上 下
6 / 39

6.装蹄師スキルはとんでもなかった

しおりを挟む
 ギンロウはやっぱりすごかった。小石投げだけじゃなく、匂いを嗅いでモノを探すのだって、一度目より二度目、二度目より三度目と目に見えて動きがよくなるんだ。
 ブドウがなっている場所のすぐそばでイノシシを発見したので、これをギンロウが気を引いたところを横からロッソの変化した槍で突きさし仕留める。
 ロッソと二人だけの時に比べて、戦術の幅も広がり食糧確保も楽々になった。
 
 少し早いが本日の目標だった食糧の安定確保は達成したし、ブートキャンプに戻る。
 途中でモンスターに会えば戦おうと思っていたけど、今日のところは会う事がなかった。この森、結構な確率でモンスターに出会うんだけど、こういう日もあるってことか。

「一体……どんな激しい修行をしたんだい?」
「ん?」

 ブートキャンプで食事をとる俺の横で鑑定をしてくれていたエルナンが、手に持つ羽ペンをポロリと落としてしまう。
 ついでにメガネもずり落ちてきそうな勢いだった。
 
「ほら、これを見てみるといい」
「うん」

 エルナンからメモを受け取り、記載されたステータスを眺める。

『名前:ギンロウ
 種族:ワイルドウルフ
 獣魔ランク:C-
 体力:90
 魔力:0
 スキル:嗅覚
 体調:良好
 状態:ノエルに懐いている』
 
「おお、少し強くなった?」
「モンスターを狩りまくったのかい? 一日で体力が倍にまで成長している。それに『嗅覚』スキルまで覚えているじゃあないか」
「嗅覚はあれだろ、オレンジとブドウを探したから。体力はそらまああれだけ歩けば?」
「……その分だとモンスターと戦ってもいないってことかな」
「イノシシは仕留めたぞ! うまいよな、イノシシ」
「わおん!」

 「なっ」とばかりにガツガツ肉を食べるギンロウへ目を向けると、彼は元気よく吠える。
 何故か頭を抱えくらりと地面に崩れ落ちるエルナンであったが、ギンロウのステータスは体調「良好」と記載されているし問題はないはず。
 明日からはモンスターを狩るぞお。
 
「あ、そういや、エルナン。一つ、ここに来る前の話になるけど、変わったことがある」

 ポンと手を打ち、そういやエルナンにハッキリと伝えていなかったなあと思い出す。
 こちらは軽い気持ちだったのだけど、彼は息を飲みえらい剣幕で喰いついてきた。
 
「そういう事は先に言って欲しかったよ! で、何があったんだい?」
「ギンロウを仲間にした時さ、爪がボロボロになっていて、それで『装蹄師』スキルで付け爪を作って」
「ふむふむ。付ける前と付けた後の違いは?」
「装着した直後は驚いたよ。ギンロウが軽くジャンプしたら部屋の天井に頭をぶつけちゃってさ」
「な、何だって! 信じられない。ワイルドウルフは跳躍が得意じゃあない。犬型モンスターらしく、持久力はあるけど猫のような縦の動きは得意ではないんだ」
「それは、ギンロウの素質じゃないのか?」
「素質は……無いと言えば嘘になるけど、それだけじゃあない。原因は君の錬金した爪で間違いないだろう。ひょっとしてロッソにも?」
「うん、ロッソは生まれつき爪が欠けていてさ。小さな爪を作ってずっと付けているよ」

 エルナンは右手で額に手を当て、もう一方でズレ落ちた片眼鏡を支えつつ思いっきり眉間に皺をよせる。
 右手の指を動かし自分の額とトントンと叩く姿は鬼気迫るものがあり、呆気に取られてしまう。
 それほどまでに唸るほどのことなんだろうか?

「確認させて欲しい。『装蹄師』スキルは君の固有スキルだよね」
「うん。その名の通り、馬の蹄鉄を作る錬金術スキルの一種だ」
「それが転じて、爪も作ることができるというわけだよね」
「そそ。馬の足先を保護するという意味合いで装蹄師なんだろうと思う。他の動物にも応用が利いたんだよ。といっても、ロッソとギンロウ以外に作ったことはないけどね」
「……前言撤回するよ。僕は君がギンロウとロッソに激しい修行をさせたと言ったよね。でも君はイノシシを狩ったくらいであとは散歩だったと言う」
「その通りだよ。俺がエルナンに嘘をつく理由なんて一つもないだろ? 君にギンロウとロッソの様子を見てもらうためについてきてもらったんだから」
「それでもだよ。僕は君が獣魔に無理をさせたことを僕に告げたくなかったのかと邪推したんだ。事実、君の言う通りだったってわけだ。その理由も分かった」
「え? やっぱりギンロウの素質がずば抜けてるってことだよな?」
「ギンロウの素質があることは否定しないって言ってるじゃないか。ハッキリ言おう。ギンロウだけじゃなくロッソも異常な成長を見せている。イノシシを狩っただけでここまで成長したのだから」

 ん?
 エルナンは何かを掴んだようだけど、俺には全く想像がつかないぞ。
 
「君の『装蹄師』スキルだよ。馬の蹄鉄を作った場合は君からの情報がないから不明だけど、ギンロウとロッソの異常な成長は、爪が原因で間違いない」
「ギンロウのジャンプが突然凄くなったのも?」
「そうだよ。最高に成長したワイルドウルフであってもそれほど高く跳躍はできない。君はこれまでモンスターをほとんど狩っていなかったと聞いたけど、それでもロッソの成長は凄まじい」
「ロッソの戦闘能力が上がったとは思わないけどなあ」
「人の言葉を使いこなすだろう? それに、変化だっけ? も使える。ペットリザードがそんなことできるわけないだろう? 素質というのは種としての限界値までだ。それを超えることはできない」
「そんなもんか」
「そうなんだよ! 君は自覚が無さ過ぎる。これがどれだけのことか……他にも条件があるのかもしれないけど、少なくともギンロウとロッソに関しては爪のブーストで獲得経験値も超絶ブーストされている……のだと確信している」

 息まくエルナンに「お、おう」と曖昧な返事しかできなかった。
 その後彼は俺に親切心から釘をさしてくる。
 「ハッキリと条件が分かるまでは爪のことを喧伝しない方がよい」と。
 元より俺は爪のことを自慢気に語るつもりなんてない。俺は愛する仲間の爪が欠けていた。だから、爪を作っただけなのだから。
  
 ◇◇◇
 
 ――ブートキャンプ二日目。
 朝食と朝の健診が終わったらすぐに修行へ繰り出す。
 オレンジの木がある場所を拠点にグルグル周囲を回ってみることにしたんだ。
 何もロッソがいつでもオレンジを食べられるようにってわけじゃあない。オレンジの木の周囲は高い木が無くて、目印にするに丁度良かったんだ。
 視界も悪くないから、休憩をしていて襲撃を受けてもすぐに気が付くことができるしさ。
 
『その藪の向こうダ』
 
 肩にのったロッソが舌で指し示す。

「ギンロウ、どうだ? 感じ取れるか?」
 
 ギンロウはまだ気が付けていない様子。
 まだロッソの方が感知能力が高いようだな。でも、彼のことだ。すぐに察知できるようになるさ。
 俺? 俺も同じでモンスターの気配に気が付くことができていない。
 ロッソと二人で冒険していた時も、彼に随分と助けられた。
 距離はだいたい百メートルと少しってところか。
 足音に注意しつつ、藪の前でしゃがみ込み様子を窺う。
 
 お、ちょっと厄介なモンスターだな……。
 緑系の迷彩色の毛皮を持った熊が、鹿を食べている。
 あいつは動物系モンスターでフォレストベアだったかな。確かそんな名前だ。
 森の浅い地域で遭遇するのは珍しい。不意を打てばやれんことはないモンスターだけど、普段ならスルーしている。
 あいつは全長四メートルほどの巨大を誇り、太い木の幹でも一発で追ってしまうほどの筋力を持つ。
 筋力も怖いが、最も脅威なのはタフさである。なかなか倒れないんだよな……それにスタミナも豊富で逃げても逃げても追いかけてくる。
 幸い木登りは下手だから、木の上に登れば諦めてくれるんだけど。
 だけど、下手な木に登ると木ごと倒されて「あれええ」となるから注意が必要。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

神のしごきに耐え抜いて武神へと到りました

江守 桜
ファンタジー
主人公:剣崎 白 (けんざき はく)は気付いたら白い空間にいた。 そこには[神導神リーデスト]と名乗る神様がいた。「お主はもとの世界で、死んでしまった。しかし、お主は異世界で第2の人生を送るか記憶を引き継がぬまま転生することができる。異世界に行くのならお主に力を授けよう」「じゃあ、異世界にいくから俺に稽古をつけてくれ」「!!?」 出来る限り投稿していきたいです! 誤字脱字があれば教えてほしいです! 更新できるときは18時30分に更新します。 R15は念のため

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

《完結》転生令嬢の甘い?異世界スローライフ ~神の遣いのもふもふを添えて~

芽生 (メイ)
ファンタジー
ガタガタと揺れる馬車の中、天海ハルは目を覚ます。 案ずるメイドに頭の中の記憶を頼りに会話を続けるハルだが 思うのはただ一つ 「これが異世界転生ならば詰んでいるのでは?」 そう、ハルが転生したエレノア・コールマンは既に断罪後だったのだ。 エレノアが向かう先は正道院、膨大な魔力があるにもかかわらず 攻撃魔法は封じられたエレノアが使えるのは生活魔法のみ。 そんなエレノアだが、正道院に来てあることに気付く。 自給自足で野菜やハーブ、畑を耕し、限られた人々と接する これは異世界におけるスローライフが出来る? 希望を抱き始めたエレノアに突然現れたのはふわふわもふもふの狐。 だが、メイドが言うにはこれは神の使い、聖女の証? もふもふと共に過ごすエレノアのお菓子作りと異世界スローライフ! ※場所が正道院で女性中心のお話です ※小説家になろう! カクヨムにも掲載中

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...