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義妹、地雷を踏む。

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「王妃様にチクる? どうぞ?」

 私は平然と言ってのけてから、収支報告書の束を取り出す。
 結構な厚みになってしまったのは、それだけベスがやらかした証拠でもある。他にも粉飾決済なんかもあったりして、不正のオンパレードでもある。

 私は叩きつけるようにして国王に読むように差し出した。

 というか、読め。
 ギロリと睨みつけながら圧力をかけると、しぶしぶ、といった様子で受け取って、国王は読み始める。
 ここで拒否したら耳元で鼓膜破れるまで朗読してやるつもりだったのだけれど、何か察したらしい。

「覚悟はできてるようね! お母様は怖いんだから!」
「ふーん。のぞむところね。こっちは不正を正そうとしてる立場なんだから。っていうか、あのね、そもそも自分の身を呈してでも庇わないあたり、人間性丸見えよ」
「ふざけてんじゃないわよっ! あんたみたいなオーガに立ち向かえるはずないじゃないのっ!」
「誰がオーガじゃっ!」

 私は目を怒らせて反論する。

「あんなクソ弱モンスターと一緒にすんな! あんなもん拳で一撃だわ!」
「「「えっ」」」

 私の発言に、ベスならず旦那と国王も顔を引きつらせた。
 って、はい?

 え、いやだって。オーガって確かに身長三メートルくらいあるけど、鼻をへし折ったら終わりじゃないの。

 思わず首を傾げると、それが恐怖を煽ったらしい。
 国王はがたがたぶるぶる震えながら、私に手を向けてきた。

「よし。分かった。落ち着こう。今回のおぬしらの行動は咎めないから」
「咎めない???」
「ごめんなさい。正しい行動でした」

 国王が居住まいを正して言う。よし。

「ちょっとお父様っ!?」
「いや、だって。正論的にも負けてるし。この収支報告書もとんでもない数値だし?」

 どうやら国王も理解したようだ。
 この国が今、どれだけ危険なのかっていうのを。

「でも、お父様っ! こんなよそものなんかに!」
「そんなよそものにここまでされないといけないレベルでヤバいってことにいい加減気づきなさいよ」

 私は呆れながら言ってやる。

「下手しなくても暴動が起きて、革命が起こってたかもしれないのよ。そうなったら内戦間違いなしだし、たくさんの命が犠牲になる。その上で、この状況じゃあ戦争しても負けるわ、普通に」

 騎士団でさえ、崩れ始めているのが現状なのだ。

「負けたらあんたどうなると思う? 市中を死なない程度に引きずりまわされた後、ギロチンよギロチン」
「ひっ」
「そうなりたいの? あんた」
「な、なな、何を言うかと思えば、そんな脅しっ。そんなこと起こるはずないじゃないのよ」

 怯えながらもベスは反発してくる。
 どうしてもどうあっても、己の贅沢はやめたくないらしい。まぁ、今までずっと贅沢三昧、ワガママ放題のお姫様だったもんね。気に入らなければ排除すればいいし、声一つで排除できる立場だったもんね。

 でもそんなのは、砂の城よ。

 ちょっと何かがあれば、すぐに壊れる。
 何より、そんなワガママが許されるはずもない。

「まったく。為政者としては失格ね」
「分かったような口をきくんじゃないわよ!」
「あんたの今までの行動で十分分かってますけど?」
「きぃぃっ! そういうとこがムカつくのよっ! いいわ、覚悟なさい! お母様に言いつけてやるんだからっ!」

 地団駄を踏みながら文句を言うベス。

「あんたなんてもう終わりよっ! この王国は私のものなの、みんな私のために働けばいいの、私の幸せのためにがんばればいいの! そのために、卑しい国民が貧しくなろうが死に絶えようが、私の知ったことじゃないのよっ!」
「ベス! そのようなことっ」
「だって私は姫でしょ? 王国の宝でしょ? だったら大事にしてよ何しても許してよどんなワガママもかなえてよっ!」

 う、うわぁ。
 私は本気で引いてしまっていた。
 今時、そんな傲慢ぶちまける貴族もそうそういないんだけど。

「こんなオバサンにちょっと脅されたくらいでひいひい言って! みんなひどいわっ! 私が可愛くないの!? こっちのオバサンのほうがいいわけ? 老け専なのあなたたちっ!」

 あ?
 誰がオバサンだって?
 っていうか、言うだけ言いまくってくれるけど。

「はいはい。好きにしなさい。でもね? ベス。あんた一つ勘違いしてるわよ」

 私は握りこぶしをまたもやボキボキと鳴らしながら、笑顔を向ける。

「え?」
「私が教育的指導をあんたにも施さないと思うわけ?」

 宣言しながら詰め寄ると、見る間にベスの顔がひきつっていく。
 正直に言う。
 こんなアホみたいな娘だけど、手はあまり出したくなかった。

 一応、女の子だしね。

 でもこれはダメだわ。
 ひん曲がってるとか、そんな次元じゃないくらいに捻じ曲がって歪んでしまっている。今ここで矯正しなければ、この娘は――命がない。

「え? ええ?」

 私の鋼鉄の意志が滲みでたか、ベスがさらにうろたえる。

「そういうことだから」
「どういうことなのかしらっ!?」
「問答無用の教育的びんたっ!」

 戦いの訓練の経験なんてあるはずがないベスの懐にもぐりこみ、私はビンタを軽く一発お見舞いする。

「いったっ……! な、なにするのよオバサン! 誰にもぶたれたことなんてなぶひっ」

 返す一撃。
 それから私は超高速往復ビンタを見舞う。

「だいたいね、あんた私がここにやってきた初日から嫌がらせかましてきてくれてたじゃない? 女だから気づいてたけど。んでもってこっちが大人しく我慢してたらズケズケと調子に乗ってあれこれあれこれ嫌がらせしかけまくってくれやがって何考えてんの? そんな将来性も生産性もないことして何の意味があるっていうのよ。やられた側の気持ちになってみなさいよね」
「あうっ、ぶひっ、あうっ、ぶひっ」
「それに付け加えて、自分の私利私欲のためなら他人の命が消えてもいいってどんだけ問題発言よ。アウトオブアウトだわ。そんな発言市民が聞いたら暴動どころか焼き討ちものよ? 危ないってことに気づけ、いい加減」
「ぶひっ、あうっ、ぶひっ、あうっ」
「ちゃんと謝れるまでしばき続けるからね?」

 私はにこやかな笑顔のまま、ビンタを無限に繰り出す。
 結局、一七〇二回目にして、ようやくベスは心から謝罪したのだった。

 あー、疲れた。

 さて、これから気兼ねなく改革を進めていきますか。




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