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 次に目が覚めた時、俺は、何が起こったのか解らず混乱した。
 崖から落ちて血だらけで、あちこち怪我して死に掛けていたと思っていたのに、ベッドの上で起き上がった俺の身体には傷1つなくて。
「あれ……俺、どうして…」
 夢だったのかな。そう思った途端、強い力で抱き締められた。
「ハル…ハルッ、ハル……ッッ」
「…………セツ?」
 ベッドの側に立っていたセツは、最初とても怖い顔をしていた。俺に怒っているのが解るくらいに。しかも物凄く。だから一瞬、彼の腕が動いた時は『殴られる?』と身を竦めたくらいだ。
 それなのにセツは、何かを言う前に俺を抱き締めた。
とても強く、掻き抱くように激しく。
「ハルッ、ハル……ッッ」
 なんとなく照れくさくて身動ぎしたら、セツは必死な様子で俺の名を呼んだ。まるで怖い夢を見た子供みたい。もしかして俺が『死ぬ』と思ったからなんだろうか。大きなセツの身体に包まれながら、俺は何故か胸の動悸が激しくなるのを感じた。
「セツ……ね、泣いてんの?…セツ」
「馬鹿が…俺が…神である俺が泣く訳ないだろ」
 伝わってくる身体の震えで、彼が泣いてるのかと思ったけど、俺の問い掛けにセツはハッキリ否定してくる。じゃあ、この震えはなに?もしかして、怖かったのかな?なんて勝手な想像をしながら、俺はセツの背中に手を回して抱き締め返した。

 セツの匂い。セツの温もり。
 ああ、セツ。セツだ。
 良かった。また会えた。
「…………セツ…ッ」
 また会えて良かった。
 もう、会えないかと思った。

「セツ………ッ」
 大きくたくましいセツの身体を抱き締めた瞬間、俺の中に意識を失う一瞬前の、切なくて寂しい気持ちが甦って来た。お陰で、縋りついてくるセツに対して、これまでにない想いを感じてしまう。
 隙間なく密着する身体。セツから感じるぬくもり。彼から伝わってくる怯えにも似た震え。その、何もかもが愛おしくて。他の何にも代えがたくて。
 彼とこうして触れ合えることが、泣き出したいくらいに嬉しかった。


「まったく……お前という人間は…!」
 しばらくしてセツはやっと落ち着いたのか、今度は、気を取り直したとばかりに説教と小言を口にし始めた。
「俺が気付くのがあと数瞬遅かったら死んでたんだぞ!?」
「……………ッッ」
 じゃあ、やっぱり崖から落ちたのは夢じゃなかったんだな。セツの小言でやっと現状に理解が追い付いた俺は、なけなしの反撃を試みたけどすぐ言葉に詰まって黙り込んだ。
 諦めるために結界の境界はてを見てみたかった。素直にそう言えば良かったんだろうけど、それを口にしてセツを気遣わせるのはなんか悪い気がした。なにより、今も時折感じられる彼の中の俺への罪悪感を、もうこれ以上ほんの少しでも刺激したくなかったから。
「解った……」
「え………っ」
 でも、そうやって黙っていたらセツは、言えない俺の気持ちを察してくれた。それから、森の奥を探索することを許してくれ、その為の装備も色々用意してくれるとも約束してくれる。
「良いの……?」
「ああ。ただし、条件がある」
 その代わりの条件として、セツは自分に俺の様子を常に監視させることと、危険があったら救助させることを条件付けてきた。セツの気遣いはとても嬉しいのだけれど。ホントにイイのかな。俺の為に、俺の我儘の為に、そこまでしてもらっても??
「死んだ奴を生き返らせることは出来ないんだ…頼む、ハル」
 俺が逡巡したのを『嫌がってる』とでも勘違いしたのだろうか。セツは必死の形相で俺に頼み込んできた。俺の邪魔もそれ以上の手助けもしないから、この2つの条件だけは呑んでくれ、と。
「………セツ」
 どうしてそんなに必死なんだろう??と考えていたら、いくら神様でも死んだ人間はどうにも出来ないから、らしい。
 忘れてた。うっかりしてた。
 ついつい万能の様に思い込んでいたけど、考えてみれば確かにそうだ。だって、死者をも生き返らせられるなら、セツはとうの昔にやっているはずだもの。

 遠い昔に死んだ、俺と同じ青い瞳の少女を救うために。

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