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「聖女はまあ、いいでしょう。回復と浄化専門というのに間違いはありません。回復と浄化以外に何をやらせても人並み以下どころか我々の仕事を増やすへっぽこ具合は煎じる薬もないほどです。回復と浄化以外は何も期待していないので今さら腹も立ちません」
「うおい!まあいいとか言いつつ俺を貶すんじゃねえ!回復と浄化以外にも出来ることはあるわ!」
 レイドが噛み付くも魔術師は軽く無視し、嫌味ったらしい目を更に細めて私を見た。
「あなたはつい先日それは見事な攻撃魔術を使いましたよね?初級と言えど四天王のひとりを一発で屠るほどの。あなたがいくら付与魔術師と言えど、それほどの攻撃魔術を扱えるのなら、今回の戦闘でもさぞや活躍出来たでしょうね?」
 本当にこいつは蛇みたいな男だ。ねちねちと過去の出来事を持ち出して、こちらの痛い所を突いてくる。
 確かにその辺の主婦よりもおしゃべりが止まらない魔族にイラッときて、禁止されている攻撃魔術を使ってしまったが、その時にまぐれだと弁明したはずだ。
 私的にはこのパーティーのメンバーならばらしても構わないと思うのだが、お許しが出ない限り、沈黙を貫き通すしかない。
 今だって余計な事を言ったらぶっ殺すと刺さってくる視線が痛いくらいだ。


「だからまぐれだと言っているだろう。私は付与魔術師だ。付与魔術以外は使わん」
「……大体あなたは存在から不可解です。マクラーゲンがどこからともなく連れてきた正体不明の自称付与魔術師。名前以外の一切の身元を隠し、ローブで容姿まで隠す徹底ぶり。不審に思うなという方が無理な話です」
「まあ、怪しいかと聞かれたら怪しいって答えるしかないよねぇ。僕たちの前でも絶対にフード外さないし、魔術師よりも妖術士の方がしっくりくる見た目だし」
 そう言いつつ弓術士がフードをあげようとしてきたため、三歩後ろに下がった。こいつはちょくちょくこういうことをしてくるため本当に油断ならない。
 
 私の正体明かさない問題は当初からパーティー内での懸念事項として度々取り沙汰されてきた。それでも、勇者パーティーから追放されずにいたのはマクラーゲンが一切の否やをその権力を持ってして封じ込めていたからだ。逆にマクラーゲンに逆らうほど私への興味関心が薄かったとも言える。
 魔術師の嫌味はいつものことながら、今日はなんとなく様子が違った。じっとこちらに注がれる瞳は狙いを定めた蛇のようだ。生来、ごまかしや嘘を不得意とする私はSOSの視線をマクラーゲンに送った。けれど、睨み返されるだけで口を開こうとしない。いや、もしかしら口を開くのが面倒臭いだけかもしれない。そんな気がする。無言の瞳が自分でどうにかしろと語っている。念のため勇者の方をチラ見してみるとすでに飽きているのか、地面に小枝で落書きしていた。お前は小学生か。
 私だって好きでこんな格好をしているのではない。暑いし、前が見にくいし、暑いくせにマクラーゲンが放つ冷気からは守ってくれないし。着替えだってまともにできないから、清浄魔術をかけるだけで気分的にはスッキリしないし。一応の仲間達からも不審者を見る目で見られるし。
 私にとっての不都合だらけでも甘んじているのはマクラーゲンにそうしろと言われたからだ。勇者だって共犯のくせに我関せずの態度でいるのだから、ここは私が切れてもいい場面なのかもしれない。
 いっそ、フードを取ってやろうかと恐ろしいことを考えだしたところで、私の前に天使が舞い降りた。

「ミコトは怪しくなんてない!姿を隠してるのだって理由があるからに決まってるだろ!」
 レイドが私を守るように魔術師の前に立ちはばかった。声には私を案ずるが故の怒りが含まれている。
 魔術師の言う通り、マクラーゲンがいなければ身分を証明することは出来ないし、黒いローブで全身を覆っている私は妖術士がしっくりくる明らかな不審者だ。
 それなのになんの偏見も持たず、まっすぐに私を慕ってくれる。レイドは今時珍しいほど純粋で無垢な存在だ。さすが聖女。心まで美しい。とか言ったらレイドは怒るから口には出さないが。
 正真正銘の不審者にお菓子に釣られてついて行ってしまわないか心配にもなる。

「あなたは懐きすぎです。どうしたらそんな不審者にそこまで心を許せるのか甚だ疑問です。とにかく」

 レイドの身長は私と魔術師の肩にも届かないため、蛇のような目を遮ることは出来ない。

「マクラーゲンが詮索不要とするので、黙っていましたが、これ以上は我慢なりません。あなたは一体、何者ですか?」

 
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