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稀代の悪女?
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「……──今、なんとおっしゃいました? もう一度ハッキリと申してくださいな」
あくまでも優雅に、淑女に。
激しい怒りを内心だけでコントロールし、彼女──テレジアはティーカップをテーブルに置いた。ほんの少しだけ、陶器の重なる音がした。
気品という言葉が身にまとっているかのような美しい少女は、白いドレスを下品に汚されながらも、海のように静かだった。
相対する三人は、ドレスを振り回すかのように派手な仕草で扇子をテレジアを指してくる。まさに無礼千万。
まして、己からテレジアのドレスをわざと汚しておきながら、である。
面の皮が分厚すぎるのではないか。
「ですので。貴女にはそのドレスがとても似合わないから、似合うようにして差し上げたのです。このわたくし──ディーチ伯爵の令嬢こと、メリッサ様がね。頭を垂れて感謝しなさい」
「「おほほほほ」」
まるで効果音だ。
メリッサの両脇を固める女子が高笑いし、メリッサの隣に立つ男がゲスい表情を浮かべる。
なるほど、つまりイジメか。
理解したテレジアは、静か息を吐く。
「そもそもこの学院に私と同級学年で転入してきておきながら、西部三大伯爵の令嬢たる私に挨拶がないなんて生意気と失礼の極みでしてよ。ですから、この私がこの学院で暮らすためのルールをレクチャーしに参りましたのよ。おほほっ。それはそのためのまず第一歩ですわ」
……なんだ、そのルールは。
まくしたてるメリッサを静かに見据え、テレジアは口を開く。
「つまり、貴女の恣意的且つ身勝手な感情とセンスで、このドレスが私に似合わないと決めつけ、あまつさえ私に似合うようにこのような泥の装飾をしたと。その上で頭を垂れろと。貴女、さてはアホですね?」
ハッキリと言い切られ、メリッサは盛大に顔をひきつらせた。
この程度で動揺するなど、まだまだだ。とテレジアは内心で冷徹に評価を下しつつ、ゆっくりと立ち上がる。
泥で汚されながらも、そのドレスは気品さを失っていない。
それは、ドレスがそれだけの価値を有しているからだ。
もちろん、身にまとうテレジア自身の魅力もあるのだが。
「おい、貴様。僕のメリッサに対してなんて口をきくんだ」
男が怒りを露にしつつ一歩前に出る。
彼なりに威圧を放っているらしいが、テレジアに動じる理由はない。
「やめてください」
目をわずかに細めたテレジアを庇うように、黒の燕尾服を身につけた少年が前に立つ。雄々しい睨み合いは数秒間続いた。
「なんだ、男爵家の三男風情が。無礼だぞ」
嫌悪さえ見せつけながら男は恫喝する。
子爵以上の身分なのだろう。
「なるほど。自分の出した功績ではない身分をカサにして脅すのがここのトレンドなのですか。実に下品で空っぽなことね」
テレジアは言葉の猛毒を吐きつける。
自分自身を庇う少年の横に立ち、テレジアは男を睨み付けた。およそ二〇代だろう彼は、この学園の生徒ではない。
本来なら生徒か関係者、親御しか入ってこれない学園に、だ。
おそらくメリッサが勝手に招き入れているのだろう、とテレジアは見当を付けた。
たった数分間のやりとりで判断できるくらい、メリッサの横暴は酷い。
「貴女ねぇ……っ!」
怒りに顔を染めるメリッサを無視し、テレジアは周囲を確認し、他に気配がないことを確かめる。
それから、何やら罵倒をはじめていたメリッサを改めて睨み付けた。
鋭い眼光が、強制的にメリッサの口を止めて脅かす。
その沈黙を縫うように、テレジアは一歩前に出た。
同時に、その全身から魔力が溢れる。
「下らないわ。思った以上にこの学園は腐っているようね。それでも王都中央学院の姉妹学院なのかしら? 恥ずかしい」
「あ、貴女っ……」
テレジアは胸元に隠していたペンダントを取り出す。ダイヤとサファイア、そしてブラッドルビーで形成されていて、黄金の繊細な羽が飾られている。
──大侯爵以上の一族だけが身にまとえる、紛れもない王家の血筋を表すもの。
いかに愚かなメリッサと言えど、知らないはずがない。
テレジアは優雅に見せつけながら、ほのかに微笑んだ。
「私は、王国筆頭大侯爵、ベリーズ家の令嬢、テレジア・ル・ベリーズです」
名乗っただけで、メリッサの両脇を固める女子たちが引き付けを起こし、情けないことに男は泡を吹いて後ろ向きに倒れる(これはテレジアの膨大な魔力に当てられたからかもしれないが)。
もちろん当のメリッサも、顔色を完全に失いつつ全身を震えさせている。
「そ、そそ、そんなっ……嘘でしょう……あの王都中央学院を恐怖のどん底に叩き落としたという、あの、稀代の悪女……テレジア・ル・ベリーズが、なんでここにっ!?」
「なんでって? 決まっているじゃない」
テレジアは薄く笑う。悪戯っぽく、悪女のように。
「この学院を支配するためよ」
ハッキリと告げると、メリッサがガクガクと膝を笑わせ、その場に座り込んだ。
「あら、自らドレスを泥に汚すのね。でも、その程度で私が満足すると思ったら大間違いよ。私を稀代の悪女と呼ぶのだから、噂は聞いているでしょ? どんな非道な手を下すか。血を全部抜かれるくらいじゃあ済むと思わないことね」
敢えて声に迫力を持たせると、とうとうメリッサも気を失って後ろ向きに倒れた。
どうやら恐怖のあまりに失禁したらしい。その取り巻きもいつの間にか卒倒していた。
「……テレジア様。やりすぎです」
無残な有り様に、少年があきれながら頭を片手で撫でた。
テレジアはてへっ、と舌を出す。
「だから周囲に誰もいないか確認したんじゃないの。挨拶よ、挨拶。そもそもケンカふっかけてきたのは向こうからだし」
「ええ。実に無様でした。だから僕も止めませんでした」
「じゃあ同罪ね」
「……はぁ。テレジア様。この学院にやってきた目的、お忘れではありませんね?」
念押しされて、テレジアは大きく頷く。
「もちろん。王都中央学院の風紀執行委員として、この秩序と風紀が乱れまくった辺境の姉妹学院を支配……もとい、統制して再教育することよっ!」
あくまでも優雅に、淑女に。
激しい怒りを内心だけでコントロールし、彼女──テレジアはティーカップをテーブルに置いた。ほんの少しだけ、陶器の重なる音がした。
気品という言葉が身にまとっているかのような美しい少女は、白いドレスを下品に汚されながらも、海のように静かだった。
相対する三人は、ドレスを振り回すかのように派手な仕草で扇子をテレジアを指してくる。まさに無礼千万。
まして、己からテレジアのドレスをわざと汚しておきながら、である。
面の皮が分厚すぎるのではないか。
「ですので。貴女にはそのドレスがとても似合わないから、似合うようにして差し上げたのです。このわたくし──ディーチ伯爵の令嬢こと、メリッサ様がね。頭を垂れて感謝しなさい」
「「おほほほほ」」
まるで効果音だ。
メリッサの両脇を固める女子が高笑いし、メリッサの隣に立つ男がゲスい表情を浮かべる。
なるほど、つまりイジメか。
理解したテレジアは、静か息を吐く。
「そもそもこの学院に私と同級学年で転入してきておきながら、西部三大伯爵の令嬢たる私に挨拶がないなんて生意気と失礼の極みでしてよ。ですから、この私がこの学院で暮らすためのルールをレクチャーしに参りましたのよ。おほほっ。それはそのためのまず第一歩ですわ」
……なんだ、そのルールは。
まくしたてるメリッサを静かに見据え、テレジアは口を開く。
「つまり、貴女の恣意的且つ身勝手な感情とセンスで、このドレスが私に似合わないと決めつけ、あまつさえ私に似合うようにこのような泥の装飾をしたと。その上で頭を垂れろと。貴女、さてはアホですね?」
ハッキリと言い切られ、メリッサは盛大に顔をひきつらせた。
この程度で動揺するなど、まだまだだ。とテレジアは内心で冷徹に評価を下しつつ、ゆっくりと立ち上がる。
泥で汚されながらも、そのドレスは気品さを失っていない。
それは、ドレスがそれだけの価値を有しているからだ。
もちろん、身にまとうテレジア自身の魅力もあるのだが。
「おい、貴様。僕のメリッサに対してなんて口をきくんだ」
男が怒りを露にしつつ一歩前に出る。
彼なりに威圧を放っているらしいが、テレジアに動じる理由はない。
「やめてください」
目をわずかに細めたテレジアを庇うように、黒の燕尾服を身につけた少年が前に立つ。雄々しい睨み合いは数秒間続いた。
「なんだ、男爵家の三男風情が。無礼だぞ」
嫌悪さえ見せつけながら男は恫喝する。
子爵以上の身分なのだろう。
「なるほど。自分の出した功績ではない身分をカサにして脅すのがここのトレンドなのですか。実に下品で空っぽなことね」
テレジアは言葉の猛毒を吐きつける。
自分自身を庇う少年の横に立ち、テレジアは男を睨み付けた。およそ二〇代だろう彼は、この学園の生徒ではない。
本来なら生徒か関係者、親御しか入ってこれない学園に、だ。
おそらくメリッサが勝手に招き入れているのだろう、とテレジアは見当を付けた。
たった数分間のやりとりで判断できるくらい、メリッサの横暴は酷い。
「貴女ねぇ……っ!」
怒りに顔を染めるメリッサを無視し、テレジアは周囲を確認し、他に気配がないことを確かめる。
それから、何やら罵倒をはじめていたメリッサを改めて睨み付けた。
鋭い眼光が、強制的にメリッサの口を止めて脅かす。
その沈黙を縫うように、テレジアは一歩前に出た。
同時に、その全身から魔力が溢れる。
「下らないわ。思った以上にこの学園は腐っているようね。それでも王都中央学院の姉妹学院なのかしら? 恥ずかしい」
「あ、貴女っ……」
テレジアは胸元に隠していたペンダントを取り出す。ダイヤとサファイア、そしてブラッドルビーで形成されていて、黄金の繊細な羽が飾られている。
──大侯爵以上の一族だけが身にまとえる、紛れもない王家の血筋を表すもの。
いかに愚かなメリッサと言えど、知らないはずがない。
テレジアは優雅に見せつけながら、ほのかに微笑んだ。
「私は、王国筆頭大侯爵、ベリーズ家の令嬢、テレジア・ル・ベリーズです」
名乗っただけで、メリッサの両脇を固める女子たちが引き付けを起こし、情けないことに男は泡を吹いて後ろ向きに倒れる(これはテレジアの膨大な魔力に当てられたからかもしれないが)。
もちろん当のメリッサも、顔色を完全に失いつつ全身を震えさせている。
「そ、そそ、そんなっ……嘘でしょう……あの王都中央学院を恐怖のどん底に叩き落としたという、あの、稀代の悪女……テレジア・ル・ベリーズが、なんでここにっ!?」
「なんでって? 決まっているじゃない」
テレジアは薄く笑う。悪戯っぽく、悪女のように。
「この学院を支配するためよ」
ハッキリと告げると、メリッサがガクガクと膝を笑わせ、その場に座り込んだ。
「あら、自らドレスを泥に汚すのね。でも、その程度で私が満足すると思ったら大間違いよ。私を稀代の悪女と呼ぶのだから、噂は聞いているでしょ? どんな非道な手を下すか。血を全部抜かれるくらいじゃあ済むと思わないことね」
敢えて声に迫力を持たせると、とうとうメリッサも気を失って後ろ向きに倒れた。
どうやら恐怖のあまりに失禁したらしい。その取り巻きもいつの間にか卒倒していた。
「……テレジア様。やりすぎです」
無残な有り様に、少年があきれながら頭を片手で撫でた。
テレジアはてへっ、と舌を出す。
「だから周囲に誰もいないか確認したんじゃないの。挨拶よ、挨拶。そもそもケンカふっかけてきたのは向こうからだし」
「ええ。実に無様でした。だから僕も止めませんでした」
「じゃあ同罪ね」
「……はぁ。テレジア様。この学院にやってきた目的、お忘れではありませんね?」
念押しされて、テレジアは大きく頷く。
「もちろん。王都中央学院の風紀執行委員として、この秩序と風紀が乱れまくった辺境の姉妹学院を支配……もとい、統制して再教育することよっ!」
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