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 翌日の昼前からさっそくハルは、俺が用意した装備を整えて森の中を探索し始めた。
 鬱蒼とした深い森ではあるものの、現在地と方向さえ解っていれば、少年の足でも半日あれば結界の端に辿り着くことが出来る。
 俺は一族の先人が結界形成前に作ったと思われる森の地図を手に入れ、ハルにコンパスと共に渡した。コンパスの使い方は知っていたらしく、ハルは俺に『ありがとう』と礼を言うと、様々な荷物の入ったリュックサックを背負って森へ入って行く。

 話は前後してしまうが、離れ屋を改装したおり、俺はハルに洋服も用意してやっていた。なにしろハルがその時身に着けていたのは、薄汚れてしまった着物の襦袢のみだったからだ。しかも着付けがグチャグチャで、見るに耐えない姿だった。
 下着から靴下や靴まで一揃いで渡してやると、ハルは嬉しそうにニッコリ笑って、
「スース―してて落ち着かなかったんだ」
 と下着を身に着けながら、誰に言うともなく呟いた。
うん、まあ、そうだよな…。と良く解らないが、俺は顔が熱くなったのを覚えている。
「やっぱり着慣れたものがイイや」
 ハルは無造作に羽織っていた襦袢を脱ぎ捨てると、下着だけ身に着けたほぼ全裸状態になって着替え始めた。少し日に焼けてこそいたが、白い肌は綺麗で滑らかそうで、均整のとれた身体は、見た目にもまだ少年の柔かさを保っていた。
 手足は細くしなやかで、白い胸の飾りは薄く桜色で。
「……………ッッ!!??」
 それ以上ハルの着替えを直視できず、俺は気恥ずかしさで視線を逸らしてしまっていた。
 一体これは、なんなんだろう??こんな感情もまた、俺がこれまで知らなかったもので、俺は俺の中の未知なる情動に対して理解が追い付かなかった。しかも1度は抱いた身体であるはずなのに、何故こんなにも俺はハルの裸を眩しく感じてしまうのか、と。

 そう、今でも俺は、ハルを抱いた日のことを思い返すと、病にでもかかったみたいに胸の動悸が激しくなる。身体の奥が熱くて、内から焼き尽くされそうで、まるで熱病にでもかかったみたいに。
 もちろん神性存在である俺が、人の世の病になどかかる訳もない。けれど、ハルの姿を目にするたびに──否、その一挙手一投足を見ているだけで、俺は胸が温かくなったり弾んだり、時に酷く苦しくなったりするのだ。
 この気持ちを何と言うのか??始めの頃の俺には、まだなにも解ってはいなかった。
 唯一解っていたのは、俺にとってハルがとても大切で、失いたくない存在であると言うこと。だがそれだって最初の内は、彼をこんな状況に追い詰めたことへの、責任感や罪の意識ゆえのものだと思い込んでいた。

 ハルを失いかけてようやく俺は、これらの想いが全て、彼への愛だと気付かされたのである。そしてそんなハルへの想いは一瞬ごとに深まり、今この瞬間にも、どんどん俺の中で大きくなっていた。
 ハルの姿を見、ハルの声を聴き、ハルと接するごとに、募りゆく愛しい想い。
 ああ、本当になんてことだろう。
 人は人に対して、こんなにも切ない想いを抱くものなのか。
 これほどにままならぬ想いを、大切な相手に対して感じるものなのか。
 知らなかった。俺は、千年もの間、人の近くにあって人と共に過ごして来たというのに、まるで人という存在のことを理解してなどいなかった。

 短く儚い命を持つ彼ら人という種が、100年にも満たぬ生をどれだけ懸命に生きているか。その生の中で自分以外の大切な何かを、愛し護り抱き締めながら、ささやかな幸福を得ようとしているか、と。


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