ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~

うみ

文字の大きさ
26 / 35

26.迷いの森

しおりを挟む
 翌日はいつものように魔法のリンゴを売り、昼下がりからアマンダとルチアの二人とショッピングに繰り出す。
 アマンダやルチアの様子をじーっと見ながらチハルは人の感情の機微を学ぼうとしていた。
 彼女が学ぼうと思ったのは、アマンダがルチアに聞こえぬようこっそりと助言してくれたからだ。
 チハルは人間と比べ抜群に記憶力が良い。
 ぽやあっとした雰囲気から一日経つと多くの事を覚えていないか、そもそも聞いた時に頭の中に入っていないと思われがちであったが、事実は真逆である。
 故に彼女はアマンダに自分が何者なのかを伝えてはいないと記憶していた。
 だったら何故、彼女は私に「人間らしく」のアドバイスをくれたのだろう? チハルが首を捻るも答えは出てこない。
 きっと彼女が人間だから、自分が言わずとも「チハルには人間らしさをもっと学ぶ必要がある」と考えたのかな?
 「私は人間じゃない。でも、人間のようになりたいんだ」
 チハルは心からそう願っている。
 叶わぬ夢ではない。ワタシと私は違うのだから。
 でも、チハルはワタシのことを疎ましく思っているわけではない。むしろ逆だ。ワタシもわたし、どちらもチハルという個体の中に存在している。
 自分を大事にするのが人間だもの。えへへ。
 
「チハルちゃん、これどう?」
「わたしがつけても変じゃないかな?」
「似合います! 似合いすぎです! 自分がチハルちゃんにつけてもいいっすか?」
「うん!」

 にこおっと満面の笑みを浮かべるも、チハルにとって可愛いや美しいというものは難しい。
 そんな彼女だけど相手が嬉しいという気持ちは分かるのだ。それは「笑顔」である。
 笑顔を浮かべる時、きっと嬉しい、楽しいと感じているんだ。
 それは幸せなこと。だから、私は笑顔が好き。好きだから自分も笑顔を浮かべたいの。
 チハルの笑顔に惹かれるようにルチアも涎が出そうな感じで口元を緩め、赤い石をあしらった髪飾りをチハルにつけてくれた。
 
「可愛いかな?」
「とっても! マジ天使っす!」
「似合うと思うわよ」

 髪飾りに加え、アマンダが選んでくれた同じ色の石を使った首飾りもつけてみるチハル。
 いや、アマンダがつけてくれた。
 テイラーショップ「ベルメール」で仕立ててもらった服にアクセサリーをあしらえば、年相応のおしゃれを楽しむ少女に見える。
 
『俺としてはもうちょっとこうギラギラした色の方がいいな』
「どんなの?」
『チハルの瞳や髪の色みたいなのとか、輝きを放つ銀色とか、そんな色だ』
「面白いね。みんな好きな色があるんだね」
『まあな。チハルも見つけるといい』

 ちょんちょんとチハルの足もとで動くカラスは首をあげ「くああ」とやる気ない声を出す。
 この後もきゃっきゃとショッピングを楽しんでいるとあっという間に夜になってしまった。
 
 ◇◇◇
 
 夜は夜で迷宮に潜るチハル。
 ソルに乗り、カラスも連れてリュートを奏でながら、奥へ奥へと進んで行く。
 ターゲットは14階にいる。もう三日も戻って来ていないと言う。
 
 護符にはチハルの魔力が込められており、彼女は自分の魔力を辿って護符の位置を正確に特定することができる。
 あっという間に14階まで到達したチハルたちは、ターゲットを発見した。
 騎士風の男と黒褐色のローブを目深に被った男の二人組だ。彼らはこれまでチハルが救出してきた人たちと雰囲気が異なっていた。
 救出対象の者は多かれ少なかれ悲壮感を持ち、出口に向かおうにも何等かの理由でこの場に留まるしかない状況の者達である。 
 ところがこの二人は、リラックスした雰囲気で腰を下ろし持ち込んだ干し肉を食べているところだった。

「おや、君は」
「あなた方は自力で脱出可能ですか?」
「そうだね。特に問題はない。ひょっとしてマスターが心配して君を迎えによこしたのかな?」
「ワタシへの質問はミッションに入っておりません。必要がないようですので、ワタシは単独で帰還します」
「君のような小さな子供が武器も持たず。その大きな黒豹がいるからかな。その割に……」
 
 喋り続ける騎士風の男をローブ姿の男が静止する。
 チハルは彼とのやり取りで救出は不要と判断し、ソルがくるりと踵を返した。
 
 帰還したチハルはマスターに事の仔細を報告する。
 するとマスターは「すまなかった」と一言謝罪し、彼女に報酬を手渡した。
 
「わたし、何もしてないよ?」
「しっかりと仕事をしてくれたさ。14階まで行ってくれたじゃないか。ガハハ」
「うん!」
「まあ、稀にこういう奴らもいるんだ。確認しておくにこしたことはない。奴ら、少なくとも騎士風の方はお貴族様ぽいしな」

 チハルの背をポンと叩き、豪快に笑うギルドマスターであったが、内心は複雑なようである。
 ともあれ、マスターが用意してくれていた食事を頂き、自宅に戻るチハルなのであった。
 食事の際にチハルは明日の夜はおしごとができないことを告げている。
 
 ◇◇◇
 
 日課の魔法のリンゴ販売が終わった後すぐに自宅に戻ったチハル。

「迷いの森へ行こうー」
『おう!』
『もきゃー』

 そう、夜のおしごとを断ってやろうと思っていたことがあったのだ。
 彼女は新しい魔晶石を取りに行く時間を作るため、夜まで体を開ける必要があった。
 
 レッドアイが後ろ脚を折りたたみ、チハルたちに「乗れ」と促す。
 チハルはソルの首元を撫でてから「一人だけお留守番でごめんね」と謝る。
 ソルは「グルル」と喉を鳴らし、「行ってこい」と言っているかのようだった。
 
 ソル以外のおともだちとチハルが飛竜レッドアイの背に乗る。チハルは覆いかぶさるようにして振り落とされないようしっかりと彼の体を掴み固定した。

「グルガアアア」

 レッドアイが咆哮し、ビリビリと雑草が揺れる。
 大きな翼をはためかせると暴風が巻き起こり、宙に浮きあがった。
 続いて彼はバッサバッサと翼を上下させ、あっという間に空高く飛び上がる。 
 
「レッドアイ。あっちだよ!」
「グルガアアア」

 チハルの求めに耳をつんざくような咆哮で応じたレッドアイが旋回し、一直線に飛ぶ。

『こいつは俺の全力並だな』
「この速度なら1時間と少しで到着するよ!」

 感嘆するカラスとチハルにレッドアイが得意気に三度目の咆哮をあげる。
 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~

草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
ファンタジー
黒き狼の神獣ガルーと契約を交わし、魔人との戦争を勝利に導いた勇者が天寿をまっとうした。 勇者の養女セフィラは悲しみに暮れつつも、婚約者である王国の王子と幸せに生きていくことを誓う。 だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。 勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。 しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ! 真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。 これは少女と世話焼き神獣の癒しとグルメに満ちた気ままな旅の物語!

家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました

朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。 魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。 でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。

神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~

御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。 異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。 前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。 神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。 朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。 そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。 究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ
ファンタジー
 馬の装蹄師だった俺は火災事故から馬を救おうとして、命を落とした。  錬金術屋の息子として異世界に転生した俺は、「装蹄師」のスキルを授かる。  スキルを使えば、いつでもどこでも装蹄を作ることができたのだが……使い勝手が悪くお金も稼げないため、冒険者になった。  冒険者となった俺は、カメレオンに似たペットリザードと共に実家へ素材を納品しつつ、夢への資金をためていた。  俺の夢とは街の郊外に牧場を作り、動物や人に懐くモンスターに囲まれて暮らすこと。  ついに資金が集まる目途が立ち意気揚々と街へ向かっていた時、金髪のテイマーに蹴飛ばされ罵られた狼に似たモンスター「ワイルドウルフ」と出会う。  居ても立ってもいられなくなった俺は、金髪のテイマーからワイルドウルフを守り彼を新たな相棒に加える。  爪の欠けていたワイルドウルフのために装蹄師スキルで爪を作ったところ……途端にワイルドウルフが覚醒したんだ!  一週間の修行をするだけで、Eランクのワイルドウルフは最強のフェンリルにまで成長していたのだった。  でも、どれだけ獣魔が強くなろうが俺の夢は変わらない。  そう、モフモフたちに囲まれて暮らす牧場を作るんだ!

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。 一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて? 主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍? 「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」 『わふっ』 もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...