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「わあ……」
生まれた時からずっと都心の、緑の少ない街中で暮らしてきた俺にとって、上下左右どちらを見ても植物しかない世界と言うのは初めての光景だった。
うっそうと繁る原生林。見るからに人の手の入ってない森林。そのくせ道路はきちんと舗装されていて、しかも雑草1つ車道にはみ出してきていなかった。
「どこまで続いてるんだろ…」
緑のトンネルに入って1時間は走っているのに、1台の車とも擦れ違わない。良くは知らないけど車の通らないこんな田舎道も、いつも綺麗に管理されていたりするものなんだろうか。
人家の1件も見えない周りの光景とのギャップが、なんだか異様に思えて不思議だった。
「ねえ、まだ着かないの。ここはどの辺り?」
「間もなく着きます。もう随分前から御本家の私有地を走ってるんですよ」
インタフォンのボタンを押して話し掛けると、そんな驚きの回答が返ってきた。
特別自慢している風でもない運転手の答えに、俺は『なるほどな』と思うのと同時に、やっぱり思ってた通り『本家』とやらは、よほどの大金持ちなんだなと納得する。
車で1時間走っても尽きない『私有地』なんて、俺、今まで聞いたもことなかったし。
「……………ッ」
しかし、そんな広大な土地を所有して完璧に管理し、高校生の子供を高級車でお迎えする『本家』とやらに、俺は到着前から違和感と居心地の悪さを覚えていた。
何となく頭の中で考えてた『田舎の爺ちゃんちに遊びに行く』イメージから、あまりにもかけ離れ過ぎていたためだ。『格式ばっていたり、礼儀にうるさかったり、そんな堅苦しいのは嫌だなぁ』と、本音が1人でに口から零れ出る。
『家に帰りたい…な』
着く前から俺はそんな風に考えたりして、招きに応じたことを徐々に後悔し始めていた。
それから30分後、俺の乗った車はようやく緑のトンネルを抜け、いかにも『山奥の村』といった風情の小さな集落の中を走り抜けた。そして、村の一番奥、山裾に建つ大きな屋敷へ入ると、そこで車のドアが開かれうやうやしく降ろされる。
「………デッカイ家」
初めて見る遠い親戚筋の『本家』とやらは、坂の上の高台に一件だけ建ってて、城壁みたいな白壁に囲まれていて、なんていうかその姿はまるでお城のようだった。
「陽斗様、お疲れ様でございました」
「ふわあ……っ」
目前に現れた歴史を感じる大きな日本家屋に、俺は思わず開いた口が塞がらなくなった。
遠目から見ても『凄い』と感じたけれど、こうして改めて間近で見ると、なんてとてつもないお屋敷だろう。
案内もなく迂闊に歩いたら、家の中で迷子になるんじゃないかな?なんて、馬鹿な想像が現実的と思えるほどに、俺の目の前にそびえる屋敷の広大さは規格外であった。
「ようこそ。おいでませ、陽斗様」
威厳すら感じられる屋敷の玄関前には、10数人の和服の女の人が俺を出迎えてくれていた。けれど、その様子が見るからに異様で、俺は思わず前へ進むのをためらってしまう。
「えと……あの……」
玄関へと続く石を敷き詰めた道の左右へ、均等に並んで出迎えるのまではまあ解る。でも全員地面へ直に跪いて、深々と頭を垂れて出迎えるって、そんなおもてなし有りな訳??まるで神様でも目の前にしたかのように大袈裟だ。ちょっと怖い。
「陽斗様、お荷物お持ちいたします」
「あ…はあ……」
車の前まで出迎えに来た女の人が、俺の荷物を持って案内してくれた。他の女の人より綺麗な着物を着た、俺のお母さんくらいの年齢の女の人だ。
通りすがりにちらりと盗み見ると、地にひれ伏した周りの女の人達も、俺の前を行く彼女と同じくらいか、ソレより年配の人ばかりで、若そうな女の人は1人もいなかった。
家や道路は美しく整えられていても、この集落でもやっぱり過疎化と高齢化が進んでるのかな??思い返してみると途中の村も、やたら年寄りばかりが目についた。
『………そういえば』
そこまで考えた時、不意に、新たな疑惑が脳裏に浮かび上がってきた。
『村の人達も、なんか変だった…?』
そう。車中から目にした村人たちも、何故か、皆一様に道端でひれ伏して、俺の乗った車を出迎えていたのだ。
あの時は窓越しに横目でチラリと見ただけだったし、俺の見間違いかな?と思ってあまり深くは考えていなかった。けど、もしかして、あれも見間違いなんかじゃなかった??そして、まさかあれもまた『俺』を歓迎してのことだったりするんだろうか??
いや、まさか、さすがに、そんなことある訳ない。
一瞬。頭に浮かんだ不穏な考えに、俺は馬鹿馬鹿しさを覚えながら屋敷へ入った。
村をあげてただの1高校生である俺を歓迎する、だなんて、いくらなんでも自意識過剰に過ぎるだろう。と、俺は常識的にそう考えたのだ。そんなことあり得ないって。
「お待ちしておりました、陽斗様」
「う………ッ!?」
だけど、屋敷の中でまたも深々とひれ伏した人らに出迎えられると、次第に『もしかすると俺の考えは間違えていなかったのではないか?』と思わざるを得なくなってきた。なんなんだろう、本当に訳が分からなくて──気持ち、悪い。
生まれた時からずっと都心の、緑の少ない街中で暮らしてきた俺にとって、上下左右どちらを見ても植物しかない世界と言うのは初めての光景だった。
うっそうと繁る原生林。見るからに人の手の入ってない森林。そのくせ道路はきちんと舗装されていて、しかも雑草1つ車道にはみ出してきていなかった。
「どこまで続いてるんだろ…」
緑のトンネルに入って1時間は走っているのに、1台の車とも擦れ違わない。良くは知らないけど車の通らないこんな田舎道も、いつも綺麗に管理されていたりするものなんだろうか。
人家の1件も見えない周りの光景とのギャップが、なんだか異様に思えて不思議だった。
「ねえ、まだ着かないの。ここはどの辺り?」
「間もなく着きます。もう随分前から御本家の私有地を走ってるんですよ」
インタフォンのボタンを押して話し掛けると、そんな驚きの回答が返ってきた。
特別自慢している風でもない運転手の答えに、俺は『なるほどな』と思うのと同時に、やっぱり思ってた通り『本家』とやらは、よほどの大金持ちなんだなと納得する。
車で1時間走っても尽きない『私有地』なんて、俺、今まで聞いたもことなかったし。
「……………ッ」
しかし、そんな広大な土地を所有して完璧に管理し、高校生の子供を高級車でお迎えする『本家』とやらに、俺は到着前から違和感と居心地の悪さを覚えていた。
何となく頭の中で考えてた『田舎の爺ちゃんちに遊びに行く』イメージから、あまりにもかけ離れ過ぎていたためだ。『格式ばっていたり、礼儀にうるさかったり、そんな堅苦しいのは嫌だなぁ』と、本音が1人でに口から零れ出る。
『家に帰りたい…な』
着く前から俺はそんな風に考えたりして、招きに応じたことを徐々に後悔し始めていた。
それから30分後、俺の乗った車はようやく緑のトンネルを抜け、いかにも『山奥の村』といった風情の小さな集落の中を走り抜けた。そして、村の一番奥、山裾に建つ大きな屋敷へ入ると、そこで車のドアが開かれうやうやしく降ろされる。
「………デッカイ家」
初めて見る遠い親戚筋の『本家』とやらは、坂の上の高台に一件だけ建ってて、城壁みたいな白壁に囲まれていて、なんていうかその姿はまるでお城のようだった。
「陽斗様、お疲れ様でございました」
「ふわあ……っ」
目前に現れた歴史を感じる大きな日本家屋に、俺は思わず開いた口が塞がらなくなった。
遠目から見ても『凄い』と感じたけれど、こうして改めて間近で見ると、なんてとてつもないお屋敷だろう。
案内もなく迂闊に歩いたら、家の中で迷子になるんじゃないかな?なんて、馬鹿な想像が現実的と思えるほどに、俺の目の前にそびえる屋敷の広大さは規格外であった。
「ようこそ。おいでませ、陽斗様」
威厳すら感じられる屋敷の玄関前には、10数人の和服の女の人が俺を出迎えてくれていた。けれど、その様子が見るからに異様で、俺は思わず前へ進むのをためらってしまう。
「えと……あの……」
玄関へと続く石を敷き詰めた道の左右へ、均等に並んで出迎えるのまではまあ解る。でも全員地面へ直に跪いて、深々と頭を垂れて出迎えるって、そんなおもてなし有りな訳??まるで神様でも目の前にしたかのように大袈裟だ。ちょっと怖い。
「陽斗様、お荷物お持ちいたします」
「あ…はあ……」
車の前まで出迎えに来た女の人が、俺の荷物を持って案内してくれた。他の女の人より綺麗な着物を着た、俺のお母さんくらいの年齢の女の人だ。
通りすがりにちらりと盗み見ると、地にひれ伏した周りの女の人達も、俺の前を行く彼女と同じくらいか、ソレより年配の人ばかりで、若そうな女の人は1人もいなかった。
家や道路は美しく整えられていても、この集落でもやっぱり過疎化と高齢化が進んでるのかな??思い返してみると途中の村も、やたら年寄りばかりが目についた。
『………そういえば』
そこまで考えた時、不意に、新たな疑惑が脳裏に浮かび上がってきた。
『村の人達も、なんか変だった…?』
そう。車中から目にした村人たちも、何故か、皆一様に道端でひれ伏して、俺の乗った車を出迎えていたのだ。
あの時は窓越しに横目でチラリと見ただけだったし、俺の見間違いかな?と思ってあまり深くは考えていなかった。けど、もしかして、あれも見間違いなんかじゃなかった??そして、まさかあれもまた『俺』を歓迎してのことだったりするんだろうか??
いや、まさか、さすがに、そんなことある訳ない。
一瞬。頭に浮かんだ不穏な考えに、俺は馬鹿馬鹿しさを覚えながら屋敷へ入った。
村をあげてただの1高校生である俺を歓迎する、だなんて、いくらなんでも自意識過剰に過ぎるだろう。と、俺は常識的にそう考えたのだ。そんなことあり得ないって。
「お待ちしておりました、陽斗様」
「う………ッ!?」
だけど、屋敷の中でまたも深々とひれ伏した人らに出迎えられると、次第に『もしかすると俺の考えは間違えていなかったのではないか?』と思わざるを得なくなってきた。なんなんだろう、本当に訳が分からなくて──気持ち、悪い。
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