【R18】4番目の彼女

井笠令子

文字の大きさ
上 下
14 / 15

13.可愛い彼女とコーヒーボトル

しおりを挟む
 徹志くんの部屋を飛び出てから三日間、ずっと考えてるけどまだ答えは出ない。
 徹志くんの思い出の中の私が美化されすぎてる。ただの思い込みが激しくて、突っ走っちゃうだけの女なのに、女神だとかありえない。
 しかも、思い返してみたら、はっきり恋愛的な意味で好きだと言われたわけじゃない。

 それに、そうよ。あのショッピングセンターの女は何だったのよ。仲良く腕組んでおいて他人ということはないでしょう。他の女がいる証拠、この目でしっかり見たじゃないか。

 あぁ、やばかった。すっかりだまされて本気になるところだった。
 気をしっかり持つんだ。高橋希たかはしのぞみ

 このまま4番目の女、改め何番目かセフレかわかんないけど関係を続けるのか。
 それともきっぱりお別れするのか。
 それとも、唯一の彼女になりたいのか。

 まずは、私自身がしっかり決めないと。


「高橋さん、前に言ってたイベント部の書道パフォーマンスの担当の方が来てるんだけど紹介していいかな」

「もちろんです」

 現れたのは、私より年下であろう可愛い女性だった。
 明るいニュアンスウェーブの髪にオフショルダーのニット。
 ん?この服、この髪型、華奢な腕……マジか! あのとき食品売り場付近で徹志くんと腕を組んでた本命彼女(仮)だわ。

「宜しくお願いします」

 林さんの影からぺこりと頭を下げた彼女。
 どうでもいいけど、林さんと距離近くない?徹志くんとも腕を組んでたし、そういう性格の子なのかな?

そうちゃん、もう大丈夫だよ」

 ん? 創ちゃん呼び? 林さんの方が年上だよね?
 私が困惑しているのを察したのか、照れた様子の林さんが内緒話をするように告げた。

「実は俺の彼女なんだ」

「そうなんですね! びっくりです 」

 なんと! じゃあ、徹志くんは? 

「会沢つかさと言います。兄がいつもお世話になってます」

 そう言いながら差し出された名刺には『会沢つかさ』と確かに徹志くんと同じ苗字が記されていた。

「兄? 」

「ダンススクール代表の会沢徹志です。いつも高橋さんに賞状とかの文字をお願いしてると聞いて」

「あぁ、会沢徹志く……さん。そう……こちらこそ、いつもお世話になっております」

 私も名刺を差し出し、小さく頭を下げた。つかささんは興味深げに私の名刺を手に取り見つめた。

高橋希たかはし のぞみ……希望の

でのぞみって珍しいですよね。普通、望の方ですよね」

「いや。素敵なお名前です。女神と同じ名前」

「そんな名前の女神いましたっけ? 神話とか?」

「何かでいるらしいんですよ。私もよく覚えてないんですけどね、てへ」

 明るく会話しながらも私の頭の中は兄というワードで占められていた。徹志くんが兄。そうですか妹さんですか。そして林さんの彼女。なんだそうだったのか。
 徹志くんの彼女じゃなかったんだ。胸につかえていた何かがするんと落ちた感じ。
 もしかして徹志くんがあの時言った通り、本当に今は私だけしかいないのではないか。彼の言葉を素直に信じてもいいのかもしれない。


「じゃあ、俺はこれで。高橋さん、つかさちゃん、イベントの件よろしく頼むね」

 そう言って筆耕室を去ろうとした林さんに、私は差し入れで借りたままだったステンレスボトルを差し出した。

「あ、林さんコーヒーの差し入れありがとうございました。ボトルお返ししそびれててすみません」

 差し出したボトルを眺めると、林さんは不思議そうな顔をして言った。

「それ、俺のじゃないよ」

「あ、それ兄の物じゃないですか。ダンススクールのオリジナル品なんで。ほら、ここにネームが」

 私の手のボトルを覗き込んだつかさちゃんが、指をさす。確かにブルーのボトルにはダンススクールの名前と『T.AIZAWA』と刻印されていた。
 あのコーヒーは、徹志くんからの差し入れだったんだ。

 徹志くんは中学の文化祭の時もこの前の宛名書きの時も、見守って私を支えてくれてたんだな。
 やっぱり好きだ。
 この気持ちをちゃんと認めよう。
 次に会ったら、『好きだ』と伝えたい。

「高橋さん。じゃあ、早速なんですけど、打ち合わせお願いします。えっと書道のパネルとパフォーマンスで使う紙の相談で……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

処理中です...