9 / 12
義妹、地雷を踏む。
しおりを挟む
「王妃様にチクる? どうぞ?」
私は平然と言ってのけてから、収支報告書の束を取り出す。
結構な厚みになってしまったのは、それだけベスがやらかした証拠でもある。他にも粉飾決済なんかもあったりして、不正のオンパレードでもある。
私は叩きつけるようにして国王に読むように差し出した。
というか、読め。
ギロリと睨みつけながら圧力をかけると、しぶしぶ、といった様子で受け取って、国王は読み始める。
ここで拒否したら耳元で鼓膜破れるまで朗読してやるつもりだったのだけれど、何か察したらしい。
「覚悟はできてるようね! お母様は怖いんだから!」
「ふーん。のぞむところね。こっちは不正を正そうとしてる立場なんだから。っていうか、あのね、そもそも自分の身を呈してでも庇わないあたり、人間性丸見えよ」
「ふざけてんじゃないわよっ! あんたみたいなオーガに立ち向かえるはずないじゃないのっ!」
「誰がオーガじゃっ!」
私は目を怒らせて反論する。
「あんなクソ弱モンスターと一緒にすんな! あんなもん拳で一撃だわ!」
「「「えっ」」」
私の発言に、ベスならず旦那と国王も顔を引きつらせた。
って、はい?
え、いやだって。オーガって確かに身長三メートルくらいあるけど、鼻をへし折ったら終わりじゃないの。
思わず首を傾げると、それが恐怖を煽ったらしい。
国王はがたがたぶるぶる震えながら、私に手を向けてきた。
「よし。分かった。落ち着こう。今回のおぬしらの行動は咎めないから」
「咎めない???」
「ごめんなさい。正しい行動でした」
国王が居住まいを正して言う。よし。
「ちょっとお父様っ!?」
「いや、だって。正論的にも負けてるし。この収支報告書もとんでもない数値だし?」
どうやら国王も理解したようだ。
この国が今、どれだけ危険なのかっていうのを。
「でも、お父様っ! こんなよそものなんかに!」
「そんなよそものにここまでされないといけないレベルでヤバいってことにいい加減気づきなさいよ」
私は呆れながら言ってやる。
「下手しなくても暴動が起きて、革命が起こってたかもしれないのよ。そうなったら内戦間違いなしだし、たくさんの命が犠牲になる。その上で、この状況じゃあ戦争しても負けるわ、普通に」
騎士団でさえ、崩れ始めているのが現状なのだ。
「負けたらあんたどうなると思う? 市中を死なない程度に引きずりまわされた後、ギロチンよギロチン」
「ひっ」
「そうなりたいの? あんた」
「な、なな、何を言うかと思えば、そんな脅しっ。そんなこと起こるはずないじゃないのよ」
怯えながらもベスは反発してくる。
どうしてもどうあっても、己の贅沢はやめたくないらしい。まぁ、今までずっと贅沢三昧、ワガママ放題のお姫様だったもんね。気に入らなければ排除すればいいし、声一つで排除できる立場だったもんね。
でもそんなのは、砂の城よ。
ちょっと何かがあれば、すぐに壊れる。
何より、そんなワガママが許されるはずもない。
「まったく。為政者としては失格ね」
「分かったような口をきくんじゃないわよ!」
「あんたの今までの行動で十分分かってますけど?」
「きぃぃっ! そういうとこがムカつくのよっ! いいわ、覚悟なさい! お母様に言いつけてやるんだからっ!」
地団駄を踏みながら文句を言うベス。
「あんたなんてもう終わりよっ! この王国は私のものなの、みんな私のために働けばいいの、私の幸せのためにがんばればいいの! そのために、卑しい国民が貧しくなろうが死に絶えようが、私の知ったことじゃないのよっ!」
「ベス! そのようなことっ」
「だって私は姫でしょ? 王国の宝でしょ? だったら大事にしてよ何しても許してよどんなワガママもかなえてよっ!」
う、うわぁ。
私は本気で引いてしまっていた。
今時、そんな傲慢ぶちまける貴族もそうそういないんだけど。
「こんなオバサンにちょっと脅されたくらいでひいひい言って! みんなひどいわっ! 私が可愛くないの!? こっちのオバサンのほうがいいわけ? 老け専なのあなたたちっ!」
あ?
誰がオバサンだって?
っていうか、言うだけ言いまくってくれるけど。
「はいはい。好きにしなさい。でもね? ベス。あんた一つ勘違いしてるわよ」
私は握りこぶしをまたもやボキボキと鳴らしながら、笑顔を向ける。
「え?」
「私が教育的指導をあんたにも施さないと思うわけ?」
宣言しながら詰め寄ると、見る間にベスの顔がひきつっていく。
正直に言う。
こんなアホみたいな娘だけど、手はあまり出したくなかった。
一応、女の子だしね。
でもこれはダメだわ。
ひん曲がってるとか、そんな次元じゃないくらいに捻じ曲がって歪んでしまっている。今ここで矯正しなければ、この娘は――命がない。
「え? ええ?」
私の鋼鉄の意志が滲みでたか、ベスがさらにうろたえる。
「そういうことだから」
「どういうことなのかしらっ!?」
「問答無用の教育的びんたっ!」
戦いの訓練の経験なんてあるはずがないベスの懐にもぐりこみ、私はビンタを軽く一発お見舞いする。
「いったっ……! な、なにするのよオバサン! 誰にもぶたれたことなんてなぶひっ」
返す一撃。
それから私は超高速往復ビンタを見舞う。
「だいたいね、あんた私がここにやってきた初日から嫌がらせかましてきてくれてたじゃない? 女だから気づいてたけど。んでもってこっちが大人しく我慢してたらズケズケと調子に乗ってあれこれあれこれ嫌がらせしかけまくってくれやがって何考えてんの? そんな将来性も生産性もないことして何の意味があるっていうのよ。やられた側の気持ちになってみなさいよね」
「あうっ、ぶひっ、あうっ、ぶひっ」
「それに付け加えて、自分の私利私欲のためなら他人の命が消えてもいいってどんだけ問題発言よ。アウトオブアウトだわ。そんな発言市民が聞いたら暴動どころか焼き討ちものよ? 危ないってことに気づけ、いい加減」
「ぶひっ、あうっ、ぶひっ、あうっ」
「ちゃんと謝れるまでしばき続けるからね?」
私はにこやかな笑顔のまま、ビンタを無限に繰り出す。
結局、一七〇二回目にして、ようやくベスは心から謝罪したのだった。
あー、疲れた。
さて、これから気兼ねなく改革を進めていきますか。
私は平然と言ってのけてから、収支報告書の束を取り出す。
結構な厚みになってしまったのは、それだけベスがやらかした証拠でもある。他にも粉飾決済なんかもあったりして、不正のオンパレードでもある。
私は叩きつけるようにして国王に読むように差し出した。
というか、読め。
ギロリと睨みつけながら圧力をかけると、しぶしぶ、といった様子で受け取って、国王は読み始める。
ここで拒否したら耳元で鼓膜破れるまで朗読してやるつもりだったのだけれど、何か察したらしい。
「覚悟はできてるようね! お母様は怖いんだから!」
「ふーん。のぞむところね。こっちは不正を正そうとしてる立場なんだから。っていうか、あのね、そもそも自分の身を呈してでも庇わないあたり、人間性丸見えよ」
「ふざけてんじゃないわよっ! あんたみたいなオーガに立ち向かえるはずないじゃないのっ!」
「誰がオーガじゃっ!」
私は目を怒らせて反論する。
「あんなクソ弱モンスターと一緒にすんな! あんなもん拳で一撃だわ!」
「「「えっ」」」
私の発言に、ベスならず旦那と国王も顔を引きつらせた。
って、はい?
え、いやだって。オーガって確かに身長三メートルくらいあるけど、鼻をへし折ったら終わりじゃないの。
思わず首を傾げると、それが恐怖を煽ったらしい。
国王はがたがたぶるぶる震えながら、私に手を向けてきた。
「よし。分かった。落ち着こう。今回のおぬしらの行動は咎めないから」
「咎めない???」
「ごめんなさい。正しい行動でした」
国王が居住まいを正して言う。よし。
「ちょっとお父様っ!?」
「いや、だって。正論的にも負けてるし。この収支報告書もとんでもない数値だし?」
どうやら国王も理解したようだ。
この国が今、どれだけ危険なのかっていうのを。
「でも、お父様っ! こんなよそものなんかに!」
「そんなよそものにここまでされないといけないレベルでヤバいってことにいい加減気づきなさいよ」
私は呆れながら言ってやる。
「下手しなくても暴動が起きて、革命が起こってたかもしれないのよ。そうなったら内戦間違いなしだし、たくさんの命が犠牲になる。その上で、この状況じゃあ戦争しても負けるわ、普通に」
騎士団でさえ、崩れ始めているのが現状なのだ。
「負けたらあんたどうなると思う? 市中を死なない程度に引きずりまわされた後、ギロチンよギロチン」
「ひっ」
「そうなりたいの? あんた」
「な、なな、何を言うかと思えば、そんな脅しっ。そんなこと起こるはずないじゃないのよ」
怯えながらもベスは反発してくる。
どうしてもどうあっても、己の贅沢はやめたくないらしい。まぁ、今までずっと贅沢三昧、ワガママ放題のお姫様だったもんね。気に入らなければ排除すればいいし、声一つで排除できる立場だったもんね。
でもそんなのは、砂の城よ。
ちょっと何かがあれば、すぐに壊れる。
何より、そんなワガママが許されるはずもない。
「まったく。為政者としては失格ね」
「分かったような口をきくんじゃないわよ!」
「あんたの今までの行動で十分分かってますけど?」
「きぃぃっ! そういうとこがムカつくのよっ! いいわ、覚悟なさい! お母様に言いつけてやるんだからっ!」
地団駄を踏みながら文句を言うベス。
「あんたなんてもう終わりよっ! この王国は私のものなの、みんな私のために働けばいいの、私の幸せのためにがんばればいいの! そのために、卑しい国民が貧しくなろうが死に絶えようが、私の知ったことじゃないのよっ!」
「ベス! そのようなことっ」
「だって私は姫でしょ? 王国の宝でしょ? だったら大事にしてよ何しても許してよどんなワガママもかなえてよっ!」
う、うわぁ。
私は本気で引いてしまっていた。
今時、そんな傲慢ぶちまける貴族もそうそういないんだけど。
「こんなオバサンにちょっと脅されたくらいでひいひい言って! みんなひどいわっ! 私が可愛くないの!? こっちのオバサンのほうがいいわけ? 老け専なのあなたたちっ!」
あ?
誰がオバサンだって?
っていうか、言うだけ言いまくってくれるけど。
「はいはい。好きにしなさい。でもね? ベス。あんた一つ勘違いしてるわよ」
私は握りこぶしをまたもやボキボキと鳴らしながら、笑顔を向ける。
「え?」
「私が教育的指導をあんたにも施さないと思うわけ?」
宣言しながら詰め寄ると、見る間にベスの顔がひきつっていく。
正直に言う。
こんなアホみたいな娘だけど、手はあまり出したくなかった。
一応、女の子だしね。
でもこれはダメだわ。
ひん曲がってるとか、そんな次元じゃないくらいに捻じ曲がって歪んでしまっている。今ここで矯正しなければ、この娘は――命がない。
「え? ええ?」
私の鋼鉄の意志が滲みでたか、ベスがさらにうろたえる。
「そういうことだから」
「どういうことなのかしらっ!?」
「問答無用の教育的びんたっ!」
戦いの訓練の経験なんてあるはずがないベスの懐にもぐりこみ、私はビンタを軽く一発お見舞いする。
「いったっ……! な、なにするのよオバサン! 誰にもぶたれたことなんてなぶひっ」
返す一撃。
それから私は超高速往復ビンタを見舞う。
「だいたいね、あんた私がここにやってきた初日から嫌がらせかましてきてくれてたじゃない? 女だから気づいてたけど。んでもってこっちが大人しく我慢してたらズケズケと調子に乗ってあれこれあれこれ嫌がらせしかけまくってくれやがって何考えてんの? そんな将来性も生産性もないことして何の意味があるっていうのよ。やられた側の気持ちになってみなさいよね」
「あうっ、ぶひっ、あうっ、ぶひっ」
「それに付け加えて、自分の私利私欲のためなら他人の命が消えてもいいってどんだけ問題発言よ。アウトオブアウトだわ。そんな発言市民が聞いたら暴動どころか焼き討ちものよ? 危ないってことに気づけ、いい加減」
「ぶひっ、あうっ、ぶひっ、あうっ」
「ちゃんと謝れるまでしばき続けるからね?」
私はにこやかな笑顔のまま、ビンタを無限に繰り出す。
結局、一七〇二回目にして、ようやくベスは心から謝罪したのだった。
あー、疲れた。
さて、これから気兼ねなく改革を進めていきますか。
12
お気に入りに追加
994
あなたにおすすめの小説
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。
石河 翠
恋愛
主人公は神託により災厄と呼ばれ、蔑まれてきた。家族もなく、神殿で罪人のように暮らしている。
ある時彼女のもとに、見目麗しい騎士がやってくる。警戒する彼女だったが、彼は傷つき怯えた彼女に救いの手を差し伸べた。
騎士のもとで、子ども時代をやり直すように穏やかに過ごす彼女。やがて彼女は騎士に恋心を抱くようになる。騎士に想いが伝わらなくても、彼女はこの生活に満足していた。
ところが神殿から疎まれた騎士は、戦場の最前線に送られることになる。無事を祈る彼女だったが、騎士の訃報が届いたことにより彼女は絶望する。
力を手に入れた彼女は世界を滅ぼすことを望むが……。
騎士の幸せを願ったヒロインと、ヒロインを心から愛していたヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:25824590)をお借りしています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。
夢草 蝶
恋愛
婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。
しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。
巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~
アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる