27 / 82
元婚約者がよりを戻そうと押しかけて来ましたが……わたくし、もう結婚してますけど
①
しおりを挟む
「―――カサンドラ、お前とよりを戻してやろう」
いきなり連絡もなしに屋敷にやって来たのは元婚約者……ビズレッド伯爵家の嫡男であるエイヴリーである。
その後ろからは困惑した表情を浮かべる侍女や執事達の姿があった。
心配そうに此方を見ている。
興奮しているのか、エイヴリーは目を見開きながら此方を見ていた。
「は……?」
開口一番……あまりに馬鹿馬鹿しい発言に、この言葉しか出てこなかった。
そして何を思ったのかは知らないが、思いもよらない言葉がエイヴリーの口から飛び出した。
「寂しかっただろう?俺がお前を振ったせいで俺を忘れられなかった事だろう………悲しい想いをさせて悪かった」
「……」
「しかし、今日からはまた俺が側にいてやるから安心しろ?父上と母上にはもう話してあるんだ!なんて優しい息子なのだと褒められたよ」
「……」
「さぁ、早く手続きをしようじゃないか!もう泣く必要はない……愛しい婚約者が戻ってきたのだから」
怒りを通り越して呆れてしまい、何も言葉が出てこなかった。
ただ、目の前でペラペラと意味の分からない言葉を話している勘違い野郎の顔を殴り飛ばしてやりたいと思った。
(どういう思考回路なの……?)
スッ…と自分の手首を押さえて、殴りたい衝動に耐えていた。
そして、こんな男を心から愛していた自分を恥じた。
「―――カサンドラ、またお前を愛してやるからな」
頭の中の何かがプチンと切れた。
カサンドラはニッコリと笑顔を浮かべて、エイヴリーに優しく諭すように言った。
「わたくし、もう結婚してますけど……?」
「……え?」
エイヴリーの間抜けな顔に少しだけ心が晴れやかになった。
*
カサンドラ・メレゼ。
メレゼ子爵の次女であるカサンドラは、ある日……夜会で出会った一人の令息と運命的な恋をした。
それがエイヴリー・ビズレッドだった。
燃え上がるような恋をしたエイヴリーとカサンドラは勢いのままに婚約した。
エイヴリーとカサンドラの愛は、誰にも止められないほどに熱かった。
「カサンドラ……お前と出会えて本当に嬉しい」
「わたくしも嬉しいです!エイヴリー様…」
「一目見た時から運命の相手は、カサンドラしかいないと気付いてしまったんだ!」
「エイヴリー様」
「愛してるよ」
二人の関係は順調だった……少なくともカサンドラはそう思っていた。
けれど時間と共に、徐々にエイヴリーのカサンドラに対する興味と愛情が薄れていくのを感じていた。
それでもカサンドラはエイヴリーを信じていた。
しかし、カサンドラがエイヴリーをお茶や買い物に誘っても、断られる事が増えていった。
次第にエイヴリーと会う時間は減っていった。
そしてカサンドラが出した手紙の返事が来るのも、間が空いていくようになった。
酷い時は返ってこない事もあった。
「最近、忙しいんだ」
そう言われてしまえば、カサンドラは何も言えなくなった。
(不安だわ……)
カサンドラの胸騒ぎは日に日に大きくなっていく。
カサンドラが果たしてこのままでいいのかと思い悩んでいた時だった。
(エイヴリー様としっかり話をしましょう!二人で幸せを掴まなくちゃ……)
そんな勢いで、ビズレッド伯爵家に向かったカサンドラは信じられないものを目にする事となる。
カサンドラが屋敷に入ろうとすると、何故か焦る侍女達。
「少々、お待ちください……カサンドラ様」
「中に入れて頂戴」
「エイヴリー様は今、お出掛けに…」
「…!!」
嘘をついているのだと、直ぐに理解出来た。
カサンドラの心臓は激しく脈打っていた。
カサンドラは急いで屋敷の中へと入った。
そこにはエイヴリーの姿はなかった。
(良かった……わたくしの気の所為だったのね)
カサンドラが安心して、帰ろうとした時だった。
男女が楽しそうに話す声がカサンドラの耳に届いた。
カサンドラは声を頼りに、その場所を恐る恐る覗き込んだ。
「……!!?」
いきなり連絡もなしに屋敷にやって来たのは元婚約者……ビズレッド伯爵家の嫡男であるエイヴリーである。
その後ろからは困惑した表情を浮かべる侍女や執事達の姿があった。
心配そうに此方を見ている。
興奮しているのか、エイヴリーは目を見開きながら此方を見ていた。
「は……?」
開口一番……あまりに馬鹿馬鹿しい発言に、この言葉しか出てこなかった。
そして何を思ったのかは知らないが、思いもよらない言葉がエイヴリーの口から飛び出した。
「寂しかっただろう?俺がお前を振ったせいで俺を忘れられなかった事だろう………悲しい想いをさせて悪かった」
「……」
「しかし、今日からはまた俺が側にいてやるから安心しろ?父上と母上にはもう話してあるんだ!なんて優しい息子なのだと褒められたよ」
「……」
「さぁ、早く手続きをしようじゃないか!もう泣く必要はない……愛しい婚約者が戻ってきたのだから」
怒りを通り越して呆れてしまい、何も言葉が出てこなかった。
ただ、目の前でペラペラと意味の分からない言葉を話している勘違い野郎の顔を殴り飛ばしてやりたいと思った。
(どういう思考回路なの……?)
スッ…と自分の手首を押さえて、殴りたい衝動に耐えていた。
そして、こんな男を心から愛していた自分を恥じた。
「―――カサンドラ、またお前を愛してやるからな」
頭の中の何かがプチンと切れた。
カサンドラはニッコリと笑顔を浮かべて、エイヴリーに優しく諭すように言った。
「わたくし、もう結婚してますけど……?」
「……え?」
エイヴリーの間抜けな顔に少しだけ心が晴れやかになった。
*
カサンドラ・メレゼ。
メレゼ子爵の次女であるカサンドラは、ある日……夜会で出会った一人の令息と運命的な恋をした。
それがエイヴリー・ビズレッドだった。
燃え上がるような恋をしたエイヴリーとカサンドラは勢いのままに婚約した。
エイヴリーとカサンドラの愛は、誰にも止められないほどに熱かった。
「カサンドラ……お前と出会えて本当に嬉しい」
「わたくしも嬉しいです!エイヴリー様…」
「一目見た時から運命の相手は、カサンドラしかいないと気付いてしまったんだ!」
「エイヴリー様」
「愛してるよ」
二人の関係は順調だった……少なくともカサンドラはそう思っていた。
けれど時間と共に、徐々にエイヴリーのカサンドラに対する興味と愛情が薄れていくのを感じていた。
それでもカサンドラはエイヴリーを信じていた。
しかし、カサンドラがエイヴリーをお茶や買い物に誘っても、断られる事が増えていった。
次第にエイヴリーと会う時間は減っていった。
そしてカサンドラが出した手紙の返事が来るのも、間が空いていくようになった。
酷い時は返ってこない事もあった。
「最近、忙しいんだ」
そう言われてしまえば、カサンドラは何も言えなくなった。
(不安だわ……)
カサンドラの胸騒ぎは日に日に大きくなっていく。
カサンドラが果たしてこのままでいいのかと思い悩んでいた時だった。
(エイヴリー様としっかり話をしましょう!二人で幸せを掴まなくちゃ……)
そんな勢いで、ビズレッド伯爵家に向かったカサンドラは信じられないものを目にする事となる。
カサンドラが屋敷に入ろうとすると、何故か焦る侍女達。
「少々、お待ちください……カサンドラ様」
「中に入れて頂戴」
「エイヴリー様は今、お出掛けに…」
「…!!」
嘘をついているのだと、直ぐに理解出来た。
カサンドラの心臓は激しく脈打っていた。
カサンドラは急いで屋敷の中へと入った。
そこにはエイヴリーの姿はなかった。
(良かった……わたくしの気の所為だったのね)
カサンドラが安心して、帰ろうとした時だった。
男女が楽しそうに話す声がカサンドラの耳に届いた。
カサンドラは声を頼りに、その場所を恐る恐る覗き込んだ。
「……!!?」
213
お気に入りに追加
2,069
あなたにおすすめの小説
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
妹の妊娠と未来への絆
アソビのココロ
恋愛
「私のお腹の中にはフレディ様の赤ちゃんがいるんです!」
オードリー・グリーンスパン侯爵令嬢は、美貌の貴公子として知られる侯爵令息フレディ・ヴァンデグリフトと婚約寸前だった。しかしオードリーの妹ビヴァリーがフレディと一夜をともにし、妊娠してしまう。よくできた令嬢と評価されているオードリーの下した裁定とは?
王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる