73 / 240
あまり楽とは言えない冒険者メリルの章
73.迷宮なら楽しいかもしれない食事-2
しおりを挟む
「あちちっ」
焚火の周りに煤で黒くなった竹の筒が、いつの間にか置かれていた。簡易的なカップだろう。彼はそれを指でつまむようにして持った。
「飲む?」
コップの中には、焚火の近くで沸かしたお湯と何かの香草が入っている。
薬湯のような匂いが、ほのかに漂った。
「いただきます……」
辛い物を食べたので、丁度水が欲しくなっていたところだった。
「熱いよ」
メリルは頷き十分に気をつけながら、受け取る。
一応持つことは出来るが、やはり熱かったので、こぼさないようすぐに地面に置いた。
うっすらと緑がかった湯が、焚火の光に煽られてゆらゆらと輝いていた。
「これって、何かのハーブなんですか?」
「んーなんだろ」
「え゛っ……」
また何か変な物ではないだろうか。
彼は竹のカップを覗き込む。
「ヤムの葉と寺院の近くに生えてたミントかな」
茹でると風味の出る葉っぱをとりあえず入れているだけで、本人もいちいち把握しているわけではないだけのようだ。
少なくとも聞いたことのある材料だったので、ほっとする。
湯をちびちびと飲みながら、目の前の食事に手を伸ばす。
気が付けば食は進んで、結局オークの肉もリザードの尻尾も完食したメリルは、最終的にカップを両手にほうっと息を吐き出した。
レベルアップまでは何もせずに休憩するだけ。何もすることがない。
迷宮の低い天井に向かって、湯気が上がっていくのをぼんやりと眺める。
周囲は静かで、焚火からなる暖色の光がゆらめきながら、ぼんやりと発光する迷宮の壁と混ざり合う。なかなかに幻想的な色合いだった。
音は薪の爆ぜる音のほかに、迷宮内に生息しているであろう虫の音が聞こえる。
眠る以外で、こんな風にゆったりとした時間が流れたのは、本当に久しぶりな気がする。口の中の微妙な後味に目を瞑れば、お腹も膨れているし、直近では何も心配ごとがない。
「あの」
「ん?」
「どうして、この辺りには他の冒険者が来ていないんでしょうか?」
ぼんやりしていると話がしたくなる。雑談がてらに、たまたま気になった事を聞いてみた。
夜甲虫狩りはメジャ―ではないにしろ、それなりに儲かって簡単な狩りなら、他に人がいてもいいのではないかと思ったからだ。
「半端に中層っていうのがネックなんじゃない? この辺りの狩りに満足出来るぐらいの人に限って、おいそれと来れない、っていう。ルート把握するにもかなり手間がかかるし。この辺りは安全だけど、途中に強い奴が固まって出る区域があるから、そこを超えるのがね。だったらもっと簡単にいけるとこ行くんでしょ、多分」
焚火の周りに煤で黒くなった竹の筒が、いつの間にか置かれていた。簡易的なカップだろう。彼はそれを指でつまむようにして持った。
「飲む?」
コップの中には、焚火の近くで沸かしたお湯と何かの香草が入っている。
薬湯のような匂いが、ほのかに漂った。
「いただきます……」
辛い物を食べたので、丁度水が欲しくなっていたところだった。
「熱いよ」
メリルは頷き十分に気をつけながら、受け取る。
一応持つことは出来るが、やはり熱かったので、こぼさないようすぐに地面に置いた。
うっすらと緑がかった湯が、焚火の光に煽られてゆらゆらと輝いていた。
「これって、何かのハーブなんですか?」
「んーなんだろ」
「え゛っ……」
また何か変な物ではないだろうか。
彼は竹のカップを覗き込む。
「ヤムの葉と寺院の近くに生えてたミントかな」
茹でると風味の出る葉っぱをとりあえず入れているだけで、本人もいちいち把握しているわけではないだけのようだ。
少なくとも聞いたことのある材料だったので、ほっとする。
湯をちびちびと飲みながら、目の前の食事に手を伸ばす。
気が付けば食は進んで、結局オークの肉もリザードの尻尾も完食したメリルは、最終的にカップを両手にほうっと息を吐き出した。
レベルアップまでは何もせずに休憩するだけ。何もすることがない。
迷宮の低い天井に向かって、湯気が上がっていくのをぼんやりと眺める。
周囲は静かで、焚火からなる暖色の光がゆらめきながら、ぼんやりと発光する迷宮の壁と混ざり合う。なかなかに幻想的な色合いだった。
音は薪の爆ぜる音のほかに、迷宮内に生息しているであろう虫の音が聞こえる。
眠る以外で、こんな風にゆったりとした時間が流れたのは、本当に久しぶりな気がする。口の中の微妙な後味に目を瞑れば、お腹も膨れているし、直近では何も心配ごとがない。
「あの」
「ん?」
「どうして、この辺りには他の冒険者が来ていないんでしょうか?」
ぼんやりしていると話がしたくなる。雑談がてらに、たまたま気になった事を聞いてみた。
夜甲虫狩りはメジャ―ではないにしろ、それなりに儲かって簡単な狩りなら、他に人がいてもいいのではないかと思ったからだ。
「半端に中層っていうのがネックなんじゃない? この辺りの狩りに満足出来るぐらいの人に限って、おいそれと来れない、っていう。ルート把握するにもかなり手間がかかるし。この辺りは安全だけど、途中に強い奴が固まって出る区域があるから、そこを超えるのがね。だったらもっと簡単にいけるとこ行くんでしょ、多分」
10
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
公爵令嬢は父の遺言により誕生日前日に廃嫡されました。
夢見 歩
ファンタジー
日が暮れ月が昇り始める頃、
自分の姿をガラスに写しながら静かに
父の帰りを待つひとりの令嬢がいた。
リリアーヌ・プルメリア。
雪のように白くきめ細かい肌に
紺色で癖のない綺麗な髪を持ち、
ペリドットのような美しい瞳を持つ
公爵家の長女である。
この物語は
望まぬ再婚を強制された公爵家の当主と
長女による生死をかけた大逆転劇である。
━━━━━━━━━━━━━━━
⚠︎ 義母と義妹はクズな性格ですが、上には上がいるものです。
⚠︎ 国をも巻き込んだ超どんでん返しストーリーを作者は狙っています。(初投稿のくせに)
婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!
桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。
令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。
婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。
なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。
はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの?
たたき潰してさしあげますわ!
そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます!
※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;)
ご注意ください。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる