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後日談、2

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 そして、二週間後。
 私は再び西部の学院の地に足を踏み入れていた。もちろん旦那様であるイーグルもついてきている。本当は私だけで良かったんだけど「何するか分かりませんから」と言われてしまったのである。

 失敬な。

 何するか分かりません、じゃないわよ。その時に応じてとんでもないことをやらかすっていうほうが正しいっつうの。
 ……あんまり変わらない気がした。
 閑話休題。

 ともあれ、だ。

 聖女の来訪ということで学院はお迎えムード一色だ。馬車に向かって手を振ってきてくれるわけで。
 まずキアが下りて、拍手と喝采を一身に受ける。
 自慢ではないが、キアは本当に見栄えする。もちろん中身もしっかり伴ってるからなんだけど。

「さて、私ね」

 馬車の扉から、私が下りる。
 さぁ、感動の再会よ。みんな喜んで————。

 ……………………あれ?

 どうしてかなー?
 なんでみんな沈黙しちゃってるのかなー? 緊張?
 私はにこにこ笑顔で手を振る。
 瞬間だった。

 一気に大歓声が巻き起こったのである。

 いや、言わせてないしやらせてないからね!?
 私だって本気で驚いたから!
 っていうか誰に言い訳してるんだ、私は。


 ◇ ◇ ◇


「どうぞ、お茶ですわ」

 学院の中でも大きめのテラス席に通してもらって、私とキアにお茶が運ばれる。セッティングしてくれたのはメリッサとアンゼルだ。
 二人は学院の平和を維持するために、色々と頑張っているらしい。

 だからなのか、二人はいつの間にか仲良しになっていた。

 実にいいことである。
 あ、お茶も美味しい。

「ありがとう、美味しいわ」
「うれしいです。ありがとうございます」

 お礼を言うと、メリッサとアンゼルは気恥ずかしそうに頷いた。
 うんうん、貴族らしくなってるね。良かった良かった。

 感慨深くなっていると、イーグルの目線を感じた。

 なんだか誇らしそうにもじもじとニヤニヤしている。
 もしかしてあれか。私の功績が認められたから嬉しいのか。まったく。本当にもう。
 私もつられて微笑むと、同席している四人の聖女候補生の一人――《エース》が控えめに手を挙げた。

「あ、あの、一つ質問よろしいですか」

 早速来たか。
 瞬時にしてキアの笑顔が僅かに強張る。ここは私の出番だろう。
 元聖女としての余裕、見せてあげないとね。

「もちろん。どうぞ」
「その前に、ごほん。本日は聖女様ならびに元聖女にして学院の英雄であらせられる風紀委員のテレジア様にお越しいただける光栄の場に居合わせられること誠に喜ばしく思います天もまるでそれを祝福するかのような朗らかでいて力強い素晴らしく見事なここ近年でも稀なぐらいの晴天で」
「くどい」
「ごじゃった────っ!?」

 ずごんっ。
 と、割りと重い音を立ててチョップが《エース》の脳天に沈む。
 愉快な声をあげながら、《エース》はテーブルに顔面を直撃させた。

「あ。ごめん」

 つい本能的な一撃が出てしまった。
 ごめん。元聖女の余裕なんてこんなもんだった。

「……いや、早いですね?」
「いい、キア。こういうのは早めに焼き払うことが大事なのよ」
「摘むじゃなくて焼き払うんですか……?」
「根っこが残ってたらまた生えるでしょ」
「確かに」

 キアが何かを得たように頷く。
 すぐ向かいに座るメリッサとアンゼルが顔を思いっきりひきつらせたし、ミアータたちも一気に背筋を伸ばした気がする。

 いや気のせいよね?

 ちょっと緊張した空気になりつつあるが、それを破るかのように《エース》が顔を起こした。

「い、今の一撃はいったい……」
「良い? 貴族は確かに儀礼を重んじるわ。挨拶も大事だと思う。でも、それはスマートな美しさであるべきよ。無駄に長い口上をあげれば丁寧になると思ったら大きな勘違いなの。だからぶったぎったのよ」
「か、勘違い……!?」
「人は生きている以上命に限りがあるわ。そして話をするってことは、自分と誰かの時間を削ってるってことなの。もちろん中身があるなら許されるけれど、目的が単なる挨拶ってだけなのに、えんえんと話す意味はないでしょ」
「……——っ!?」
「あらゆる美辞麗句を並べて称えたいのかもしれないけど、そんなの成金趣味でしかないわ。ハッキリいってダサいし、聖女としての資質に欠けるわね」
「ひゅうっ」

 ズバって切ったところで、《エース》は変な声をあげて力なく椅子にもたれかかった。あ、魂抜けそう。

「あらあら、大丈夫ですか? お気を確かにひぃっ!」

 そんな《エース》を慰めようと、《シスター》が肩を撫でようとした矢先、なんでか椅子ごと滑ってシスターは姿勢を崩し、思いっきりその肩に肘打ちを見舞う。

「はううっ!?」
「きゃああっ、ご、ごめんなさいっ!」

 いきなり始まった惨劇に《シスター》が動揺してのけ反る。瞬間、また椅子が滑って後ろに転倒、素晴らしい確度で《シスター》の蹴り足が《エース》の顎に突き刺さった。
 がつ。と、綺麗に入った音。

 あ、これアカンやつ。

 私はすぐに椅子から飛び出し、顎を綺麗に蹴り抜かれて意識を失った《エース》を抱きよせ、素早く《シスター》から離れた。
 こてん、と、軽い音を立てて《シスター》はしりもちをつく。

「きゃあ、あ、ごめんなさいっ。私ったら……」
「大丈夫だから、慎重に起きてね」

 私は優しく言いつつ、しっかりと距離を取る。
 こ、これが噂に名高い《シスター》のドジっ子属性……! 確かに致命的だわ。主に周囲が。
 ごくり、と喉を鳴らす。

「い、いけないわ。テレジア様っ!」

 キアが警告をしたと同時に、《シスター》はゆっくりと起き上がり、手を置いたテーブルがいきなり弾けたっ! ってどうしたらそうなるのっ!?
 驚きつつ逃げるが、メリッサとアンゼルが間に合わなかった。

「「きゃあっ!」」

 まともに顔面を強打し、二人とも床に転がる。
 う、うわぁ、あれは痛い。
 ミアータと《アイドル》はさすがに反応して回避したみたいだけど、思いっきり顔を引きつらせている。いや、そりゃそうよ。

 これは、思ったより危険だわ……。

 私は背筋を凍らせつつ、《シスター》を見た。
 彼女のドジっ子属性、何かある……っ!

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