【短編集】

●やきいもほくほく●

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ふしぎの国の悪役令嬢はざまぁされたって構わない!〜超塩対応だった婚約者が溺愛してくるなんて聞いていませんけど!〜

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何故かめちゃくちゃ怒っているマスクウェルにゴクリと鳴る喉。
至近距離にいるマスクウェルに耐えられずに、ファビオラの体から力が抜けてしまう。
マスクウェルはファビオラの腰に腕を回して、もう片方の腕を掴んでいる。
更にマスクウェルと距離が近い。


「わ、わっわたくし、余所見なんてしていませんからぁあぁ!この世界に来てから、マスクウェル殿下一筋ですっ」

「ふーん。でも僕はトレイヴォンと街で買い物しているのを見た。仲睦まじく寄り添っていたぞ?」

「あっ……!それは」

「それは……?」

「マスクウェル殿下のドレスに似合う髪飾りを探していたんです!」


そう言ってファビオラが顔を赤くすると、マスクウェルはその表情を見て目を見開いている。


「半年前に僕と別れた後はトレイヴォンと結婚すると言っていたじゃないか」

「そ、それはマスクウェル殿下の幸せを見届けた後の話で……」

「僕は君を手放すつもりはない」

「なっ……!?」


マスクウェルの琥珀色の瞳と目があった。
彼は冗談ではなく、本気でそう言っているのだと気づく。
しかし本気になればなるほどに失うことが怖い。
ヒロインと出会った後に、辛くなってしまうし、笑って送り出すことができなくなってしまう。


「いいえ、マスクウェル殿下は他の人を好きになるんです……!」

「ならない」

「……っ、どうしてそう言い切れるんですか!?」

「それはファビオラが好きだからだろう?」

「でもシナリオでは……っ!」

「シナリオ……?シナリオって何?」

「はっ……!」


ファビオラは口元を押さえた。
しかしマスクウェルは追求するように迫ってくる。
黙っていようと思っていたファビオラだったが耳元でマスクウェルに「僕にはなんでも話そうね?秘密はなしだよ」と言われて首がもげそうなほどに頷いた。
自分でも思うが相変わらずチョロい。

トレイヴォンに話したように、マスクウェルに内容を話していく。
彼は髪をグシャリと掻き乱した後に溜息を吐いた。


「そのシナリオを君は信じているからこんな風に思い込んでいるのか?僕はそんなものに振り回されていたってこと?」

「でもマスクウェル殿下は……っ、学園でアリス様と再会して恋に落ちるんです!」

「そんな不確定要素は信じないよ。それにアリスを好きになるなんてありえない」

「学園に入ったらわからないじゃありませんか!」

「トレイヴォンだってならなかったろう?」

「それは……そうですけれど」

「はぁ…………」


ファビオラが人差し指を合わせながらツンツンしているとマスクウェルは額を押さえながら深いため息を吐いている。
オロオロしているファビオラはハッとして顔を上げる。
それに気のせいでなければ先程、マスクウェルに『僕を選んでよ』と言われたのではなかっただろうか?

(も、もしかしてマスクウェル殿下はわたくしのことを好いてくれていたの!?)

右往左往するファビオラとは違い、肩を落として何かを考え込んでいるマスクウェル。
彼が顔を上げたのと同時に、肩を揺らした。


「君の言い分はわかった」

「信じてくれるのですか!?」

「ああ。要は学園に通って僕の気持ちが変わらなければ、君は安心して僕との関係を考えてくれるのかな」

「……そ、そうなんですか?」

「そうだよ」


何故か話がよくわからない方向にいっているような気もするが、ファビオラへとりあえず頷いた。
あんなにも塩対応だった婚約者が、今はちょっぴり甘いように感じる。
それにひしひしと伝わるマスクウェルのファビオラへの気持ち。

(今までのことが気のせいじゃなかったら……?)

マスクウェルは満足したのかファビオラから体を離した。
やっと距離が離れたことに安心してファビオラは息を吐き出した。

こちらに手を伸ばした彼は先程とは打って変わって機嫌がよさそうだ。
今日のマスクウェルは怒ったり、悲しんだり、溜息を吐いたりと随分と色々な表情を見せてくれる。
ドキドキとした胸を押さえながら汗ばんだ手ではよくないからとドレスで拭ってから彼の手を掴んだ。


「もう遠慮する必要はなさそうだね」

「……?」

「僕のことは好き?」

「も、もちろん!」

「そう、なら両思いだね」

「りょ……!?」

「学園が楽しみだな」


放心状態のファビオラを再び抱き抱えたマスクウェルは会場に戻る。
珍しく柔らかい表情でファビオラを見ているマスクウェルの姿に会場は静まり返っていく。
トレイヴォンも心配そうにこちらを見ている。
そんなトレイヴォンに手を振ろうとするが、マスクウェルは微笑みながら、ファビオラの手をスッと下ろされてしまった。


「婚約者の前で他の男に手を振らないでくれ」

「あっ、あっ、え……?」


ファビオラはどこか吹っ切った様子のマスクウェルに押されっぱなしである。
顔が茹蛸のように真っ赤になっている。

(どうしてこうなった……?)

ファビオラはカチカチに固まっていた。
その後もマスクウェルとの距離は縮まっていく。
スッと顎を掴まれて、叫び出しそうになるのを堪えていた。


「……ファビオラ」


近づく唇……ファビオラは思った。
今、マスクウェルとキスをしたら白目を剥いて気絶する自信がある。


「───ッッッ!?!?」


考え込んでいるとマスクウェルの柔らかい唇が触れる。
間近にある琥珀色の瞳を見つめたまま、ファビオラはマスクウェルの腕の中で気を失ったのだった。








end
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