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改めて作戦会議ね?
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「じゃあ改めて作戦会議ねっ!」
とりあえずあの場は解散し、テレジアは自分の家に戻っていた。
怯えるばかりのメリッサとアンゼルには帰ってもらっているので、相手はイーグルだけである。
そのイーグルは、お茶を淹れてからずっと難しい表情を浮かべていた。
ああ、本気で気まずい。
テレジアは内心で慌てている。
一言も発しないイーグルは、不機嫌なようで実は違う。かなり落ち込んでいるのだと、テレジアは良く知っている。
「……あの、イーグル、くん?」
おそるおそる声をかけると、イーグルは思い詰めたように顔をあげた。
「テレジア様」
「あ、はい」
「俺を処刑してください」
「なんでやねん」
真顔ではなたれたトンデモ発言に、テレジアは即座にツッコミを入れた。
だが、イーグルの表情は変わらない。
「いえ、俺はまたもや防ぐことができませんでした……っ! テレジア様が、また稀代の悪女だなんて……っ! なんて不名誉な!」
「お、いやー、それは……」
「可能性として危惧はしていたんです。しかし、もしかしたら上手く行くかもしれないと躊躇して……っ! くそ、時が戻せるならあの時の俺を殴りたい!」
「いやそこは素直に私を止めて?」
「ですがっ! テレジア様が、あの聖女のテレジア様が、稀代の悪女などと!」
「自分を許せない気持ちは分からないでもないんだけどさ。とりあえずなっちゃったもんは仕方ないわよ」
テレジアは苦笑しながら慰める。
そもそも身分を明かしたのはテレジア自身なのだ。そこまでイーグルが気に止める問題ではない。
とりあえずお茶を一口し、テレジアは息を静かに吐いた。
「今、考えるべきは今後のことよ」
事態は混沌としてしまった。
それも、予期せぬ方向に、である。
なんとか軌道修正をしなければならない。
ただでさえ激しい対立を起こしている三竦みの状態に、四人目が乱入し、更なる火種を呼び起こしているのだ。
加えて、その四人目の運命星座は勇者。
状況さえ整えば、英雄となるべき人物だ。
「限りなく厄介な状態ですね。特にミアータと女帝が危険だ」
「ええ、そうね。一気に最重要危険人物に認定だわ」
「特にミアータは危険だ。彼女は勇者の資質があり、こちらを敵視しています。何を仕掛けてくるのやら……いえ、おそらく真正面からぶつかってくるでしょうか」
大いにありうる可能性だ。
もちろんそうなってしまっても、テレジアがミアータに負ける理由はどこにもない。
それだけ、力の差が隔絶されている。
例えミアータが聖女候補生としての才能を開花させても、だ。およそテレジアの才能とこれまでの努力を覆せない。
本来ならば。
だが、ミアータの勇者たる運命の可能性は不確定要素だ。あらゆる不利をテレジアに、あらゆる有利をミアータに提供するだろう。
「正直なところ、それで学院がひとつに纏まるのならそれで構わないのよ。目的はどこまでいっても風紀と秩序の回復だからね」
そこに至る筋書きなど、それこそどうでもいいし、どうにでもなる。
問題は、ミアータではない。
「ミアータはヒロイックサーガでいう主人公ポジションよ。どこまでも自分と大事な仲間を信じて突っ走って成功をおさめる。だから、道さえ外さなければ問題ないし、学院の風紀と秩序ももたらすはずなのよ」
「と、なると?」
「その道を外させる存在がいるってこと」
「つまり女帝……イクノですか」
テレジアは頷いた。
今回、お茶会の場に現れた女帝は偽者だった。東部の貴族なのは間違いないが、その正体までは看破できていない。
だが、ろくでもないのは間違いないだろう。
「何を考えているのか、調査が必要だわ。なんとしてでも正体を掴むわよ」
「すでに見張りを手配して、対象は監視しています」
「あら、さすがね」
「とはいえ、何かしらの成果が出るとは考えにくいでしょう。相手は偽者とはいえ、切れ者でもある。監視がつくことを予測して、動かないと思われます」
「十分よ。相手を牽制できているだけでね」
苦い表情を浮かべるイーグルを、テレジアは褒める。
「手っ取り早く偽者を咎めるためには、本物のイクノを見つけるしかないわ」
「どこかに監禁されている可能性、ですね?」
「そうね。さすがに命を奪われてるって事態にはなってないと思うけど」
イクノは辺境伯の娘だ。
おそらくも何も、殺されたとなれば戦争間違いなしである。さすがにリスクが高すぎる。
……──まぁ、監禁も十分ヤバいけど。
テレジアは内心で呆れる。
故に影武者よろしく身代わりを用意したんだろうけれど、バレたらどっちみち戦争である。
今でこそ西部は王国の穀倉地帯と呼ばれるくらい自然豊かで穏やかだが、何代か前まではその地をめぐって骨肉の争いを繰り広げていた。
故に、辺境伯は実のところ武断派である。
それを知らない貴族はかなりの《新参者》だ。
テレジアの脳裏に、電撃のような閃きがやってくる。あっという間に点と点が繋がるように、正体が明らかになっていった。
「どうしました? テレジア様」
「……分かりやすく、相手がこの国の戦力を削ぐ目的だったとしたら? もしくは、内乱を引き起こして他国からの干渉のきっかけにするつもりとか」
「いきなり規模の大きい話になりましたね」
さすがにイーグルも眉根を寄せる。
だが、テレジアは真剣そのものだ。
「イクノの身代わりの所作は東部式だったわ。今回はそれを見抜けたから正体を見破れた」
「見事なお手前でした」
「そこなのよ」
自分の引っ掛かりを掴んだテレジアは、膝をぽんと叩いて前のめりになる。
「本来、旧来からうちの貴族であれば知っていて当然のはずなのよ。西部、中央、東部、様式が微妙だけど違うってこと」
そもそもテレジアはお茶会の所作で相手の正体を看破しようとは思ってもいない。
たまたま鋭い観察眼で違和感に気づいて見抜けただけだ。
「……なるほど。起こるはずがないミスだ、と?」
「本来ならね。でも現実として発生した」
「つまり相手は我が国の所作に慣れていない、と? そんな新しい貴族となれば、かなり限られてくるはずですね」
「候補は商人貴族、栄誉貴族だけど」
貴族の権利を買い取った商人か、何かしらの大きい功績を上げて貴族に取り上げられた誰か。
だが、とテレジアはすぐに打ち消した。
「身分的にありえないわね。準男爵か、良くて男爵よ」
「仕掛けるなら、もっと高位の貴族──しかし、そうなれば、所作のミスなどおかすはずもない……だとすれば」
「そこまでだ、二人とも」
嫌みなバリトンボイスが、部屋に響き渡った。本来なら聞くはずのない声だ。
ぎくり、と、テレジアは身体を強張らせる。
ゆっくり振り返ると、そこには白を貴重とした燕尾服姿の青年がいた。
瞬時にイーグルが全身を緊張させ、テレジアも身構えた。
喉が急速に乾いていく。
「アークレイ」
テレジアは、険しい声で名を呼んだ。
──許嫁の名を。
とりあえずあの場は解散し、テレジアは自分の家に戻っていた。
怯えるばかりのメリッサとアンゼルには帰ってもらっているので、相手はイーグルだけである。
そのイーグルは、お茶を淹れてからずっと難しい表情を浮かべていた。
ああ、本気で気まずい。
テレジアは内心で慌てている。
一言も発しないイーグルは、不機嫌なようで実は違う。かなり落ち込んでいるのだと、テレジアは良く知っている。
「……あの、イーグル、くん?」
おそるおそる声をかけると、イーグルは思い詰めたように顔をあげた。
「テレジア様」
「あ、はい」
「俺を処刑してください」
「なんでやねん」
真顔ではなたれたトンデモ発言に、テレジアは即座にツッコミを入れた。
だが、イーグルの表情は変わらない。
「いえ、俺はまたもや防ぐことができませんでした……っ! テレジア様が、また稀代の悪女だなんて……っ! なんて不名誉な!」
「お、いやー、それは……」
「可能性として危惧はしていたんです。しかし、もしかしたら上手く行くかもしれないと躊躇して……っ! くそ、時が戻せるならあの時の俺を殴りたい!」
「いやそこは素直に私を止めて?」
「ですがっ! テレジア様が、あの聖女のテレジア様が、稀代の悪女などと!」
「自分を許せない気持ちは分からないでもないんだけどさ。とりあえずなっちゃったもんは仕方ないわよ」
テレジアは苦笑しながら慰める。
そもそも身分を明かしたのはテレジア自身なのだ。そこまでイーグルが気に止める問題ではない。
とりあえずお茶を一口し、テレジアは息を静かに吐いた。
「今、考えるべきは今後のことよ」
事態は混沌としてしまった。
それも、予期せぬ方向に、である。
なんとか軌道修正をしなければならない。
ただでさえ激しい対立を起こしている三竦みの状態に、四人目が乱入し、更なる火種を呼び起こしているのだ。
加えて、その四人目の運命星座は勇者。
状況さえ整えば、英雄となるべき人物だ。
「限りなく厄介な状態ですね。特にミアータと女帝が危険だ」
「ええ、そうね。一気に最重要危険人物に認定だわ」
「特にミアータは危険だ。彼女は勇者の資質があり、こちらを敵視しています。何を仕掛けてくるのやら……いえ、おそらく真正面からぶつかってくるでしょうか」
大いにありうる可能性だ。
もちろんそうなってしまっても、テレジアがミアータに負ける理由はどこにもない。
それだけ、力の差が隔絶されている。
例えミアータが聖女候補生としての才能を開花させても、だ。およそテレジアの才能とこれまでの努力を覆せない。
本来ならば。
だが、ミアータの勇者たる運命の可能性は不確定要素だ。あらゆる不利をテレジアに、あらゆる有利をミアータに提供するだろう。
「正直なところ、それで学院がひとつに纏まるのならそれで構わないのよ。目的はどこまでいっても風紀と秩序の回復だからね」
そこに至る筋書きなど、それこそどうでもいいし、どうにでもなる。
問題は、ミアータではない。
「ミアータはヒロイックサーガでいう主人公ポジションよ。どこまでも自分と大事な仲間を信じて突っ走って成功をおさめる。だから、道さえ外さなければ問題ないし、学院の風紀と秩序ももたらすはずなのよ」
「と、なると?」
「その道を外させる存在がいるってこと」
「つまり女帝……イクノですか」
テレジアは頷いた。
今回、お茶会の場に現れた女帝は偽者だった。東部の貴族なのは間違いないが、その正体までは看破できていない。
だが、ろくでもないのは間違いないだろう。
「何を考えているのか、調査が必要だわ。なんとしてでも正体を掴むわよ」
「すでに見張りを手配して、対象は監視しています」
「あら、さすがね」
「とはいえ、何かしらの成果が出るとは考えにくいでしょう。相手は偽者とはいえ、切れ者でもある。監視がつくことを予測して、動かないと思われます」
「十分よ。相手を牽制できているだけでね」
苦い表情を浮かべるイーグルを、テレジアは褒める。
「手っ取り早く偽者を咎めるためには、本物のイクノを見つけるしかないわ」
「どこかに監禁されている可能性、ですね?」
「そうね。さすがに命を奪われてるって事態にはなってないと思うけど」
イクノは辺境伯の娘だ。
おそらくも何も、殺されたとなれば戦争間違いなしである。さすがにリスクが高すぎる。
……──まぁ、監禁も十分ヤバいけど。
テレジアは内心で呆れる。
故に影武者よろしく身代わりを用意したんだろうけれど、バレたらどっちみち戦争である。
今でこそ西部は王国の穀倉地帯と呼ばれるくらい自然豊かで穏やかだが、何代か前まではその地をめぐって骨肉の争いを繰り広げていた。
故に、辺境伯は実のところ武断派である。
それを知らない貴族はかなりの《新参者》だ。
テレジアの脳裏に、電撃のような閃きがやってくる。あっという間に点と点が繋がるように、正体が明らかになっていった。
「どうしました? テレジア様」
「……分かりやすく、相手がこの国の戦力を削ぐ目的だったとしたら? もしくは、内乱を引き起こして他国からの干渉のきっかけにするつもりとか」
「いきなり規模の大きい話になりましたね」
さすがにイーグルも眉根を寄せる。
だが、テレジアは真剣そのものだ。
「イクノの身代わりの所作は東部式だったわ。今回はそれを見抜けたから正体を見破れた」
「見事なお手前でした」
「そこなのよ」
自分の引っ掛かりを掴んだテレジアは、膝をぽんと叩いて前のめりになる。
「本来、旧来からうちの貴族であれば知っていて当然のはずなのよ。西部、中央、東部、様式が微妙だけど違うってこと」
そもそもテレジアはお茶会の所作で相手の正体を看破しようとは思ってもいない。
たまたま鋭い観察眼で違和感に気づいて見抜けただけだ。
「……なるほど。起こるはずがないミスだ、と?」
「本来ならね。でも現実として発生した」
「つまり相手は我が国の所作に慣れていない、と? そんな新しい貴族となれば、かなり限られてくるはずですね」
「候補は商人貴族、栄誉貴族だけど」
貴族の権利を買い取った商人か、何かしらの大きい功績を上げて貴族に取り上げられた誰か。
だが、とテレジアはすぐに打ち消した。
「身分的にありえないわね。準男爵か、良くて男爵よ」
「仕掛けるなら、もっと高位の貴族──しかし、そうなれば、所作のミスなどおかすはずもない……だとすれば」
「そこまでだ、二人とも」
嫌みなバリトンボイスが、部屋に響き渡った。本来なら聞くはずのない声だ。
ぎくり、と、テレジアは身体を強張らせる。
ゆっくり振り返ると、そこには白を貴重とした燕尾服姿の青年がいた。
瞬時にイーグルが全身を緊張させ、テレジアも身構えた。
喉が急速に乾いていく。
「アークレイ」
テレジアは、険しい声で名を呼んだ。
──許嫁の名を。
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