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後日談、3
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《シスター》には、何かある。
私の聖女としてのカンがそう告げていた。
「今日はここまでにしておきましょうか。お茶会はまた明日にでも」
私が提案すると、キアもすぐに同意してくれた。
思うに、《シスター》のドジっ子属性は一度発動させると周囲を全滅させるまで続きそうな気がする。
さすがにそれはごめんこうむりたい。
その辺りは聖女候補生たちも知るところなのか、あっさりと解散した。
さて、と。
私は一息ついてから、イーグルを見た。イーグルも心得ている様子で、深く頷く。
「テレジア様。《シスター》について調べれば良いのですね?」
「さすがイーグル。うん。お願いするわ」
もう婚約者なのだから敬語なんて不要なんだけど、人前ではどうしてもそうなるらしい。
私も慣れてるので受け入れてしまっている。甘えなのかなぁ、これ。
などと思いつつ、私も頷いておいた。
彼の調査能力であれば、何かしら見つかる可能性が高い。
《シスター》に関しては、その時になって対応策を考えよう。キアの言うとおり、確かにあのドジっ子属性は危険すぎる。
「それじゃあ、宿に戻りますか?」
「そうね、一度戻りましょ」
今回は学院の生徒としてやってきているわけではない。
なので、宿を手配してあるのだ。
メリッサとアンゼルにもう一度お茶会のセッティングをお願いしてから、私たちは早いけれど宿に戻った。
◇ ◇ ◇
そして、夕日。
私はこっそり学院に戻ってきていた。他でもない、《アイドル》とミアータの様子を見るためである。この二人も放置しておけない。
まずは《アイドル》っと……。
気配を探り、私はグラウンドの方へ移動する。
ちらりと物陰から見ると、《アイドル》は動きやすい格好で入念なストレッチを行っていた。どうやら体力づくりするようだ。
うん。良いじゃない。
聖女という役職は過酷で、スケジュールもタイトだし、公務も疲れる。体力は絶対必要だ。《アイドル》はちょっとその点が不安だったんだけど……。
「ちゃんと自分で弱点を見て、直そうってことね」
以外にも真面目である。
ぶりっ子的な甘えん坊だと思っていたけど、そのあたりは脱却しようとしているのだろう。これは邪魔しない方がいい。
もちろん危ない行為は咎めるべきだが、その様子もない、し――。
と、思った矢先だ。
けたたましい足音が、いくつも重なった。
「「「ティナ様っ!!!!!」」」
どこからともなく全方位からやってきたのは、ピンクのはっぴを纏った男ども。
って、おいおい。
どう見ても《アイドル》の親衛隊たちだ。
彼らは一瞬にして《アイドル》を囲い、あれやこれやと世話を焼き始める。タオルだのレモン水だのエールだのねぎらいだの。決して触れようとしないのは何かしら彼らの中でのルール付けなのだろうが……。
どう見ても迷惑だ。
実際、《アイドル》も困惑している。なんとか笑顔で対応して柔らかく逃げようとしているが、相手の押しが強すぎる。
なるほどー。これは問題だわ。
私は呆れのため息を一つ漏らし、そっと物陰から出た。
「《痺れなさい》」
指先から閃光がほとばしり、親衛隊たちだけに軽い電撃を浴びせる。
「「「ぴいっ!」」」
全身を痺れさせ、親衛隊たちはあっさりとその場に膝をついた。
もちろん手加減に手加減したからダメージなんて残らない。ほんの数分痺れてしまうくらいだ。
「やりすぎよ、あんたたち」
私は声をかけつつ、《アイドル》の傍に立つ。
「て、てててテレジア様っ!?」
親衛隊の一人が驚愕の声をあげる。あ、しゃべれるのか。これは思ったより弱い電撃を与えたっぽい。
まぁ、動いたら動いたでまた痺れさせればいいか。
「どうも。で、さっきの見てたんだけど。明らかにやりすぎ」
「や、やりすぎだなんてっ!」
「俺たちは親衛隊としてティナ様のためにっ!」
「日々あれこれお世話させていただいているだけですっ! 聖女として世界にはばたくためにっ!」
痺れて立てないのに力強く訴えてくるその姿勢は褒めたい。
けど、本当にありがた迷惑だ、これは。
私は全員に聞こえるくらいの大きさでため息をついた。
「それがやりすぎだって言ってるの」
ついでに一睨みきかせると、全員黙り込んだ。
「あのね。聖女ってのは、時として一人で色々とやらないといけないの。特に遠征になったら、野宿とかもしないといけない。サバイバル知識も必要になってくるってワケ」
これは実体験だ。
「身の回りのことはもちろん、その状況でもみんなを見て、慈愛の心を持って接していかなきゃいけないの。そして、そんな辛い場面は見せないようにしないといけないの」
それなのに、ここでそんなチヤホヤされてたら出来るはずがない。
ちなみに親衛隊たちが付き添うことは許されないし、無理。場合によっては過酷な戦場にも出向くのである。
聖女は公務だ。アイドルではない。
甘えなど一切許されないのである。
「だから、ティナは今、一人で出来るように頑張ってるの。もしティナを本当に聖女にさせたいなら、黙って見守ってやるべきよ」
「「「うう……」」」
「後、フツーにキモい」
「「「ひどいっ!?」」」
「絵面考えなさいよ絵面っ! そんな一緒の格好した男子どもがわらわらと女子一人を囲んであれこれ世話焼いてる場面なんてヤバいの一言しかないわ!」
もちろん逆だったとしても私は引く。
それだけ普通ではない状況だって意味で。
「良い? あれこれ何でもかんでもやってあげることは必ずしも本人のためになると思わないこと! あんたらがやってることは善意の押し付け。そういうのは文字通り迷惑なのよ!」
「「「…………っ!」」」
衝撃を受けて、親衛隊の全員が黙り込む。
私はすかさず《アイドル》へ視線を送った。言うなら今しかない。
「う、うん。私も、一人で頑張ってみたい、かな。気持ちは嬉しいんだけど」
その一言は決定打だった。
親衛隊たちは口々に謝罪し、動けるようになった人から帰っていった。
最後の一人を見送って、私は《アイドル》の額を軽く指で弾く。
「お人よしなのも悪いことじゃないけど、ハッキリ断るのも優しさよ」
「はい。注意します」
「分かればよし。それじゃあね」
私が言うと、《アイドル》は大きくお辞儀をしてからランニングを開始した。
よしよし。これで彼女も大丈夫だろう。
次は――ミアータね。
私の聖女としてのカンがそう告げていた。
「今日はここまでにしておきましょうか。お茶会はまた明日にでも」
私が提案すると、キアもすぐに同意してくれた。
思うに、《シスター》のドジっ子属性は一度発動させると周囲を全滅させるまで続きそうな気がする。
さすがにそれはごめんこうむりたい。
その辺りは聖女候補生たちも知るところなのか、あっさりと解散した。
さて、と。
私は一息ついてから、イーグルを見た。イーグルも心得ている様子で、深く頷く。
「テレジア様。《シスター》について調べれば良いのですね?」
「さすがイーグル。うん。お願いするわ」
もう婚約者なのだから敬語なんて不要なんだけど、人前ではどうしてもそうなるらしい。
私も慣れてるので受け入れてしまっている。甘えなのかなぁ、これ。
などと思いつつ、私も頷いておいた。
彼の調査能力であれば、何かしら見つかる可能性が高い。
《シスター》に関しては、その時になって対応策を考えよう。キアの言うとおり、確かにあのドジっ子属性は危険すぎる。
「それじゃあ、宿に戻りますか?」
「そうね、一度戻りましょ」
今回は学院の生徒としてやってきているわけではない。
なので、宿を手配してあるのだ。
メリッサとアンゼルにもう一度お茶会のセッティングをお願いしてから、私たちは早いけれど宿に戻った。
◇ ◇ ◇
そして、夕日。
私はこっそり学院に戻ってきていた。他でもない、《アイドル》とミアータの様子を見るためである。この二人も放置しておけない。
まずは《アイドル》っと……。
気配を探り、私はグラウンドの方へ移動する。
ちらりと物陰から見ると、《アイドル》は動きやすい格好で入念なストレッチを行っていた。どうやら体力づくりするようだ。
うん。良いじゃない。
聖女という役職は過酷で、スケジュールもタイトだし、公務も疲れる。体力は絶対必要だ。《アイドル》はちょっとその点が不安だったんだけど……。
「ちゃんと自分で弱点を見て、直そうってことね」
以外にも真面目である。
ぶりっ子的な甘えん坊だと思っていたけど、そのあたりは脱却しようとしているのだろう。これは邪魔しない方がいい。
もちろん危ない行為は咎めるべきだが、その様子もない、し――。
と、思った矢先だ。
けたたましい足音が、いくつも重なった。
「「「ティナ様っ!!!!!」」」
どこからともなく全方位からやってきたのは、ピンクのはっぴを纏った男ども。
って、おいおい。
どう見ても《アイドル》の親衛隊たちだ。
彼らは一瞬にして《アイドル》を囲い、あれやこれやと世話を焼き始める。タオルだのレモン水だのエールだのねぎらいだの。決して触れようとしないのは何かしら彼らの中でのルール付けなのだろうが……。
どう見ても迷惑だ。
実際、《アイドル》も困惑している。なんとか笑顔で対応して柔らかく逃げようとしているが、相手の押しが強すぎる。
なるほどー。これは問題だわ。
私は呆れのため息を一つ漏らし、そっと物陰から出た。
「《痺れなさい》」
指先から閃光がほとばしり、親衛隊たちだけに軽い電撃を浴びせる。
「「「ぴいっ!」」」
全身を痺れさせ、親衛隊たちはあっさりとその場に膝をついた。
もちろん手加減に手加減したからダメージなんて残らない。ほんの数分痺れてしまうくらいだ。
「やりすぎよ、あんたたち」
私は声をかけつつ、《アイドル》の傍に立つ。
「て、てててテレジア様っ!?」
親衛隊の一人が驚愕の声をあげる。あ、しゃべれるのか。これは思ったより弱い電撃を与えたっぽい。
まぁ、動いたら動いたでまた痺れさせればいいか。
「どうも。で、さっきの見てたんだけど。明らかにやりすぎ」
「や、やりすぎだなんてっ!」
「俺たちは親衛隊としてティナ様のためにっ!」
「日々あれこれお世話させていただいているだけですっ! 聖女として世界にはばたくためにっ!」
痺れて立てないのに力強く訴えてくるその姿勢は褒めたい。
けど、本当にありがた迷惑だ、これは。
私は全員に聞こえるくらいの大きさでため息をついた。
「それがやりすぎだって言ってるの」
ついでに一睨みきかせると、全員黙り込んだ。
「あのね。聖女ってのは、時として一人で色々とやらないといけないの。特に遠征になったら、野宿とかもしないといけない。サバイバル知識も必要になってくるってワケ」
これは実体験だ。
「身の回りのことはもちろん、その状況でもみんなを見て、慈愛の心を持って接していかなきゃいけないの。そして、そんな辛い場面は見せないようにしないといけないの」
それなのに、ここでそんなチヤホヤされてたら出来るはずがない。
ちなみに親衛隊たちが付き添うことは許されないし、無理。場合によっては過酷な戦場にも出向くのである。
聖女は公務だ。アイドルではない。
甘えなど一切許されないのである。
「だから、ティナは今、一人で出来るように頑張ってるの。もしティナを本当に聖女にさせたいなら、黙って見守ってやるべきよ」
「「「うう……」」」
「後、フツーにキモい」
「「「ひどいっ!?」」」
「絵面考えなさいよ絵面っ! そんな一緒の格好した男子どもがわらわらと女子一人を囲んであれこれ世話焼いてる場面なんてヤバいの一言しかないわ!」
もちろん逆だったとしても私は引く。
それだけ普通ではない状況だって意味で。
「良い? あれこれ何でもかんでもやってあげることは必ずしも本人のためになると思わないこと! あんたらがやってることは善意の押し付け。そういうのは文字通り迷惑なのよ!」
「「「…………っ!」」」
衝撃を受けて、親衛隊の全員が黙り込む。
私はすかさず《アイドル》へ視線を送った。言うなら今しかない。
「う、うん。私も、一人で頑張ってみたい、かな。気持ちは嬉しいんだけど」
その一言は決定打だった。
親衛隊たちは口々に謝罪し、動けるようになった人から帰っていった。
最後の一人を見送って、私は《アイドル》の額を軽く指で弾く。
「お人よしなのも悪いことじゃないけど、ハッキリ断るのも優しさよ」
「はい。注意します」
「分かればよし。それじゃあね」
私が言うと、《アイドル》は大きくお辞儀をしてからランニングを開始した。
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次は――ミアータね。
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