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41.人事を尽くして気楽に待つ
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ちょっと、怪しすぎたかと思う。
とにかく逃げられたくないという気持ちが先に来て、吹っ掛けてるみたいな感じになってしまっているような気がする。
しかし、何も提示しないというのもおかしいし、なかなかそのバランスは難しい。
ただ話を聞いて貰わない事には、どうにもならないのは真理だと思うので、まずはこちらから話すことを優先する。
「ここと同じ夜の仕事だし、時間的には大丈夫だと思うんだけど」
彼女からは肯定も否定もない。
やはり、こっちから何でもかんでも話しかけた方がよさそうだ。
「そのローブ。君、魔術師系の冒険者だよね?」
「えっ……あ、まあ、資格は持ってますけど……」
ローブを見られているとは思っていなかったのか、彼女は自身の身なりをさりげなく気にしはじめた。
「何の資格?」
「え、あ……今は普通の魔術師です、けど」
「今は、ってことは他にも何か資格があるの? それともこれから転職する予定が?」
いわゆる発展系の上位クラスになるのではなく、ある程度別のクラスの特技を習得したうえで転職することで、不得意な部分を補うというのも、最近のトレンドの一つだ。
僧侶の回復術を習得した上で魔術師になれば、魔力を活かした補助の幅が広がるし、ある程度魔法を習得してから戦士になれば、一応魔法が使える程度の戦士が出来る。
俺も一度考えたことがあるが、一時的に便利なだけな割に、他のクラスの資格取得が面倒くさすぎるという理由でやめた。
「いえ、その……」
彼女は答えようとして、唐突にそれを打ち切ったように、露骨に話を変えた。
「どうして、そんなこと聞くんですか?」
個人的な事を根堀り葉掘りするつもりはない。俺としては今魔法職であるならそれで充分だ。
「もちろん仕事に使うからね」
「え……」
「基本魔法の火とか昏睡は使えるんでしょ?」
「火や昏睡を……? 使って……え……?」
俺の顔を何度も伺い見るようにのぞき込み、ぶるぶるとためらいに震え始めた。
「そういう、趣向もあるんですね……世の中には」
「うん? まあ、君の能力が活かせると機会だと思うよ」
ひょっとすると会話がズレているのではないか、と思いつつも、興味自体は示しているし、変に問いただして水を差すのも嫌だったので、気にしないことにする。
「どうかな?」
「でも……うーん。お話は、魅力的だと、思うんですけど……」
かなり悩んでいるが、興味はちゃんとあるようだ。
まあ、俺が怪しいってことはわかっているし、即決も難しいだろう。
こっちとしてはすぐにでも、返事を貰いたいところだが、まあ元がダメもとということもあるし、変に粘らないでおこう。
「すぐに返事が出せないなら、夜まで待つよ。迷宮の前で9時ぐらいまでは待ってるから」
「……迷宮で、ですか?」
「うん」
「どうしてわざわざ……この近くじゃ、ダメなんですか?」
「夜の歓楽街で待ち合わせしたら混むし、変なのに絡まれるよ? それに仕事場へはすぐ行けた方がいいでしょ」
「え……仕事って、迷宮で、するんですか?」
何やら自信なさげに俯く。
見かけからして初心者冒険者だけど、いくらなんでも迷宮に入ることを躊躇していたら、話にならないと思うのだが。単に夜に迷宮に潜ったことがないから不安だとか、そういうことだろうか。
「そりゃ、魔法を使うんだから迷宮だよ。夜だけどちゃんと案内もするから」
「そうですか。まあ……言われてみればそうなのかもしれませんけど」
迷っているのか困惑しているのか、彼女はぶつぶつと小さく地面に向かって聞こえないぐらいの言葉の粒を落としていた。最終的には顔を上げた。ローブのフードの下で、薄っすらと金色の瞳が見える。
「……わかりました。何時に行けばいいですか?」
とにかく逃げられたくないという気持ちが先に来て、吹っ掛けてるみたいな感じになってしまっているような気がする。
しかし、何も提示しないというのもおかしいし、なかなかそのバランスは難しい。
ただ話を聞いて貰わない事には、どうにもならないのは真理だと思うので、まずはこちらから話すことを優先する。
「ここと同じ夜の仕事だし、時間的には大丈夫だと思うんだけど」
彼女からは肯定も否定もない。
やはり、こっちから何でもかんでも話しかけた方がよさそうだ。
「そのローブ。君、魔術師系の冒険者だよね?」
「えっ……あ、まあ、資格は持ってますけど……」
ローブを見られているとは思っていなかったのか、彼女は自身の身なりをさりげなく気にしはじめた。
「何の資格?」
「え、あ……今は普通の魔術師です、けど」
「今は、ってことは他にも何か資格があるの? それともこれから転職する予定が?」
いわゆる発展系の上位クラスになるのではなく、ある程度別のクラスの特技を習得したうえで転職することで、不得意な部分を補うというのも、最近のトレンドの一つだ。
僧侶の回復術を習得した上で魔術師になれば、魔力を活かした補助の幅が広がるし、ある程度魔法を習得してから戦士になれば、一応魔法が使える程度の戦士が出来る。
俺も一度考えたことがあるが、一時的に便利なだけな割に、他のクラスの資格取得が面倒くさすぎるという理由でやめた。
「いえ、その……」
彼女は答えようとして、唐突にそれを打ち切ったように、露骨に話を変えた。
「どうして、そんなこと聞くんですか?」
個人的な事を根堀り葉掘りするつもりはない。俺としては今魔法職であるならそれで充分だ。
「もちろん仕事に使うからね」
「え……」
「基本魔法の火とか昏睡は使えるんでしょ?」
「火や昏睡を……? 使って……え……?」
俺の顔を何度も伺い見るようにのぞき込み、ぶるぶるとためらいに震え始めた。
「そういう、趣向もあるんですね……世の中には」
「うん? まあ、君の能力が活かせると機会だと思うよ」
ひょっとすると会話がズレているのではないか、と思いつつも、興味自体は示しているし、変に問いただして水を差すのも嫌だったので、気にしないことにする。
「どうかな?」
「でも……うーん。お話は、魅力的だと、思うんですけど……」
かなり悩んでいるが、興味はちゃんとあるようだ。
まあ、俺が怪しいってことはわかっているし、即決も難しいだろう。
こっちとしてはすぐにでも、返事を貰いたいところだが、まあ元がダメもとということもあるし、変に粘らないでおこう。
「すぐに返事が出せないなら、夜まで待つよ。迷宮の前で9時ぐらいまでは待ってるから」
「……迷宮で、ですか?」
「うん」
「どうしてわざわざ……この近くじゃ、ダメなんですか?」
「夜の歓楽街で待ち合わせしたら混むし、変なのに絡まれるよ? それに仕事場へはすぐ行けた方がいいでしょ」
「え……仕事って、迷宮で、するんですか?」
何やら自信なさげに俯く。
見かけからして初心者冒険者だけど、いくらなんでも迷宮に入ることを躊躇していたら、話にならないと思うのだが。単に夜に迷宮に潜ったことがないから不安だとか、そういうことだろうか。
「そりゃ、魔法を使うんだから迷宮だよ。夜だけどちゃんと案内もするから」
「そうですか。まあ……言われてみればそうなのかもしれませんけど」
迷っているのか困惑しているのか、彼女はぶつぶつと小さく地面に向かって聞こえないぐらいの言葉の粒を落としていた。最終的には顔を上げた。ローブのフードの下で、薄っすらと金色の瞳が見える。
「……わかりました。何時に行けばいいですか?」
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