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なんですって?

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 かくして、テレジアはクラスの掌握を完了した。
 メリッサに続いてアンゼルさえ襲った危機を救ったことによって一躍有名にもなり、テレジアはクラスはもちろん、学年そのものを手中に収めることに成功していた。
 明らかにメリッサとアンゼルの態度がおかしかったが、そこもなんとか指導して体裁を整えられるようにした。

 早速、メリッサとアンゼルには互いに歪みあわぬようにし、更に風紀を守るよう手配をしつつ、次の問題へ着手することにした。

 それこそが、テレジアがこの学院に呼ばれた理由でもある。
 この問題の着手には、確実に足場を固めておかねばならない。だからこそ、テレジアは学年の掌握を急いでいたとも言える。

「つまり――ここからが本番というわけですね」

 テラス席の一角を貸切って、お茶をたしなむテレジアにイーグルが表情を真剣なものにさせる。
 テレジアも、真面目な表情で頷いた。

「そうなるわね。相手はあの二人みたいな小者じゃあないわ」

 曲がりなりにも、ここは王都中央学院の姉妹校である。
 才能を重視する学院と同様で、一般人も試験に合格すれば編入される。カリキュラムもほとんど同じで、貴族との合同授業まである。

 つまり、一般人たちからすれば、出世がかかっているのだ。

 まさに命がけと言える。
 だからこそ才能は磨きに磨かれ、一つの大きい原石を生むきっかけにもなる。

「しかし……驚きですね」

 資料を手に、イーグルは難しい表情になる。

「まさか、聖女候補生が三人も集まっているなんて」
「しかも同学年に集中しているなんてね。おかで大激戦の大混乱。もはやカオスだわ」

 問題になっているのは、テレジアより一つ上の学年だ。
 ここには聖女候補生が三人も同時に在籍している。まさに奇跡的な確率と言えよう。
 イーグルは眉根を寄せながらテーブルに資料を置いた。

「一人目はシャルル。西部三大伯爵の娘。プライドが高い天才肌。自分に厳しければ他人にも厳しいタイプで、ナチュラルパワハラ気質ですね。性格に難があるものの、魔法も武道も光る才能があります」

 ちらりと見て、テレジアは苦笑した。

「あらまぁ、肖像画も険しい表情だこと。ナチュラルに他人に優しくできないと聖女でやっていくの厳しいんだけどね。とりあえずあだ名は《エース》で」

 まさに経験者は語る、である。

「あの、テレジア様。どうしてあだ名を?」
「いちいち名前を憶えてられないからよ」

 当然のように言い放たれ、イーグルは苦笑した。

「二人目はティナ。西部三大伯爵の従姉妹。身分は同じ伯爵の娘で、こちらは典型的なお姫様。おしとやかだが、ワガママ。何気なく残忍、と。魔法の才能に秀でています」

 テレジアは顔をひきつらせる。

「いや、ダメでしょ……。何気なく残忍って。いやでもおしとやかなら……ううん」
「面の皮の厚さ次第でしょうね」
「何気なくきっついわね。まぁいいけど。じゃあこの子は《アイドル》ね」

 テレジアのツッコミに動じず、イーグルは次の資料を置く。

「そして三人目、ルシア。彼女は中央聖教会の西部地区大司教の娘です。アイドルでもあるのか、信徒たちからは異常な人気を誇っていますね。親衛隊までいるとか。ただ、性格は致命的なまでにおっちょこちょい。この前は実験室を爆破していますね。こちらも魔法の才能に秀でています」

 またテレジアが顔をひきつらせる。

「爆破って……」
「テレジア様がサイロを吹き飛ばした件を報告した際、真っ先に教員は彼女を疑っていましたからね。違うと分かったらむしろ安堵していましたよ。ある意味助かったとも言えますね」
「ねぇ、それってどれだけ前科あるの? この聖女候補生サマは。ま、まぁ、じゃああだ名は《シスター》で」

 一番聖女にしてはいけない人材であろう。
 テレジアは迷わず頭を抱えた。

「……聖女候補生は数万人に一人の確率で発生するから、どんな人材でも無駄にはできないって聞くけど……」
「現状では、選出したいと思えませんね」
「全員何かしらの改善が必須だわ」
「しかし、問題はそこではありません」

 イーグルの言う通りだ。
 聖女の選出にテレジアたちは関わらない。あくまでも学院の風紀を取り戻すためにやってきているのだ。

「この三人を中心に、上の学年は乱れまくっているのね」
「はい。三学年上にまで飛び火しつつあるようです」
「誰が一番聖女に相応しいか、か。もう骨肉の争いになっているのね」

 もはや教員がお手上げ状態で、中央に助けを求めるくらいに収拾がつかない事態のようだ。
 同じ教室に違う派閥の陣営がいようものなら、場外乱闘にまで発展するとか。
 当然授業にはならない。

 才能が集まる学院という肩書はどこにいった。

 テレジアはツッコミを入れざるを得ない。
 いや、才能はあるかもしれないが、圧倒的に自制心が足りないのだろう。基礎教育の敗北を味わっている気分だった。
 思わず頭痛がしてしまう。
 いくら辺境地と言えど、こんな野性的で粗暴なのだろうか?

「今度の相手は聖女候補生ですし、シンパの数もかなり多い。作戦はありますか」
「そうね、メリッサとアンゼルのようにはいかないでしょうね」

 テレジアは悩むように顎を撫でた。

「とりあえず問題行動を起こしているのは、本人ではないのよね」
「そうですね。我関せずという様子です。本人たちは聖女修行にも忙しいようですから、特別相手を蹴落とすような真似はしていなさそうですね。調べた範囲では、ですけれど」
「私はちゃんとイーグルの調査能力を信頼してるわよ」

 テレジアは保険をかける彼の言葉をやんわりとたしなめ、資料を手に取る。

「首謀者たちが特定できないのは良くないのよね。本人たちをどうこうしてどうにかなる問題じゃないもの」
「そうですね。本人たちが煽動しているわけではありませんし」
「実態が掴めない集団心理が相手、か」

 なかなかに手強い。
 これは考えをしっかり巡らせるべきだ。

「ご自身の身分を明かされますか? 一定の抑止力はかかると思いますが」
「私が在籍している間は効果あるでしょうね」

 テレジアは端的に答える。

「でも、私たちが戻ったら元の木阿弥よ。いえ、抑圧された分、エスカレートするわね。根本的に辞めさせるには、私がいなくても抑制するような、それこそトラウマレベルの記憶が必要なのよ」
「割と暴論ですね、それ」
「手っ取り早い手段として有効だって話よ。とにかく、何か考えないと……って、ん?」

 異変を感じ取ったのは、テレジアだった。
 ややあってから、カタカタ、と僅かにテーブルとティーカップが揺れた。当然、イーグルも見逃さない。

「この波動は、魔力? かなり強いわよ」

 警戒心を出しつつ、テレジアは立ち上がる。
 悲鳴のような歓声が上がったのは、その時だった。同時に、号令のように声が飛び交ってくる。

「大変だっ! 四人目だ、四人目の聖女候補生が現れたぞ!」

 ――なんですって?
 テレジアとイーグルは、思わず顔を見合わせたのだった。

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