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40.やっぱりカプト?
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「足りなくなったら言ってね」
「ありがとうございます!」
やったー。オウロベルデさんからアラクネーの糸を頂いちゃったあ。
ん、あれ。
ちょっと違うような……。
「そうだ! コアラさん」
「もしゃ……?」
「食べながら疑問形とか器用ね」
「もっしゃ、もっしゃ」
今度は「そうだろ」と言っていると思う。
「オウロベルデさんを紹介してくれてありがとう。大事に使わせてもらうね」
「おう。他にもなんかあれば言ってくれ。ジークユーカリ」
「あ、あのね。村で育てることのできるものがないかなって」
「それで糸だったのか。ベルデは作物じゃないからな」
「言わないでいいから! オウロベルデさんにとても感謝しているのは本当よ」
意地悪なコアラさん。
オウロベルデさんは面白そうに私とコアラさんのやり取りを見守っている。
「ルチルちゃん。植物ではないけど、あるにはあるわ」
「オウロベルデさん、ご本人は無しです……」
「違うわよ。糸を出す虫がいるのよ。蜘蛛とイモムシがいるけど、どっちがいい?」
「え、えっと……」
え、ええええ。
オウロベルデさんを前にして申し訳ないけど、蜘蛛もイモムシも苦手……。
虫に「きゃあきゃあ」言うなんてどんな箱入りよ、と言われちゃいそうだけど、苦手なものは苦手なんだもん。
でも、オウロベルデさんの蜘蛛の脚は平気みたい。虫というより金属ぽい脚だからかな?
嫌悪感ではなくカッコいいとさえ思うくらいよ。
内心冷や汗をかいている私を見た彼女はどう受け取ったのか、私がどっちも欲しいけど迷っているという風に取っちゃったみたい。
色っぽく唇に人差し指を当てた彼女はアドバイスをくれた。
「私としては蜘蛛を進めるわ。いい子にするように言い聞かせることもできるわよ」
「じゃ、じゃあ……蜘蛛で」
い、言っちゃった。蜘蛛って言っちゃったよ、私。
オウロベルデさんの妖艶な微笑みがちょっと怖い。
「あなたの村に送ればいいかしら」
「は、はい……あ、あの。餌とかどうすれば」
「草食の方がいいわよね。キャベツがいいわ」
「キャベツって、どんな草なんでしょうか」
「あら、キャベツを知らないの? コアラくん。この子、植物を成長させる魔法を使うのよね?」
葉っぱの類いみたいだけど、何かな。
カプトのこと?
カプトの種を持っている村人がいたらいいんだけど。
一方、オウロベルデさんに話を振られたコアラさんは「ん」と反応しつつも残ったユーカリの葉をごっくんしていた。
「ルチルはユーカリを復活させることができるぞ」
「成長もよね?」
「そうだな。ルチルの家にあるユーカリが大きくなっている」
「分かったわ。じゃあ、ルチルちゃん」
こっちへおいでと手招きされて彼女に寄ると、すとんと小袋が手のひらに。
開けてもいいのかな? と目を合わせると彼女が「うん」と頷く。
「これはキャベツの種なんですか?」
「そうよ。二日後くらいでいいかしら。蜘蛛を送るわ。私が村に行ったら、人間は驚いちゃうでしょう?」
「そ、そうですね。でも、ちゃんと説明すれば分かってくれると思います」
「あら。だったらコアラくんと一緒に行こうかしら? ねえ、コアラくん」
「おう、俺はいつでもいいぜ。ルチルの家のユーカリは若木だからこれまた格別なんだ」
そんなこんなで、明後日に二人がお屋敷に来ることになったわ。
◇◇◇
トラシマにお屋敷まで送ってもらって、エミリーがお出迎えをしてくれて……と一息つく前にお庭へ出て早速どこに種を植えようかなと見繕う。
「グゲッゲゲ」
相変わらずクレセントビークが汚い声で鳴いていて、ああ、帰ってきたんだなと安心する自分に「あはは」と苦笑する。
「ルチル様もあの子の良さが分かってきたんですね!」
「う、ううん。それはどうかしら」
「またまたあ」
「この辺、植えちゃってもいいかしら」
「はいい。花壇にと思って整備しておいたんですよ。使ってください!」
「ありがとう、エミリー」
クレセントビークに向いた目を花壇に移したエミリーが力一杯両手を握りしめ、満面の笑みを浮かべた。
オウロベルデさんから頂いた小袋から一粒種を摘まみ、土の中へ埋める。
作業を繰り返し、20個くらい埋めたところで一息つく。
「じゃあ、魔法を使うわね」
「楽しみですっ!」
村の農場で魔法を使う前にここで試すことができて良かったかも。
王都にいる時、種から成長させたことは何度かある。だけど、外部魔力に切り替わってからは初めてになるもの。
試しておくにこしたことはないわよね。
今更ながら、自分の抜けに内心舌を出す。
さあ、行くわよ。
術式構築……対象は先ほど埋めた種。
「緑の精霊ドリスよ。芽吹きの恵みを。ビリジアングロウ」
緑の光がエミリーのこしらえた花壇に降り注ぎ、あっという間に芽が出てくる。
芽から茎が伸び、グングン成長していく。
薄グリーンの葉が丸まっていき、コアラさんの顔くらいのボールのようになった。
「これがキャベツ?」
「一つ、とってみますか?」
「うん。中身も見たいわね」
「じゃあ、お夕飯に使いましょう!」
根本を切って、キッチンまでキャベツを運ぶ。
真っ二つに切ってみたところ、びっしりと葉が詰まっていた。
「カプトにそっくりですね」
「カプトのことをキャベツと言っていたんじゃないかな」
エミリーと私の感想は同じ。
キャベツとはカプトのことで間違いなさそうね。
「花壇で育てるわけにはいかないし……」
「何か飼育するのですか? 楽しみです」
「私は余り楽しみじゃないかも。糸が取れるそうよ」
「へえええ。どんなモフモフさんなんですか!」
「来てからのお楽しみよ。今日、コアラさんのところでオウロベルデさんという色気たっぷりの美人さんを紹介してもらって――」
エミリーと料理をしながら、ユーカリの森であった出来事を彼女に語る。
彼女は一言一言に対し、相槌を打ち私の話を聞いてくれたの。
「オウロベルデ様。モフモフさんを連れてきてくださるんですね! 素敵です」
「ま、まあ、ね」
キラキラ輝く彼女の顔を見ていると真実を伝えることができなくなっちゃった。
どうしよう……。
ま、まあ。その時が来れば分かるからいいわよね。
「ありがとうございます!」
やったー。オウロベルデさんからアラクネーの糸を頂いちゃったあ。
ん、あれ。
ちょっと違うような……。
「そうだ! コアラさん」
「もしゃ……?」
「食べながら疑問形とか器用ね」
「もっしゃ、もっしゃ」
今度は「そうだろ」と言っていると思う。
「オウロベルデさんを紹介してくれてありがとう。大事に使わせてもらうね」
「おう。他にもなんかあれば言ってくれ。ジークユーカリ」
「あ、あのね。村で育てることのできるものがないかなって」
「それで糸だったのか。ベルデは作物じゃないからな」
「言わないでいいから! オウロベルデさんにとても感謝しているのは本当よ」
意地悪なコアラさん。
オウロベルデさんは面白そうに私とコアラさんのやり取りを見守っている。
「ルチルちゃん。植物ではないけど、あるにはあるわ」
「オウロベルデさん、ご本人は無しです……」
「違うわよ。糸を出す虫がいるのよ。蜘蛛とイモムシがいるけど、どっちがいい?」
「え、えっと……」
え、ええええ。
オウロベルデさんを前にして申し訳ないけど、蜘蛛もイモムシも苦手……。
虫に「きゃあきゃあ」言うなんてどんな箱入りよ、と言われちゃいそうだけど、苦手なものは苦手なんだもん。
でも、オウロベルデさんの蜘蛛の脚は平気みたい。虫というより金属ぽい脚だからかな?
嫌悪感ではなくカッコいいとさえ思うくらいよ。
内心冷や汗をかいている私を見た彼女はどう受け取ったのか、私がどっちも欲しいけど迷っているという風に取っちゃったみたい。
色っぽく唇に人差し指を当てた彼女はアドバイスをくれた。
「私としては蜘蛛を進めるわ。いい子にするように言い聞かせることもできるわよ」
「じゃ、じゃあ……蜘蛛で」
い、言っちゃった。蜘蛛って言っちゃったよ、私。
オウロベルデさんの妖艶な微笑みがちょっと怖い。
「あなたの村に送ればいいかしら」
「は、はい……あ、あの。餌とかどうすれば」
「草食の方がいいわよね。キャベツがいいわ」
「キャベツって、どんな草なんでしょうか」
「あら、キャベツを知らないの? コアラくん。この子、植物を成長させる魔法を使うのよね?」
葉っぱの類いみたいだけど、何かな。
カプトのこと?
カプトの種を持っている村人がいたらいいんだけど。
一方、オウロベルデさんに話を振られたコアラさんは「ん」と反応しつつも残ったユーカリの葉をごっくんしていた。
「ルチルはユーカリを復活させることができるぞ」
「成長もよね?」
「そうだな。ルチルの家にあるユーカリが大きくなっている」
「分かったわ。じゃあ、ルチルちゃん」
こっちへおいでと手招きされて彼女に寄ると、すとんと小袋が手のひらに。
開けてもいいのかな? と目を合わせると彼女が「うん」と頷く。
「これはキャベツの種なんですか?」
「そうよ。二日後くらいでいいかしら。蜘蛛を送るわ。私が村に行ったら、人間は驚いちゃうでしょう?」
「そ、そうですね。でも、ちゃんと説明すれば分かってくれると思います」
「あら。だったらコアラくんと一緒に行こうかしら? ねえ、コアラくん」
「おう、俺はいつでもいいぜ。ルチルの家のユーカリは若木だからこれまた格別なんだ」
そんなこんなで、明後日に二人がお屋敷に来ることになったわ。
◇◇◇
トラシマにお屋敷まで送ってもらって、エミリーがお出迎えをしてくれて……と一息つく前にお庭へ出て早速どこに種を植えようかなと見繕う。
「グゲッゲゲ」
相変わらずクレセントビークが汚い声で鳴いていて、ああ、帰ってきたんだなと安心する自分に「あはは」と苦笑する。
「ルチル様もあの子の良さが分かってきたんですね!」
「う、ううん。それはどうかしら」
「またまたあ」
「この辺、植えちゃってもいいかしら」
「はいい。花壇にと思って整備しておいたんですよ。使ってください!」
「ありがとう、エミリー」
クレセントビークに向いた目を花壇に移したエミリーが力一杯両手を握りしめ、満面の笑みを浮かべた。
オウロベルデさんから頂いた小袋から一粒種を摘まみ、土の中へ埋める。
作業を繰り返し、20個くらい埋めたところで一息つく。
「じゃあ、魔法を使うわね」
「楽しみですっ!」
村の農場で魔法を使う前にここで試すことができて良かったかも。
王都にいる時、種から成長させたことは何度かある。だけど、外部魔力に切り替わってからは初めてになるもの。
試しておくにこしたことはないわよね。
今更ながら、自分の抜けに内心舌を出す。
さあ、行くわよ。
術式構築……対象は先ほど埋めた種。
「緑の精霊ドリスよ。芽吹きの恵みを。ビリジアングロウ」
緑の光がエミリーのこしらえた花壇に降り注ぎ、あっという間に芽が出てくる。
芽から茎が伸び、グングン成長していく。
薄グリーンの葉が丸まっていき、コアラさんの顔くらいのボールのようになった。
「これがキャベツ?」
「一つ、とってみますか?」
「うん。中身も見たいわね」
「じゃあ、お夕飯に使いましょう!」
根本を切って、キッチンまでキャベツを運ぶ。
真っ二つに切ってみたところ、びっしりと葉が詰まっていた。
「カプトにそっくりですね」
「カプトのことをキャベツと言っていたんじゃないかな」
エミリーと私の感想は同じ。
キャベツとはカプトのことで間違いなさそうね。
「花壇で育てるわけにはいかないし……」
「何か飼育するのですか? 楽しみです」
「私は余り楽しみじゃないかも。糸が取れるそうよ」
「へえええ。どんなモフモフさんなんですか!」
「来てからのお楽しみよ。今日、コアラさんのところでオウロベルデさんという色気たっぷりの美人さんを紹介してもらって――」
エミリーと料理をしながら、ユーカリの森であった出来事を彼女に語る。
彼女は一言一言に対し、相槌を打ち私の話を聞いてくれたの。
「オウロベルデ様。モフモフさんを連れてきてくださるんですね! 素敵です」
「ま、まあ、ね」
キラキラ輝く彼女の顔を見ていると真実を伝えることができなくなっちゃった。
どうしよう……。
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