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取り戻すために
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――声が、戻る?
どういうことだろう、と訝しく首を傾げると、ベス様はまた優しい笑顔を浮かべた。
「特別なおまじないよ」
――おまじない?
私はますます分からない。
「それって、魔法でまた取り戻すってことですか?」
「いいえ。おまじないはおまじない。大丈夫。少しだけ歌ってごらん」
促されて、私は立ち上がる。
泣いてしまったからちゃんとした声は出ないかもしれないけれど、でも。
歌うのは、好きだから。
私は涙を拭いて、姿勢をただす。ぐっとお腹に力を、声を高らかに、伸びやかに。
出た声は、私の声だった。
びっくりしたけど、歌は止めない。
やっぱり泣いていたせいで声帯がいつもより動いてくれなかったけど、でも、私の声の感覚だった。もちろん耳に届くのは、私の声音ではないけれど。
「良い讃美歌だったわ」
「え、そんな、どうして……?」
戸惑う私の頭を、ベス様はぽんと撫でてくれた。
「あの魔法はね、声を奪う魔法なんかではないの」
「そうなんですか?」
「そもそも声を奪うなんて、声帯を物理的に奪わないと無理だもの。あれは単に声帯模写の魔法を重ねがけしただけよ」
それは、私の声をシルニアは真似しているだけで、私はシルニアの声を真似しているだけってこと?
確かに喉に妙な違和感があるけど、それって、魔法のせい? でもどうしてそれを?
「シルニアが知り合いの魔法使いを雇って変なコトしようとしてたからね。で、知り合いの魔法使いが一計を案じたってわけ」
「そうだったんですか……」
「でも声帯模写は喉に負担がかかるわ。だから、まずはそれに慣れないといけないの。そのためにまずは感覚を掴まないといけなくて、それで歌ってもらったのよ。まぁ、自信を取り戻してもらうためでもあるけど」
ベス様はそう笑ってウィンクした。
ショックのあまり、私が歌えないようになるのを防ぐためだったんだ。
「でもまぁ、今の聞いてハッキリ分かったわ」
「?」
「ミル。あなたの声帯はとても素晴らしいってこと。悪いけど、シルニアの声帯では持たないわね。確実に喉を壊すわ」
ベス様は鋭く評価を下す。
「声帯模写の魔法だって気づくヒントはたくさんあるから、後は彼女次第ね」
「教えないんですか?」
「卑怯者に教える道理なんてないわ。それに、ちゃんと魔法の正体を見極めるのも聖女として大事な資質だからね」
きっぱりと言い切って、ベス様は仁王立ちになる。
なんだかすごくさっぱりした人だ。
さすが歴代最高峰の聖女様!
「というわけだから、今からその声になれる練習をしましょう。すぐに大丈夫になると思うけど」
「あの、魔法そのものは解除できないんですか?」
神父様にお願いしたらすぐ解除できそうな感じもする。
強い呪いのような類ではなさそうだからだ。
というか、どんどん弱くなってきてる。もしかしてそう時間経たずに魔法の効果が切れる?
「それを感じ取れるならセンスもいいわね。特別に教えてあげる。ミルたちにかけられた声帯模写の魔法は、催眠魔法の一種でね。一度かけてしまえばもう魔法としての役割は終えてしまうのよ。だから解除する理由はないわ」
なるほど。つまり自分の声帯が強制的に認識させられている状態なのか。
喉に負担をかけないためだろう。
「後は催眠効果から自然に抜け出すしかないんだけど、ミルは気づいたからいずれは戻ると思う。でも、聖女選出期間中のどのタイミングで戻るかは分からないわ」
「選出期間中の試験に対応できるように、この声でもやっていけるようにするために練習、ですか」
「その通り」
ベス様は嬉しそうに人差し指を立てた。
「というわけだから、特別に私がレッスンしてあげまーす」
「え、いいんですか!?」
聖女様から直々に教えてもらうなんて、滅多にない機会だ!
私が目をきらきらさせると、ベス様は大きく頷いてくれた。
「じゃ、早速はじめましょうか」
どういうことだろう、と訝しく首を傾げると、ベス様はまた優しい笑顔を浮かべた。
「特別なおまじないよ」
――おまじない?
私はますます分からない。
「それって、魔法でまた取り戻すってことですか?」
「いいえ。おまじないはおまじない。大丈夫。少しだけ歌ってごらん」
促されて、私は立ち上がる。
泣いてしまったからちゃんとした声は出ないかもしれないけれど、でも。
歌うのは、好きだから。
私は涙を拭いて、姿勢をただす。ぐっとお腹に力を、声を高らかに、伸びやかに。
出た声は、私の声だった。
びっくりしたけど、歌は止めない。
やっぱり泣いていたせいで声帯がいつもより動いてくれなかったけど、でも、私の声の感覚だった。もちろん耳に届くのは、私の声音ではないけれど。
「良い讃美歌だったわ」
「え、そんな、どうして……?」
戸惑う私の頭を、ベス様はぽんと撫でてくれた。
「あの魔法はね、声を奪う魔法なんかではないの」
「そうなんですか?」
「そもそも声を奪うなんて、声帯を物理的に奪わないと無理だもの。あれは単に声帯模写の魔法を重ねがけしただけよ」
それは、私の声をシルニアは真似しているだけで、私はシルニアの声を真似しているだけってこと?
確かに喉に妙な違和感があるけど、それって、魔法のせい? でもどうしてそれを?
「シルニアが知り合いの魔法使いを雇って変なコトしようとしてたからね。で、知り合いの魔法使いが一計を案じたってわけ」
「そうだったんですか……」
「でも声帯模写は喉に負担がかかるわ。だから、まずはそれに慣れないといけないの。そのためにまずは感覚を掴まないといけなくて、それで歌ってもらったのよ。まぁ、自信を取り戻してもらうためでもあるけど」
ベス様はそう笑ってウィンクした。
ショックのあまり、私が歌えないようになるのを防ぐためだったんだ。
「でもまぁ、今の聞いてハッキリ分かったわ」
「?」
「ミル。あなたの声帯はとても素晴らしいってこと。悪いけど、シルニアの声帯では持たないわね。確実に喉を壊すわ」
ベス様は鋭く評価を下す。
「声帯模写の魔法だって気づくヒントはたくさんあるから、後は彼女次第ね」
「教えないんですか?」
「卑怯者に教える道理なんてないわ。それに、ちゃんと魔法の正体を見極めるのも聖女として大事な資質だからね」
きっぱりと言い切って、ベス様は仁王立ちになる。
なんだかすごくさっぱりした人だ。
さすが歴代最高峰の聖女様!
「というわけだから、今からその声になれる練習をしましょう。すぐに大丈夫になると思うけど」
「あの、魔法そのものは解除できないんですか?」
神父様にお願いしたらすぐ解除できそうな感じもする。
強い呪いのような類ではなさそうだからだ。
というか、どんどん弱くなってきてる。もしかしてそう時間経たずに魔法の効果が切れる?
「それを感じ取れるならセンスもいいわね。特別に教えてあげる。ミルたちにかけられた声帯模写の魔法は、催眠魔法の一種でね。一度かけてしまえばもう魔法としての役割は終えてしまうのよ。だから解除する理由はないわ」
なるほど。つまり自分の声帯が強制的に認識させられている状態なのか。
喉に負担をかけないためだろう。
「後は催眠効果から自然に抜け出すしかないんだけど、ミルは気づいたからいずれは戻ると思う。でも、聖女選出期間中のどのタイミングで戻るかは分からないわ」
「選出期間中の試験に対応できるように、この声でもやっていけるようにするために練習、ですか」
「その通り」
ベス様は嬉しそうに人差し指を立てた。
「というわけだから、特別に私がレッスンしてあげまーす」
「え、いいんですか!?」
聖女様から直々に教えてもらうなんて、滅多にない機会だ!
私が目をきらきらさせると、ベス様は大きく頷いてくれた。
「じゃ、早速はじめましょうか」
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