【R18】広島弁の野村さんとお隣の私の話

【野村視点】あの朝の野村

　目が覚めて手を伸ばすと、どこまでも冷たいシーツだった。

　逃げられた。

　まぁ、そりゃそうだろう。隣に住んでる男がいきなり襲ってきたら、普通逃げるだろう。
　しかも彼女には婚約者がいる。訴えられたらどうしよう。
　でも、

「ぶちえかった」

　やわらかくて、いい匂いして、めちゃくちゃエロかった。
　正直、一夜限りの想い出でもやれてよかった。
　思い出すだけでやばい。今朝は、一回自家発電してから出かけよう。

　安部さんに会ったらなんていうべきか、
『私と結婚してください』
　うーん。急すぎる？

『昨日は気持ちよかったね』
　いやいや、これは朝からする会話じゃないか。

『昨日は申し訳ありませんでした。順番違うかもしれないけど、私と付き合ってください』
　そうだ。まず謝罪をしよう。

　いや、でももう朝さえ、会ってくれないかもしれない。
　毎朝の癒しの笑顔が、見れなくなってしまうのか。
　そう思うと、心がズンっと重くなった。ワシは人生最大の過ちを犯してしまったかもしれん。



「おはようございます」
　朝8時12分、いつも通りに部屋を出て挨拶すると、拍子抜けするくらいに普通に挨拶を返された。
　うわ。どうしよう。いつも以上に安部さんがかわいい。
　だめだ。ちょっと冷静になって、少し歩いた後話しかけよう。
　そう思い、駅近くなってから振り向くと安部さんはいなかった。
　謝る機会を完全に失ってしまった。

　次の日から安部さんには会えなくなった。
　たった一度の過ちを、いや、過ちでさえないくらいにキレイになかったことにされたんだろう。