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ぶっ飛ばす!
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不吉なドラゴン。
かの漆黒の肌を持つドラゴンは、そう呼ばれている。歴史上、力と災いを同時に王国へもたらし、混乱に叩き落とす存在として恐れられている。
ふう、と、テレジアは息を吐いた。
突如現れたドラゴンからの不意打ちのせいでダメージを受けてしまっている。さらに、みんなを避難させることを優先したせいで不利な防戦を強制され、疲れている。
そんなテレジアを助けようと、四人の聖女候補生も協力してくれたが、あえなく倒されている。
無理もない。
何せ、彼女たちに力を与えたのは他でもない、この不吉なドラゴンなのだから。
本来、このドラゴンを追い払うには討伐軍を編成し、犠牲を払わなければかなわない。
『ルオォォオオオンっ!』
ドラゴンが咆哮を放ち、凶悪な牙の揃う口から豪快な焔が放たれる。
空気が白熱し、地面が真っ黒に焦げてぼろぼろになっていく。その破壊の範囲は広く、威力も絶対に直撃は避けたい威力だ。
当然、テレジアもイーグルも回避している。
圧倒的な危機だった。
ひゅう、と熱せられた空気を吸い込み、テレジアはドラゴンを睨んだ。
「ちょっと、やるじゃないの」
「いや、ドラゴン相手にそんな上から目線聞いたことありませんよ」
「こんな時にでもツッコミをどうも」
テレジアは汗を拭う。
この日のために用意したとっておきのドレスはもうズタズタで、生徒たちと商人たちが力を合わせて設営した会場もボロボロだ。
人命最優先で動いたせいで、設備までは手が回らなかった。
――まだまだね、私も。
テレジアは軽いめまいを覚える。
空気が焼き尽くされたせいだろう、肺に入ってくる気配が薄い。
『――グォオオオオンっ!』
またドラゴンが唸り、巨体を駆って爪の猛攻撃をくわえてくる。左へ逃げると、そこに火炎のブレスが叩き込まれてきた。
素早くイーグルが着地し、剣を地面に突き立てる。
「大地よ、守護の方陣!」
魔力を開放し、光の結界を展開。
凄まじい炎を受け止めるが、あっという間に結界が熔けていく。
「威力が、さっきよりも増してる!?」
「最上位祈聖防壁っ!」
驚くイーグルの後ろで、テレジアが魔法を展開、結界を最大強化した。
だが、それでもブレスの威力が勝る。
結界が弾け、二人は吹き飛ばされた。
「テレジアっ!」
イーグルが必死にテレジアを抱きとめ、炎の残滓を背中で受け止めながらも着地、テレジアへの被害を防ぐ。
「イーグルっ! 最上位祈聖回復魔法!」
背中から黒い煙を上げるイーグルに、テレジアは魔法をかけた。
見る間に傷が消えていく。
「すみません、テレジア……」
「いいのよ。こっちこそありがとう」
イーグルの判断は正しい。
テレジアが大ダメージを受けた場合、治癒魔法を実行することさえかなわないのだから。
「立てる?」
「もちろん」
テレジアは手を差し出し、イーグルを起こす。
『グルルル……』
唸り声だけで、身体が揺れた。
「あー、まったく……これも東欧王国の仕業なのかしらね?」
「確証はありませんよ」
「ま、聞き取り出来そうにもないものね」
ドラゴンはすっかり理性を失っている。
本来なら会話くらいは可能なはずだが、テレジアとイーグルとの戦いですっかり我を失っているらしい。
呆れてものも言えない。
「では、どうしますか?」
イーグルに逃げる姿勢はない。テレジアを逃がして自分は犠牲になろうとした男なのだから当然か。
テレジアは嬉しく思いながらも、無遠慮に野性的な笑みを浮かべた。
「決まってるじゃないの」
腕をぶんぶん振り回しながら、テレジアはどんどんドラゴンへ近寄っていく。
「ぶっ飛ばす」
と、野蛮な一言をたたき出す。
「テ、テレジア!?」
「誰かにのせられたんだか、自分でけしかけてきたか知らないけどね。私たちが頑張りに頑張って作り上げたこのイベント、よぉおおおくも台無しにしてくれたわね? しかも私の愛するイーグルにケガまで負わせてくれちゃって。あとドレスも台無しにしてくれちゃってさ」
全身からほとばしるのは、膨大な魔力。
かつてない量に、イーグルは一瞬だけ顔をひきつらせてから、さっさと距離を取る。
そう。テレジアはキレている。
それもかつてない程に。
あのアークレイの時でさえ、手加減できていたテレジアが、である。
「ドラゴンの分際でよくもまぁ……覚悟することねっ! そして永劫に反省し続けるがいいわ!」
テレジアが踏み込み、拳をつきだす。
聞いたことのない空気の破裂音が響き、周囲に衝撃波を放ちながら拳がドラゴンの顔面に文字通りめり込んだ。
あまりに重々しい音が響き、地面が大きくひび割れてから陥没していく。
「ブッ飛べぇええええええええ――――――――っ!」
ごうっ!
『ぎゅええええええええええ────っ!?』
奇声をあげ、ドラゴンがねじれ回転しながら上空へ殴り飛ばされていく。
ものの数秒で、ドラゴンは見えなくなった。
「星になって反省しなさい」
渾身の一撃を叩き込んだテレジアは手を叩きながら言い放つ。
そんな彼女に拍手を送るのは、イーグルただ一人だった。
「まさか凶悪きわまりないドラゴンをワンパンで仕留めるとは思いもしませんでした」
「ふんっ。みんなの結束を邪魔するからよ」
「さすがとしか言えませんね」
イーグルは言いつつも、テレジアに手を伸ばす。甘えるようにテレジアも手を取り、引っ張りあげてもらった。
それなりの勢いがついていて、テレジアはイーグルに抱き止められる。
「まったく……相変わらず心配させてくれる」
「できないことはしないわよ、私」
「分かってますよ。さて、とりあえず後片付けからですね。それから避難したみんなを呼び戻して、聖女候補生たちを治療して、イベントの続きをしましょう。まあ、完全に復活とはいきませんが」
「ええ、そうね」
ぎゅっと抱き合って、二人はまた口づけを軽く交わした。
かの漆黒の肌を持つドラゴンは、そう呼ばれている。歴史上、力と災いを同時に王国へもたらし、混乱に叩き落とす存在として恐れられている。
ふう、と、テレジアは息を吐いた。
突如現れたドラゴンからの不意打ちのせいでダメージを受けてしまっている。さらに、みんなを避難させることを優先したせいで不利な防戦を強制され、疲れている。
そんなテレジアを助けようと、四人の聖女候補生も協力してくれたが、あえなく倒されている。
無理もない。
何せ、彼女たちに力を与えたのは他でもない、この不吉なドラゴンなのだから。
本来、このドラゴンを追い払うには討伐軍を編成し、犠牲を払わなければかなわない。
『ルオォォオオオンっ!』
ドラゴンが咆哮を放ち、凶悪な牙の揃う口から豪快な焔が放たれる。
空気が白熱し、地面が真っ黒に焦げてぼろぼろになっていく。その破壊の範囲は広く、威力も絶対に直撃は避けたい威力だ。
当然、テレジアもイーグルも回避している。
圧倒的な危機だった。
ひゅう、と熱せられた空気を吸い込み、テレジアはドラゴンを睨んだ。
「ちょっと、やるじゃないの」
「いや、ドラゴン相手にそんな上から目線聞いたことありませんよ」
「こんな時にでもツッコミをどうも」
テレジアは汗を拭う。
この日のために用意したとっておきのドレスはもうズタズタで、生徒たちと商人たちが力を合わせて設営した会場もボロボロだ。
人命最優先で動いたせいで、設備までは手が回らなかった。
――まだまだね、私も。
テレジアは軽いめまいを覚える。
空気が焼き尽くされたせいだろう、肺に入ってくる気配が薄い。
『――グォオオオオンっ!』
またドラゴンが唸り、巨体を駆って爪の猛攻撃をくわえてくる。左へ逃げると、そこに火炎のブレスが叩き込まれてきた。
素早くイーグルが着地し、剣を地面に突き立てる。
「大地よ、守護の方陣!」
魔力を開放し、光の結界を展開。
凄まじい炎を受け止めるが、あっという間に結界が熔けていく。
「威力が、さっきよりも増してる!?」
「最上位祈聖防壁っ!」
驚くイーグルの後ろで、テレジアが魔法を展開、結界を最大強化した。
だが、それでもブレスの威力が勝る。
結界が弾け、二人は吹き飛ばされた。
「テレジアっ!」
イーグルが必死にテレジアを抱きとめ、炎の残滓を背中で受け止めながらも着地、テレジアへの被害を防ぐ。
「イーグルっ! 最上位祈聖回復魔法!」
背中から黒い煙を上げるイーグルに、テレジアは魔法をかけた。
見る間に傷が消えていく。
「すみません、テレジア……」
「いいのよ。こっちこそありがとう」
イーグルの判断は正しい。
テレジアが大ダメージを受けた場合、治癒魔法を実行することさえかなわないのだから。
「立てる?」
「もちろん」
テレジアは手を差し出し、イーグルを起こす。
『グルルル……』
唸り声だけで、身体が揺れた。
「あー、まったく……これも東欧王国の仕業なのかしらね?」
「確証はありませんよ」
「ま、聞き取り出来そうにもないものね」
ドラゴンはすっかり理性を失っている。
本来なら会話くらいは可能なはずだが、テレジアとイーグルとの戦いですっかり我を失っているらしい。
呆れてものも言えない。
「では、どうしますか?」
イーグルに逃げる姿勢はない。テレジアを逃がして自分は犠牲になろうとした男なのだから当然か。
テレジアは嬉しく思いながらも、無遠慮に野性的な笑みを浮かべた。
「決まってるじゃないの」
腕をぶんぶん振り回しながら、テレジアはどんどんドラゴンへ近寄っていく。
「ぶっ飛ばす」
と、野蛮な一言をたたき出す。
「テ、テレジア!?」
「誰かにのせられたんだか、自分でけしかけてきたか知らないけどね。私たちが頑張りに頑張って作り上げたこのイベント、よぉおおおくも台無しにしてくれたわね? しかも私の愛するイーグルにケガまで負わせてくれちゃって。あとドレスも台無しにしてくれちゃってさ」
全身からほとばしるのは、膨大な魔力。
かつてない量に、イーグルは一瞬だけ顔をひきつらせてから、さっさと距離を取る。
そう。テレジアはキレている。
それもかつてない程に。
あのアークレイの時でさえ、手加減できていたテレジアが、である。
「ドラゴンの分際でよくもまぁ……覚悟することねっ! そして永劫に反省し続けるがいいわ!」
テレジアが踏み込み、拳をつきだす。
聞いたことのない空気の破裂音が響き、周囲に衝撃波を放ちながら拳がドラゴンの顔面に文字通りめり込んだ。
あまりに重々しい音が響き、地面が大きくひび割れてから陥没していく。
「ブッ飛べぇええええええええ――――――――っ!」
ごうっ!
『ぎゅええええええええええ────っ!?』
奇声をあげ、ドラゴンがねじれ回転しながら上空へ殴り飛ばされていく。
ものの数秒で、ドラゴンは見えなくなった。
「星になって反省しなさい」
渾身の一撃を叩き込んだテレジアは手を叩きながら言い放つ。
そんな彼女に拍手を送るのは、イーグルただ一人だった。
「まさか凶悪きわまりないドラゴンをワンパンで仕留めるとは思いもしませんでした」
「ふんっ。みんなの結束を邪魔するからよ」
「さすがとしか言えませんね」
イーグルは言いつつも、テレジアに手を伸ばす。甘えるようにテレジアも手を取り、引っ張りあげてもらった。
それなりの勢いがついていて、テレジアはイーグルに抱き止められる。
「まったく……相変わらず心配させてくれる」
「できないことはしないわよ、私」
「分かってますよ。さて、とりあえず後片付けからですね。それから避難したみんなを呼び戻して、聖女候補生たちを治療して、イベントの続きをしましょう。まあ、完全に復活とはいきませんが」
「ええ、そうね」
ぎゅっと抱き合って、二人はまた口づけを軽く交わした。
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