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魂に救済を
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意識を集中させ、声に魔力を乗せる。
「——穢れよ、消えたまえっ!」
歌を強く響かせ、シルニアにぶつける。光が周囲から収束し、シルニアに炸裂するようにぶつかった。
光がシルニアにつきまとう闇色の穢れを弾く。
——これはっ!?
私は驚愕する。
シルニアに、また新たな穢れがはりついたのだ。それも一瞬で。
「浄化が、効かない?」
リンクさんも驚きながら言う。
いや違う。
効かないんじゃない。
「自ら穢れていってるんだわ……」
「自ら?」
「自分自身が汚染源のようになってるのです。聖女の力を使って」
そもそも聖女候補生は、魔力に対して敏感だ。特に聖なる力と穢れた力への反応が強い。
本来は穢れた力への反応は探知などに使うんだけど、こうして自分へ逆流させるようにすれば、取り込むこともできる。
歴代の聖女には、そうして体内に取り込んでから一気に浄化するという手法を取っていた人もいたから、しっかりと確立された方法だ。
でも、それを使って穢れるなんて。
前代未聞だ。
同時に、かなりの脅威だ。
シルニアは聖女候補生の中でも優秀だった。むしろ、聖女になってもおかしくはない。
それだけの力を持つ彼女が穢れたとなれば。
「シルニア、あなた……!」
『うるさいわね、誰のせいでこうなったと思ってるのよ』
シルニアは憎悪を全力で私にぶつけてくる。
『あんたのせいなのよ。この喉が壊れたのも、あんたのせいなのよっ!』
「ちょっと、何を……!」
『私が聖女になるはずだった。私がアイドルになるはずだった。私が、私が、私が、私がぁああああああっ!』
怒りをぶちまけながら、一気にシルニアが迫ってくる!
その全身から、無数の黒い手を出現させて伸ばしてきた。
これは、まずいっ!
「聖女様に、手出しはさせないっ!」
リンクさんが裂帛の気合いを放ちながら前に立ち、剣に魔力を宿らせながら無数の黒い手を切り刻んでいく。
烈風が渦巻き、周囲に風の刃をばらまいてさらに腕を切り飛ばす。
──すごいっ!
その勢いにシルニアも気圧される。
でも、すぐにシルニアは踏ん張った。
『その程度でっ! 私はシルニア、聖女になる女傑なのよっ!』
再び黒い手が大量に出現し、一気にリンクさんを囲む!
危ないっ!
リンクさんも魔力を全開にしながら抵抗するけど、手の数の方が多い。リンクさんはすぐに捕まってしまった。
「ぐうっ……!」
『フン。良く見ればいいオトコじゃない? どう? 今から仲間になってみない? そうすれば、命は助かるし、本当の英雄の勇者になれるわよ?』
全身を拘束しながら、シルニアはかどわかす。
って、何をっ!
でも、リンクさんはそれを鼻で笑い飛ばした。
「ふざけるなよ。俺があんたになびく要素なんてどこにもない」
全身から光が迸る。
「俺はずっと昔から、たった一人を愛してるんだ。俺はその人のために生きるし、その人と一生を添い遂げるって決めてるんだ。たとえ世界の創造主が現れたとしても、俺の気持ちは変わらない」
『なっ……!?』
「俺は護衛騎士だ。世界で一番愛してるミルお嬢様の護衛騎士だっ!」
え、ちょ、リンク、さん……!?
いきなりの告白に、私はどきっと胸が高鳴る。
いや、それ以上に。
『あっそう。ならちょうどいいわ。その愛する人の前で死になさい!』
シルニアが大声を出す。
「死なないっ!」
「死なせないっ!」
リンクさんが全身から魔力を放ち、さらに私が歌を奏でて黒い手を次々と浄化していく。
連携攻撃に怯んだ瞬間、私はさらに歌を叩き込む。
もう、これしか方法がない。
リンクさんを死なせないためにっ! 私は、シルニア、あなたを許さないっ!
「——魂の浄化、穢れの彼方、踊り子の唄は世界を踊るっ!」
私の声が、直接シルニアの魂を浄化していく。
これは高濃度汚染された魂を浄化するための歌だ。本来なら、それで穢れが消えていく。
けど、シルニアの場合は、たぶん――
『きゃああああああああっ!?』
予想通り、奇声に近い悲鳴が上がった。
自分自身から穢れを受け入れた彼女の魂は、もう穢れそのものだ。そんな状態で浄化を行えば――魂そのものが溶けてしまう。
『こ、こんな、そんな、バカなっ……!』
「穢れに取り込まれた以上、もう魂は元に戻らない、か」
『うそだ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!』
否定しながらも、その身体はぼろぼろと崩れ去っていく。
「シルニア……」
『そんなっ……!』
「魂に、救済を」
私は最後の歌を捧げた。
残ったのは、静けさを取り戻した泉のみだった。
「——穢れよ、消えたまえっ!」
歌を強く響かせ、シルニアにぶつける。光が周囲から収束し、シルニアに炸裂するようにぶつかった。
光がシルニアにつきまとう闇色の穢れを弾く。
——これはっ!?
私は驚愕する。
シルニアに、また新たな穢れがはりついたのだ。それも一瞬で。
「浄化が、効かない?」
リンクさんも驚きながら言う。
いや違う。
効かないんじゃない。
「自ら穢れていってるんだわ……」
「自ら?」
「自分自身が汚染源のようになってるのです。聖女の力を使って」
そもそも聖女候補生は、魔力に対して敏感だ。特に聖なる力と穢れた力への反応が強い。
本来は穢れた力への反応は探知などに使うんだけど、こうして自分へ逆流させるようにすれば、取り込むこともできる。
歴代の聖女には、そうして体内に取り込んでから一気に浄化するという手法を取っていた人もいたから、しっかりと確立された方法だ。
でも、それを使って穢れるなんて。
前代未聞だ。
同時に、かなりの脅威だ。
シルニアは聖女候補生の中でも優秀だった。むしろ、聖女になってもおかしくはない。
それだけの力を持つ彼女が穢れたとなれば。
「シルニア、あなた……!」
『うるさいわね、誰のせいでこうなったと思ってるのよ』
シルニアは憎悪を全力で私にぶつけてくる。
『あんたのせいなのよ。この喉が壊れたのも、あんたのせいなのよっ!』
「ちょっと、何を……!」
『私が聖女になるはずだった。私がアイドルになるはずだった。私が、私が、私が、私がぁああああああっ!』
怒りをぶちまけながら、一気にシルニアが迫ってくる!
その全身から、無数の黒い手を出現させて伸ばしてきた。
これは、まずいっ!
「聖女様に、手出しはさせないっ!」
リンクさんが裂帛の気合いを放ちながら前に立ち、剣に魔力を宿らせながら無数の黒い手を切り刻んでいく。
烈風が渦巻き、周囲に風の刃をばらまいてさらに腕を切り飛ばす。
──すごいっ!
その勢いにシルニアも気圧される。
でも、すぐにシルニアは踏ん張った。
『その程度でっ! 私はシルニア、聖女になる女傑なのよっ!』
再び黒い手が大量に出現し、一気にリンクさんを囲む!
危ないっ!
リンクさんも魔力を全開にしながら抵抗するけど、手の数の方が多い。リンクさんはすぐに捕まってしまった。
「ぐうっ……!」
『フン。良く見ればいいオトコじゃない? どう? 今から仲間になってみない? そうすれば、命は助かるし、本当の英雄の勇者になれるわよ?』
全身を拘束しながら、シルニアはかどわかす。
って、何をっ!
でも、リンクさんはそれを鼻で笑い飛ばした。
「ふざけるなよ。俺があんたになびく要素なんてどこにもない」
全身から光が迸る。
「俺はずっと昔から、たった一人を愛してるんだ。俺はその人のために生きるし、その人と一生を添い遂げるって決めてるんだ。たとえ世界の創造主が現れたとしても、俺の気持ちは変わらない」
『なっ……!?』
「俺は護衛騎士だ。世界で一番愛してるミルお嬢様の護衛騎士だっ!」
え、ちょ、リンク、さん……!?
いきなりの告白に、私はどきっと胸が高鳴る。
いや、それ以上に。
『あっそう。ならちょうどいいわ。その愛する人の前で死になさい!』
シルニアが大声を出す。
「死なないっ!」
「死なせないっ!」
リンクさんが全身から魔力を放ち、さらに私が歌を奏でて黒い手を次々と浄化していく。
連携攻撃に怯んだ瞬間、私はさらに歌を叩き込む。
もう、これしか方法がない。
リンクさんを死なせないためにっ! 私は、シルニア、あなたを許さないっ!
「——魂の浄化、穢れの彼方、踊り子の唄は世界を踊るっ!」
私の声が、直接シルニアの魂を浄化していく。
これは高濃度汚染された魂を浄化するための歌だ。本来なら、それで穢れが消えていく。
けど、シルニアの場合は、たぶん――
『きゃああああああああっ!?』
予想通り、奇声に近い悲鳴が上がった。
自分自身から穢れを受け入れた彼女の魂は、もう穢れそのものだ。そんな状態で浄化を行えば――魂そのものが溶けてしまう。
『こ、こんな、そんな、バカなっ……!』
「穢れに取り込まれた以上、もう魂は元に戻らない、か」
『うそだ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!』
否定しながらも、その身体はぼろぼろと崩れ去っていく。
「シルニア……」
『そんなっ……!』
「魂に、救済を」
私は最後の歌を捧げた。
残ったのは、静けさを取り戻した泉のみだった。
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