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画策

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 さすがに毎日ではないが奴は度々、我が家の裏庭に出没した。
    宣言通り、事前に手紙を寄越してからだ。その律儀さは評価しない事もないが、不法侵入という時点で評価がマイナスから脱却する日は永遠に来ないだろう。


 私への口説き文句と、奴への罵詈雑言の応酬というなんとも不毛な言い合いが定例化しているような気がする今日この頃。

 そろそろもっと建設的な解決案を出さなければまずい気がする。

 いっかなちょろすぎる我が両親といえど、誤魔化すには限度があるし、奴が不法侵入してきた時点で、家に引きこもった意味がなくなってしまった。
    それどころか現状は間違いなく悪化している。私に会えなくなったから家に来たとか、どんな変態的思考をしていればそういう結論に到達するのかは謎だが、そんな変態的思考を読めず、引きこもったのは私の悪手だ。

 奴が変態である事はもっと早く気づいても良かったはずなのに、世間の評価が私の目を曇らせていたのかもしれない。

 しかし、解決策と言ってもすぐには思い浮かばない。簡単に思いつくなら、奴が昨日も我が家に来る事はなかっただろう。

 我が家に護衛だの警備だのを雇うお金はないし、警察も証拠がなければ動いてくれない。
    私が直接ストーカー被害を受けていると涙目で訴えれば信じてもらえるかもしれないが、調書だの被害報告だの頻繁にやり取りしなければならないのは面倒くさい。そんな事をすれば両親にもばれるし、更に面倒だ。

 そもそも奴が簡単に捕まるような低脳な犯罪者なら、こんなに苦労はしない。

 その内、飽きるだろうという希望的観測も絶望的になっており、奴の熱は一向に冷めない。
    それどころか、回数を重ねるごとに奴のアメジストのような瞳は鮮やかさを増し、甘いだけだった言葉はどろりとした感情を帯び始めた。
   被虐いたみが足りないのだろうか。もしかしたら何発かお見舞いしてやれば奴は満足して帰っていくのかもしれないが、奴の趣味に加担するような事は絶対にごめんだから却下だ。



 ひとり考えていても解決策は見当たらず、だからと言ってこんな事を相談できるような友達もいなければ、親しい人もいない。……と考えて、私はハッと閃いた。
    自分が誰もが見惚れる美貌を持っているのをすっかり忘れていた。これを利用しない手はないではないか。

 ひとりでは駄目ならば味方を作ればいい。

 なんにしたって最後には行き着く場所なのだ。それが早いか遅いかの違いであって、実現すればすべてがうまくいく。


 さあ、嘘を真実に塗り替えよう。歪な関係を払拭し、すべてをあるべき場所に戻すのだ。


 私はバルコニーの向こうを見つめ、うっそりと微笑んだ。

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