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 そう言えばラルカの『性』はなんなんだろう。

「??………わかんない」
「そうか……だろうな」
 うっかり失念していたが、コレは養子縁組にも必要なことだから、きちんと検査して調べておかないと。養子縁組手続きをしている途中で肝心なことに気付き、俺はラルカを連れて国の専門病院を訪れることになった。

 言い忘れていたが、この国…というか、この世界には、男女という性別のほかに、3つの性別が存在する。

 『アルファ』『ベータ』『オメガ』──そして、この3つの性による社会格差が、当然のこととして存在しているのだ。

 支配、上流階級になれるのは、アルファ性の人間。一般的な職業や、中流家庭を築くベータ性。そして、最も地位が低く『子を産むもの』としての存在でしかないオメガ性。
 世界ではこの3つの『性』こそが、個の持つ能力の全てを決定していた。それは人が世に生まれた瞬間に、その人生が決定されているということに等しい。
 しかしそれも無理ないことだった。何故なら人口の大半を占めるベータ性の人間に、支配階級へ登り詰められるだけの能力を持った者は生まれないし、オメガ性として生まれた人間は、男女どちらであっても他性の子を産む使命と義務が刻み込まれるからだ。
 
 俺はアルファとして生まれ、能力に見合った数々の特権と国の重要な仕事、それに伴う大き過ぎる報酬と財産とを与えられた。本来なら、ここも多くの使用人を雇い、屋敷の管理を任せるものだが、どうにも自分の性に合わないので偏屈な独り暮らしをしている。
 使用人も雇わず、慰み用のオメガを囲うこともない。変わり者のアルファとしてちょっとした有名人だが、まあ、んなことはどうでも良いし知ったことじゃねえ。

 俺は俺が一番気楽な生き方をしたかったのだ。せめて、プライベートだけでも。

 そんな俺が他人を、それも、捨てられたガキを、わざわざ拾って養子にしようって言うんだ。俺自身もビックリな事態だったが、噂好きな周囲もその目と耳を疑っていたらしい。
 おそらく今頃、様々な憶測と噂が上流社会を飛び回っていることだろう。ま、勝手に言わせとけば良いんだが。
 そんなことより何より。
「帰りに買物しなくちゃな…服も下着も足んねえし…あと、お前用の細々とした生活用品とか…そうだ、なんか欲しい物あるか?今の内に考えておけよ、ラルカ!」
 ホントに何なんだろうな!?気が付くと俺、ラルカとの新しい生活のことを考えて、なんだかやたらウキウキしてしまっていた。ラルカも、そんな俺の陽気な様子が解るのか、にこにこと嬉しそうにしている。
「ラルカ、楽しいか?」
「うん。楽しい、です、クルトさん」
「さん、は要らねえぞ。これからは、堅苦しい敬語も無しだ」
「はい、え…と、うん、クルトさ…クルト」
「そうそう、その調子。俺とラルカは、今日からホントの家族になるんだからな」
「……っ、うん!!」

 俺が笑うと、ラルカも笑う。
 俺にだけ見せてくれる、ラルカの笑顔が嬉しかった。
 保護欲を掻き立てられたのは、きっとこの笑顔が見てしまったから。

 声をあげて笑うでもなく、顔全体で笑みを象る訳でもない、小さな口元を僅かに緩めただけの、子供にしては控えめ過ぎるラルカの笑顔。他の子のように笑おうとしても、そんな風にしか笑えないラルカを見て、俺は心の底から思ってしまったのだ。

 もっともっとラルカを笑顔にしたい。子供らしく笑えるようにしたい。
 素直な心のまま笑えるように、ラルカを精一杯幸せにして
やりたい、と。
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