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さぁ、仕上げましょう。

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 呼び出された場所は、ウトとトメの私室である。
 無駄に成金趣味よろしく豪華で、目がもはやチラチラする。ああ、気持ち悪っ。

 密かに嫌悪感を押し殺しつつ、私とチャーリーは何故か正座をさせられていた。

 もうお二人はとてもとてもお怒りである。
 理由は明白だ。
 数々の施策を打ち出した結果、国庫をかなり吐き出したからだ。さらに溜め込んだ食料も順次市場へ流す手はずにもなっていて、それにも気づいたらしい。

「お前たちはいったい何を考えているんだっ!」

 ウトが顔を真っ赤にしつつツバを飛ばしながら吠えた。
 わー。そんなに叫んだら頭の血管切れますよー。ますます髪の毛抜けちゃいますよー。
 朗らかに私は思いつつ、にこにこ笑顔を保っている。

「ちょっと何を笑っているのっ! これ、これだけの赤字っ……! 私たちがどれだけ苦労して溜め込んだと思ってるのっ! これもあれも、全部あなたたちが飢えないようにしているためなのにっ!」

 なーにほざいてんだか。
 自分たちが楽したいだけでしょー?
 よくもまぁそんなホラを堂々と吐き出せるものである。面の皮厚すぎる。ついでにメイクも厚すぎるぞ、トメ。ほら、頬にヒビが。

「このままでは国家が転覆してしまうではないかっ! どう責任を取るつもりだっ!」
「責任を取るも何も、国家のためですけど?」

 私は当然のように言い返し、正座をやめて立ち上がる。あー。めんどくさ。

「な、なんだと!?」
「この三週間、色々と確認させていただきました。帝国の失態により、経済状況が明らかに悪化しているというのに何もしてこなかったせいで、市中には不況の気配が漂っていたんですよ?」
「何をふざけたことをっ! ちゃんと経済は回っていたわ!」
「あんたたちの間ではね。知ってるのよ。商人協会の会長、帝国中央からやってきた商人とズブズブの関係だったってこと」
「「うぐっ!?」」

 ぶちまけると、二人は気まずそうに唸った。
 こいつらはあろうことか、売国行為を働いていたのである。国の経済がどうなろうと、国民が飢えてどうなろうと、自分たちさえ助かれば大丈夫だろうとタカを括っていたのである。

 結果、帝国の傀儡になるしかないか、反乱が起きて処刑されるかの暗い未来しかないのに、だ。

 そんなの、絶対にゴメンこうむる。
 何より私たちは国ためにあるべきなのだ。

「だから国民の食糧事情、経済事情を守るために色々と施策を取った。それだけのことよ。もう諸々動いているんだから、むしろ止めるほうが責任問題ね。そっちで責任とってくれるワケ?」
「なっ、き、きさまっ!」
「ちょっと、嫁の分際で偉そうにっ!」
「だったら僕から言えばいいのかい?」

 さらに激昂するウトとトメに冷や水を浴びせたのは、チャーリーである。

「悪いともなんとも思ってないけど、今回の一連、全部僕はメイが正しいと思ってるよ。だから僕も協力したんだ」
「「なっ…………っ!?」」
「ちなみに、他にも不正の証拠がズラズラと出てきたわよ。これとかこれとか」

 めちゃくちゃ多忙だったのは、この不正を正すためでもあった。
 もう本当に。うんざりするくらい。

 ぎろっと睨みつけると、二人の顔がどんどん青くなっていく。

 情けないを通り越しているのだ。もう。
 私は小さくため息をついた。

「これ以上、僕たちはあんたたちに国を預けておけない」
「な、なんだとっ!」
「親父。母上。今すぐ引退してくれ。二度と国政に関わらないで、静かに隠居してほしい。そうすれば――」
「ふざけるなっ!」

 チャーリーの最後の情けを、ウトは切り捨てるように剣を抜いた。トメも援護するように、壁にたてかけてあった薙刀を手にする。
 って、おいおい、本気なの?
 私は呆れながら前に出る。さすがに肉親同士、戦わせるわけにはいかない。

「腐った嫁にほだされおったか、それがこの結果か!」
「あんた、命ないわよっ!」

 ウトとトメが同時に飛び掛ってくる。
 なるほど、動きは確かに鋭い。王族らしく鍛えてはいたのだろう。だがしかし。

「メイ、やっちゃって」

 チャーリーの鶴の一声を待って、私は地面を蹴った。
 一瞬で懐へ飛び込むと、手刀でウトの手首を叩き、剣を奪ってから天井に投げ捨てる。隙だらけっ!

「必殺っ! 今までの恨み晴らさせてもらうぜチョップ連打ああああっ!」

 私は高らかに叫びながら、あたたたっ! とチョップを何度も叩き込む。

「あだぁっ!?」

 泣き叫ぶようにうずくまるウト。

「あなたっ!? こ、このダメ嫁めっ!」

 今度はトメのほうへ。
 薙刀の刃を左に回避しつつ、こっちも接近。

「うるせぇこのイビリしかシュミのないうんこ姑がっ! 怒りのチョップ!」

 こっちもチョップを何度も叩き込む。

 びしいぃっ! と良い音。

 さらにデコピンを何度も入れてから、しっぺで手首を何度も叩いて薙刀をはたき落とす。
 それでも二人は無謀にも殴りかかってきたので、仕方なく二人とも投げ飛ばした。ぺいぺーいっ! である。

「「おひいいいいっ!」」

 尻もちを強制され、腰に大打撃を受けたらしい。二人は情けない姿勢で倒れこんだ。ああ、ごめん。ちゃんと手加減したつもりだったんだけど。
 思ったより腰、弱かったのね。

「さて」

 私は拳をバキバキ鳴らしながら、ウトとトメに近寄っていく。
 まるで怪物を見るかのように怯え、二人は後ずさりしようともがく。が、腰の激痛のせいか、うまく動けない。

「あんたらが散々私にしてきた嫌がらせを思うと、まだまだまだまだ私には殴り倒す権利があると思うんだけれども」
「「ひいっ」」
「あ、僕も止めないからね」
「「そんなっ!?」」
「やりすぎ。親子の情が消えるくらいには、やりすぎなんだよ」

 チャーリーからの絶縁宣言に、二人は顔を真っ白にさせた。
 まぁ赤くさせたり青くさせたり白くさせたり面白いこと。

「でもまぁ、私も命を奪おうとか、これから先ずーっとやり返すとか、そんな湿っぽいことはしたくないの。本当はね。でも……」

 私はとびっきりの笑顔を浮かべる。

「ここであんたらが完全に隠居するって言わないなら、死んだほうが一〇億倍くらいマシって思えるようなナニかを毎日するかもしんない。それでもいいなら、今のままでいいわよ?」

 答えは、一つに決まっていた。

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