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後日談、4

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 ミアータは四人の聖女候補生の中では一番可能性というか、資質に恵まれている。
 一般人だから自分の身の回りは全部できるし、負けん気が強いし、体力もかなりある。魔法の才能だって恵まれてる。性格だって、人の痛みを知っているから慈しみだってちゃんとある。
 何より英雄の運命を背負っている。

 そう、資質は。

 でも――……今の状態じゃあ、とても選べるとはいえないわね。
 私はもう一つのグラウンドで訓練に励むミアータを見て、そう内心で評した。

「まだ、まだぁっ……!」

 全身ボロボロなのに、ミアータは気合だけで立ち上がる。
 その根性は褒め称えたい。他の三人よりも遅れて候補生に選ばれたから、その差を埋めたくて必死なんだろう。

 でも、そのせいで周りが見えなくなってるっぽい。

 今日のミアータの特訓に付き合っているのは、学院の教師陣だ。
 で、もう教師陣も限界である。
 いやホントよく付き合ってあげてるわね。

「そこまでよ、ミアータ」

 私は教師陣を庇うような位置に着地して、腕を組んでハッキリと言う。

「テレジア様っ!?」
「うわっと!」

 ミアータはさっきまでフラフラだったとは思えない機敏さで私に抱きついてきた。勢い任せのダイブに近い感じだったので、慌てて受け止める。
 しれっと触診してみる。
 うーん。だいぶ疲れてるわね、これ。

「嬉しいっ! 特訓に付き合ってくれるんですね!?」
「いやまだ何も言ってないけど私」
「では特訓お願いしますっ! 聖女になるために、私、強くなりたいので!」
「待って落ち着いて?」
「ふおおおおおおおおおおっ!」
「落ち着けって言ってんでしょうがイノシシか何かかあんたはっ!」

 容赦なく突っ込んでくるミアータにチョップを叩きいれる。

「んぐうっ!?」

 またもや予想よりもイイ場所に入り、ミアータはその場で女子らしからぬ呻き声をあげながらうずくまった。
 もしかして、だけど、ミアータの頭ってチョップしやすい……?

 いやいや、今はそこじゃない。

 私は頭を左右に振ってからミアータが落ち着くのを待つ。

「い、いたたた……」
「落ち着いたかしら、ミアータ?」
「はい。うぅ、少しは近づいたと思ったのに。私、まだまだですね。もっともっと特訓しないと! 訓練メニューを増やさないと……今の倍? いや、一〇倍っ!」
「いや落ち着け」

 いきなり闘志を燃やし始めたミアータに、私はすかさずツッコミを入れる。
 確かに熱血だわ。
 世界観間違えた熱血だわ。キアって的確な表現するのね。

「テレジア様?」
「いい? 確かに訓練は大事だけど、やりすぎてたら意味がないのよ」
「でも……」
「聖女の仕事は確かに過酷。だから体力をつけようとするのは正解。でも、体力だけをつけようとするのは間違いよ」

 不安そうにするミアータに、私は言い含める。

「聖女は休める時にしっかり休むの。体力をばっちり回復出来るようにね」
「体力を、回復」
「今のミアータの身体、自分でどうなってるか分かる?」

 聞くと、ミアータは少しだけ訝しむように首を傾げた。

「ちょっと疲れてる?」
「ちょっとどころじゃないわよ。あちこちガタがきてるってば」

 そう。いつ倒れても不思議がないくらいに。

「ミアータ。あんたは頑張りやだから無理もしちゃうんだと思う。で、自分を追い込みすぎて、それにも気づけなくて、ある日いきなり糸が切れたように倒れちゃうのよ」
「うっ」

 思い当たる節でもあるのか、ミアータは痛いところを突かれたように呻いた。

「そうなると長期間離脱もありえるわけで。もし聖女になってそんなことしたら大変よ?」
「た、確かに」
「そうならないように、休める時はしっかり休む。自分でちゃんと無理をしてるって意識を持つことが大事なのよ」
「うう……でも、でも私……」
「みんなに追いつきたいって気持ちは分かるけどね」

 でも、だ。

「後、特訓って身体を苛めることだけじゃないからね?」

 笑顔で言うと、ミアータはびくっと肩を震わせた。

「聖女には幅広い知識が求められるわ。ミアータ?」
「ひ、ひいっ」

 ちゃんと私は知っているのだ。ミアータの座学の成績を。
 悪いわけではないが、良いわけでもない。
 正直、他の聖女候補生と比べるとかなり低い。教養という点ではもっと努力しないといけないはずだ。

「勉強、ちゃんとするように。むしろ特訓するならそっちになさい」
「はうっ」
「聖女になりたいなら、嫌がってられないんだからね。後、今日はここでおしまい。っていうか、一週間は身体を動かす特訓禁止ね? つか勉強しなさい」
「えええええ……」
「私の言うことはちゃんと守るように。いいわね?」

 私が念押しで言うと、ミアータは小さくなりつつも頷いた。
 よしよし。
 ミアータは根が真面目だから、ちゃんと聞くだろう。やる気とかはみなぎりまくってるから暴走しやすいのよね。ちゃんとセーブしてくれる人を探しておかないといけないかもしれない。
 まぁ、彼女の頑張りを見ると応援したくなるし、頼まれたら付き合ってやりたくなるのが人情ってもんなんだけどね。この子、そのつもりはないだろうけど、天然の垂らしだわ。

 なんて思いつつ、私はミアータを医務室に連れて行ってから宿に戻る。

 夕食が用意されているのだろう、なんだか良い香りだ。
 私はうきうき気分で自室へ戻った。

「お帰りなさい。テレジア」

 待っていてくれたのはイーグルだ。
 すでに食事はある程度用意されているようで、私はすぐに手洗いとうがいを済ませてから席につく。

「美味しそうね」
「西部は豊かな土地ですからね。どの食べ物も新鮮で旨味が強いと聞きます。それがふんだんに使われていますよ」
「うーん、垂涎ものね。さっそくいただきましょう」
「はい。《シスター》に関する情報も集まりましたから」

 おっと? 予想よりもかなり早い。
 ってことは、と思いつつイーグルに目線を送ると、イーグルは自信ありげだった。

「彼女のドジっ子属性の秘密、分かりましたよ」



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