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第64話 魔法のお勉強

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 持ってきたパンに肉と野菜を挟みもぐもぐしていると、にゃんこ先生の講義が始まる。
 穏やかな口調でゆっくりと語り掛けるように講義をするにゃんこ先生はさすが教壇に立つ人って感じで聞いていてとても分かりやすい。
 何があるとすれば、口が動くたびにピクピク動く長い髭が気になって仕方がないってことくらいか。さ、触りたい……。
 
 ……。
 ハッ……。俺は何を。
 
「――と魔法にはそれぞれ種別があり、大雑把に言うと同じ種別(カテゴリー)に含まれる魔法であれば学びやすい」

 魔法は一つ一つの呪文ごとに学ぶ必要がある。それぞれの呪文は召喚魔法とか元素魔法とかいろいろカテゴリーがあるとのこと。
 同じカテゴリーの魔法は似たようなのが多いのかと言うとそうでもない。
 俺の認識と随分違うところもあったから勉強になるなあ。
 
 にゃんこ先生から聞いたざっくりとしたところではこんな感じだ。

・召喚魔法
 文字通り生物・非生物を問わずに召喚する魔法である。高度になると空間を制御するスキル「アイテムボックス」のような魔法もあるらしい。
 といってもアイテムボックスほど万能に空間を制御できるわけではないみたいだけど……。このカテゴリーの魔法は全て難易度が高く習得が大変とにゃんこ先生談。

・元素魔法
 元素魔法という名前は総称で、八つのカテゴリーに分かれる。
 曜日プラス風と覚えると覚えやすいとにゃんこ先生のアドバイスだ。
 四大元素……地水火風に加え、木、金、月、日(太陽)とそれぞれを象徴する魔法を使いこなす。
 ここで大きな勘違いがあったんだよ。回復魔法はあるが、回復魔法というカテゴリーは無いんだ。
 水魔法の中に先ほどエルラインが使ったキュアがあり、月魔法や土魔法、木魔法にも回復呪文が存在する。
 俺のような素人にとっては、体を癒すものは全て回復魔法という認識だけど、魔法学の見地からは水や土魔法にカテゴライズされる一部の呪文なんだってさ。

・精霊魔法
 精霊を使役しあれやこれややってもらう魔法になる。
 召喚魔法と元素魔法と結果としては似た効果を発揮するのだけど、過程が違う。
 例えば、炎がある場所には炎の精霊が目には見えないけど存在するらしい。火の近くで精霊魔法を使い、火の精霊へ「お願い」することで何かを燃やしたり、はたまた精霊が直接モンスターと戦ってくれたりする。
 召喚魔法と異なり、元からそこに精霊がいなきゃダメだし、火魔法のように必ず発動するわけではなくあくまで「お願い」を精霊が聞いてくれなければならないと扱いの難しい魔法という印象だ。
 「お願い」を勘違いされてとんでもない効果を発揮されたらたまらんしなあ。
 
・死霊魔法
 別名ネクロマンシー。魔術師ギルドで学ぶことができない唯一のカテゴリー。
 死霊魔法のスキルを持つ人以外は習得しようという者は皆無だそうだ。魔法の伝承は主に師匠から弟子へ口伝で教えられるそうで、一般の人が学習しようにも教えてくれる人を探すのが大変とのこと。
 死体を扱う魔法だから、敬遠される気持ちは分かる。
 
「にゃんこ先生。だいたい理解しました。魔法とは呪文を習得していくんですね」
「そうだとも。呪文には前提として習得していなければ学べないものもある」
「そういうのもあるんですね」
「うむ。例えば、ファイアの上位魔法はファイアバードなんだが、ファイアを習得していなければいくら学んでも習得が叶わないのだよ」

 なるほど。それは分かりやすい。
 中級炎攻撃魔法を学ぶには初級炎攻撃魔法を習得していきゃならないってことか。
 前提の多い呪文だと学ぶ前提を満たすだけでも大変そうだ……。

「使い魔とか回復……それに魔具を作成したりするのも全て魔法ですよね」
「そうだよ。ストーム君。全てどこかのカテゴリーに含まれる呪文の一つだ。魔具関係なら金魔法の呪文に多いね」
「なるほど。例えば、このカラスを使い魔にする呪文はどれだけ難しいとか目安ってあるんですか?」
 
 にゃんこ先生の肩にとまり囀るカラスへ目を向ける。

「あるとも。冒険者ランクのようにそれぞれの呪文にランクが振られているよ」

 お、おお。それは分かりやすくていい。
 習得時の目安になる。
 ……あ、俺はMPが無いから……必要なかった……。
 
「まとめると魔法はカテゴリーに分けれていて、それぞれの魔法は個別に呪文を習得するってことですね」
「その通りだよ。ストーム君」

 にゃんこ先生は満足したように目を細める。ついでに髭も揺れ……それはまあいいか。
 耳もピクリと動いてるとか、注目し出すときりがない。
 
「ストーム殿。拙者は水魔法と火魔法を少し使えるです。といってもEランク程度を幾つかですが」

 捕捉するように千鳥が口を挟む。
 
「すごいじゃないか。千鳥。二つのカテゴリーをまたぐなんて」
「い、いえ……Eランクですし……」

 えへへと後ろ手に頭をかく千鳥の顔が綻ぶ。

「魔法もスキル持ちだと習得が早いっていっても、全ての呪文に適用されるわけじゃないんですよね」

 確認するようににゃんこ先生へ問うと彼は無言で頷きを返した。
 死霊魔法の説明の際に彼は死霊魔法のスキルを持つ人とかそんなことを言っていたからね。
 
「ストーム君。質問があればこの後、聞こう。まずは食べてしまおうか」
「はい」

 話に集中していて、食べる手を完全に止めていたよ。
 言われると中途半端に食べたせいか余計に腹が減って来た。
 お、おお。パンに肉と野菜を挟んだだけだけど、うめええ。今日は動いたからな。こういう日の夕食は格別においしい。
 ん、何やら目線を感じる。
 
「ど、どうしたんだ? エステル?」

 今までずっと押し黙っていたエステルが、食べる俺の手元をじーっと見つめているじゃあないか。
 
「みなさん、テントの設営とかお料理とかテキパキと動いておられて……私は余りお役に立てなかったと思いまして」
「いや、充分だよ」
「ですので、明日は私がお料理と掃除をと」

 な、なんだと……。

「ス、ストーム殿」

 千鳥が俺の肩を力いっぱい掴み、フルフルと首を振る。
 分かっているさ。千鳥……こいつは非情にマズイ事態だ。
 俺は任せて置けとばかりに千鳥へ目配せすると、殊更明るい声をエステルへ向ける。
 
「エステル。せっかくの機会だから、にゃんこ先生からいくつか魔法を学んでみてはどうだ?」
「え、いいんですか!?」

 よっし、乗って来た。
 
「にゃんこ先生。手が空いた時だけでも構いません。エステルへ魔法を教えていただけないでしょうか?」
「もちろんだとも。君が既に大賢者に会ったことで私の役目は無いからね。手持ち無沙汰だったところだ」

 やったぜ。
 どうだ。千鳥。
 そこへまくし立てるように千鳥が続く。
 
「エステル殿。拙者が料理をします故。学んでください」
「あ、ありがとうございます。何から何まで……本当にいいんですか?」
「もちろんだ! 滅多にない機会じゃないか」

 ここは無理にでも押し来なければなならぬと俺も千鳥へ続く。
 彼女は戸惑いながらも、にゃんこ先生から魔法を学ぶことになる。
 
「どうだ、うまくいっただろ……千鳥」
「はい。さすがストーム殿です。やることが汚いです」
「ははは」
「うふふ」

 暗い笑みを浮かべ合う俺と千鳥は食事の続きをとるのだった。
 ふう。エステルが料理をするとかなったら、エルラインに鍛えてもらうどころの話じゃなくなるって。
 
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