【短編集】

●やきいもほくほく●

文字の大きさ
上 下
20 / 82
ヤンデレ令嬢、大好きだった婚約者とサヨナラします!

①①

しおりを挟む



マーヴィンが持っていたソーサーとカップがカチャリと音を立てた。




「は‥‥?」




マーヴィンはベアトリスが言っている言葉の意味が上手く理解出来ないのだろうか。
動きを止めたままベアトリスを見つめている。


「婚約破棄致しましょう、と言ったのです」

「‥‥」


突然、ベアトリスから"婚約破棄"と言われたマーヴィンは、状況を把握出来ないのか押し黙ってしまった。

ベアトリスは溜息を吐いた。

多少覚悟はしていたが、やはりマーヴィンの反応はベアトリスが思っていた通り鈍いものだった。
ベアトリスは今のマーヴィンにも分かるように言い直す。


「わたくし、マーヴィン様が大嫌いになりましたの」

「‥‥な」


そしてベアトリスはわざわざマーヴィンが分かりやすいように「大嫌い」だから「婚約破棄」したいと伝え直したのである。


「‥‥」

「‥‥」


いくら待っても何も言わないマーヴィンに痺れを切らしたベアトリスは、問いかけるように口を開いた。


「マーヴィン様がずっと望んでいた事ですから、勿論‥拒否など致しませんよね?」

「‥‥なぜ」

「何故ですって?御自分のだらしない下半身と浅慮な頭に聞いてくださいませ」

「‥‥」

「そのままの意味ですわ」


ベアトリスの嫌味すらも聞こえていないのか、マーヴィンは瞳を揺らしながら「なぜ」「なにを」と繰り返しながら呟いている。

自分が婚約破棄を告げられて納得出来ないのか、はたまた頭がついていかないのか。

マーヴィンが顔を上げたかと思いきや、口から出てきたのは有り得ない言葉だった。


「‥‥そ、そうやって、俺の気を引きたいからと嘘ばかり言って!」

「嘘ですって‥?」

「っ、そうだ!お前がそんな事を俺に言う筈ないだろうが!!」

「‥‥はぁっ!?」


捻くれた解釈を始めたマーヴィンに、ベアトリスは苛立ちを噛み締める。

(今、お前の前で言ってるだろうが‥!!)

マーヴィンに「死ぬほど嫌い」だと言われたベアトリスが「なら婚約破棄しましょう」と言う事で、マーヴィンの気持ちを自分に向けようとしているとでも思ってるのだろうか。

(自分は嫌い嫌い言ってる癖に、いざ相手に拒否されたら狼狽えるなんて笑っちゃうわ)

どうやらマーヴィンはベアトリスの言葉を"気を引くための嘘"として捉える事にしたようだ。
そのまま素直に婚約破棄を受け入れるつもりはないらしい。


「それで?この俺を脅しているつもりか!?卑怯者めッ」

「卑怯だったのはどっちかしら」

「お前に決まってる‥!俺の自由を奪っておいて!!」


サラリと言い放ったマーヴィンにベアトリスは目を剥いた。

マーヴィンはベアトリスと婚約した事で自由が奪われたと思っていたようだ。
ベアトリスが鬱陶しいのもあっただろうが、主な原因は自分が楽しく女遊びが出来なくなった事らしい。

(タチの悪いガキじゃない‥)

マーヴィンは見た目が大人っぽく見えるせいか、性格もそうなのではないかと勝手に脳が勘違いしていたが、中身は子供そのものだ。
そんな理由でベアトリスに辛く当たっていたのかと思うと驚きである。

確かに気持ちが伴わない婚約に不満に思う気持ちも理解しよう。
だからといって、やりたい放題していいのかといえば、それは違う。
それにこの時代の御令嬢の結婚は殆どが家のためである。

初恋とは恐ろしいもので、そんな欠点すらも輝いて見えていたのだ。

それにこの婚約はベアトリスの「どうしてもマーヴィンがいい」という気持ちが無くなってしまえば簡単に破綻してしまう関係である。

公爵家の事情を考慮すれば、不利なのはマーヴィンに変わりはない。
つまり今、婚約破棄して困るのはマーヴィンであってベアトリスではない。

マーヴィンへの気持ちを失った今、目の前にいるのは子供で女癖が悪いただの男である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

妹の妊娠と未来への絆

アソビのココロ
恋愛
「私のお腹の中にはフレディ様の赤ちゃんがいるんです!」 オードリー・グリーンスパン侯爵令嬢は、美貌の貴公子として知られる侯爵令息フレディ・ヴァンデグリフトと婚約寸前だった。しかしオードリーの妹ビヴァリーがフレディと一夜をともにし、妊娠してしまう。よくできた令嬢と評価されているオードリーの下した裁定とは?

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

処理中です...