」
「‥‥」
「父上も兄様も知っていたのか‥?どうして俺には黙っていたんだッ!」
ミケーレが声を上げる。
それを聞いたランドリゲス公爵が静かに口を開いた。
「‥‥それは我々がソフィーアに頼んだのだ」
「は‥?」
「お前も分かるだろう?この美貌で外に出たらどうなるか‥‥間違いなくお前の手に負えまい」
「‥そ、んな」
ランドリゲス公爵がソフィーアに執着する理由。
それはソフィーアの祖母にあった。
祖母はそれはそれは美しい女性だった。
そして、とても珍しい魔法を使った。
男性を虜にしていたソフィーアの祖母は、ランドリゲス公爵世代にとっては憧れだったのかもしれない。
一度、彼女を目にしてしまえば虜になってしまう。
『ベルタのダイアモンド』『ベルタの月の魔女』
ソフィーアの祖母はそう呼ばれ、"傾国の美女"の名を欲しいままにしていた。
他国の王族からも結婚の申し込みが来ていた。
そしてレンドルター伯爵家に嫁いだことをキッカケに、あっさりと表舞台から姿を消した。
そしてレンドルター伯爵を生涯愛し抜いたことにより更に評判は上がり『ベルタのダイアモンド』として名を残すこととなった。
そんな祖母の美貌と魔法を全て受け継いだのがソフィーアだった。
ベルタのダイアモンドの"再来"。
ソフィーアの祖母を知る何人もの貴族達がソフィーアが幼い頃から婚約を申し込みに来た。
ずっとソフィーアの祖母に憧れていたランドリゲス公爵は、ソリッドとの婚約を直様打診して見事その権利を勝ち取った。
そしてソフィーアは誰の目にも留まらぬように、公爵家によって大切に大切に隠されてきたのだった。
そしてソリッドの独占欲は常軌を逸していた。
弟であるミケーレですら、ソフィーアと会ったことはなかった。
結婚までは外に出せないと、不自由な生活を強いられていたのだ。
だからミケーレとの婚約者として話が持ち上がった際、ランドリゲス公爵家から逃れたくも逃れられないレンドルター伯爵家とソフィーアはある条件を出した。
「私を外に出してください」と。
その条件を呑む代わりに公爵から出されたのは「その美貌をできる限り隠すこと」だった。
ソフィーアは喜んでその条件を呑み込んだ。
ソフィーアには念願の自由が与えられた。
ランドリゲス公爵とソリッドの隙をついて、逃げ道を模索できるようになったのだ。
父の仕事の手伝いという名目でソフィーアは動き回り策を練り、今日を迎えることができた。
ここからはソフィーアが逃げ切るか、ランドリゲス公爵とソリッドがソフィーアを囲みきるか。
―――答えは決まっている。
ランドリゲス公爵は間違いを犯した。
ミケーレをソフィーアの婚約者にしたことで、もう勝負はついている。
(勝ちが決まった勝負程、気楽なものはないわね)
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