19 / 36
画策
しおりを挟むさすがに毎日ではないが奴は度々、我が家の裏庭に出没した。
宣言通り、事前に手紙を寄越してからだ。その律儀さは評価しない事もないが、不法侵入という時点で評価がマイナスから脱却する日は永遠に来ないだろう。
私への口説き文句と、奴への罵詈雑言の応酬というなんとも不毛な言い合いが定例化しているような気がする今日この頃。
そろそろもっと建設的な解決案を出さなければまずい気がする。
いっかなちょろすぎる我が両親といえど、誤魔化すには限度があるし、奴が不法侵入してきた時点で、家に引きこもった意味がなくなってしまった。
それどころか現状は間違いなく悪化している。私に会えなくなったから家に来たとか、どんな変態的思考をしていればそういう結論に到達するのかは謎だが、そんな変態的思考を読めず、引きこもったのは私の悪手だ。
奴が変態である事はもっと早く気づいても良かったはずなのに、世間の評価が私の目を曇らせていたのかもしれない。
しかし、解決策と言ってもすぐには思い浮かばない。簡単に思いつくなら、奴が昨日も我が家に来る事はなかっただろう。
我が家に護衛だの警備だのを雇うお金はないし、警察も証拠がなければ動いてくれない。
私が直接ストーカー被害を受けていると涙目で訴えれば信じてもらえるかもしれないが、調書だの被害報告だの頻繁にやり取りしなければならないのは面倒くさい。そんな事をすれば両親にもばれるし、更に面倒だ。
そもそも奴が簡単に捕まるような低脳な犯罪者なら、こんなに苦労はしない。
その内、飽きるだろうという希望的観測も絶望的になっており、奴の熱は一向に冷めない。
それどころか、回数を重ねるごとに奴のアメジストのような瞳は鮮やかさを増し、甘いだけだった言葉はどろりとした感情を帯び始めた。
被虐が足りないのだろうか。もしかしたら何発かお見舞いしてやれば奴は満足して帰っていくのかもしれないが、奴の趣味に加担するような事は絶対にごめんだから却下だ。
ひとり考えていても解決策は見当たらず、だからと言ってこんな事を相談できるような友達もいなければ、親しい人もいない。……と考えて、私はハッと閃いた。
自分が誰もが見惚れる美貌を持っているのをすっかり忘れていた。これを利用しない手はないではないか。
ひとりでは駄目ならば味方を作ればいい。
なんにしたって最後には行き着く場所なのだ。それが早いか遅いかの違いであって、実現すればすべてがうまくいく。
さあ、嘘を真実に塗り替えよう。歪な関係を払拭し、すべてをあるべき場所に戻すのだ。
私はバルコニーの向こうを見つめ、うっそりと微笑んだ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる