ブロック作成スキルで、もふもふスローライフを目指すことにした

第44話 わきあいあい

「人間たちは、私たちと変わらなかったの」

　ライラは言葉を続ける。ガイアたちのことを。人間と悪魔は同じような感情を持ち、友人になれる存在だと。

「ライラねえちゃん、ねえちゃんが人間に会って無事だったのは分かったんだけど……」

　アッシュはバツが悪そうに頭をガシガシとかきむしる。

「わたしもあってみたいなー」

　フィアは無邪気に笑顔を見せた。
　しかし、エドは顔をしかめ腕を組みじっと何かを考えている様子だ。

「エドさん、みんな。一度、俺と親しい三人と会ってみてくれないか？」

　人間と悪魔族に仲良くしてほしいというのは、俺のエゴに過ぎない。彼らには彼らなりのこれまでの慣習があるわけで、無理やり仲良くしてくれってのは違うってことは俺だって理解している。
　でもさ、せっかくだったら俺の知り合い同士だけでも仲良くしてほしいんだよ。みんなでこの宿泊施設でバーベキューとか楽しいじゃないか。バカみたいだけどさ……そういう何気ない楽しさを大事にしていきたいと思っているんだ。

「う、ううむ。分かった。危険を顧みず村を救ってくれた賢者の頼みだ。先に私だけで会うということでもいいか？」
「もちろんで……」

　俺の言葉へ被せるように、アッシュがハイハイ！　と手をあげて割り込んでくる。
　
「兄貴！　俺も俺も！」
「アッシュ、危険だ」

　エドが否定するも、アッシュは首を左右に振り俺へ顔を向けた。
　
「何言ってんだよ、エド！　兄貴がいるんだぜ！」
「そ、そうだな。ならば二人で会うか」
「パパ―、わたしも会いたいなー」

　唇に人差し指を当てながら、フィアも参戦してくる。
　
「フィア！」
「お父さん、フィアだけ仲間外れは可哀そうよ。私がちゃんとフィアのことを見るから、ね？」

　ライラがエドを説得し、彼は娘に挟まれしばらく粘っていたが、「分かった」とぶっきらぼうに呟いた。
　
「パパ―、ありがとうー！」

　フィアがエドに抱き着くと、エドもしゃあないなあというあまあまの父親の顔になっている。
　普段エドは年長者として振舞っているから、こういう姿を見ると新鮮だなあ。
　あ、そうそう。肝心なことを言い忘れていたじゃねえか。微笑ましい姿に頬を緩めている場合じゃないぞ。
　
「エドさん、この施設は自由に使ってもらっても大丈夫です」
「ここは確かに便利そうだが……」
「元々、村の人たちが立ち寄っていた切り株があった場所ですし、採集の休憩所にでも」
「ふむ。確かにこの辺りは採集へよく来る場所だ。人間たちがいない時には利用させてもらうとしようか」
「ありがとうございます。施設で何か不満点があれば教えて欲しいです。より使いやすくしたいと思ってますので」
「では、賢者よ。さっそくだが、一つ難点があるな」

　エドはそこで言葉を区切り、首を左右に振る。
　そんなエドのしかめっ面へフィアが指で頬をツンツンするものだから、吹き出しそうになってしまったじゃないか！
　
「な、なんでしょうか？　教えていただけますか？」
「うむ。それはな……フィア、少しライラと遊んでいなさい」

　ほっぺたまで引っ張ろうとしだしたフィアの体ごと持ち上げて、わきに置いたエドが言葉を続ける。
　
「コホン。賢者よ。まず決めないといけないことは、ここの名前だよ」
「確かに、宿泊施設じゃあ」
「ここは、もはや集落といってもいいくらいの設備が整っている。そうだな……あなたの名前でも取ったらどうだ？」
「そ、それはちょっと……」

　ヒノシティとかヒノヴィレッジとかどんな羞恥プレイだよ……。
　
「兄貴！　リョウスケシティにしようぜ！」
　
　アッシュ……。
　俺の顔を察したのか、ライラが口を挟む。
　
「良介さん、クリスタルパークとかいかがでしょうか？　今後更に拡大し、集落から村へ、村から街になることも見越して」
「なるほど。それでいこう！」
「おお！　カッコいいぜ。ライラねえちゃん」
「ふむ……。なかなか良い名だ。村人にも伝えねばな」　
　
　こうして、宿泊施設はクリスタルパークと呼ぶことになったのだった。
　
　◆◆◆
　
　あれから五日がたつ。ガイアたち三人を連れてクリスタルパークに向かうポチに騎乗する俺とライラ。
　馬車も引いて来たかったんだけど、道が全く整備されてないどころか道らしき道さえなかったから途中で彼らは馬に乗り、俺の後をついて来る。
　
「あそこだよ、みんな」
「お、おお！　村があるじゃねえか！」

　高さ八メートルの城壁に囲まれたクリスタルパークは樹木より低いが、周囲の木を取り除いているから遠くからでもよく目立つ。

「あれ、何もないように見えるけど……薄っすらと青みがかってるやん？　あれってブロックやな？」
「うん。城壁と天井を備えているんだよ」
「そらすごいわあ、りょうちゃん。ジルコンでもここまで大きな屋根のある建物はないで」

　あれやこれやとガイアたちは言葉を交わしているとクリスタルパークまで到着した。
　
「おお、家はそんなに数がないんだな。しっかし、これ全部、ブロックなのか！」

　ガイアが足を振り上げて踏みしめながら床の様子を確かめる。

「うん、全部ブロックで作ったんだ。まだまだ発展途上だけどね」
「これほどなら、街としても機能しますよ。大魔法使い様」

　ヨハンがクリスタルパークを手放しに褒めてくれた。

「で、りょうちゃん、あの池の傍にいる人らが悪魔族やな」

　遠くからでもフィアはともかく、エドとアッシュの大きな翼はハッキリと確認できるからな。
　一目で人間じゃないと分かる。
　
「うん、じゃあ、会いに行こうか」

　俺が先導して、ガイアたちは馬を引き中央までゆっくりと進んでいく。
　
　◆◆◆
　
　ひとしきり全員の挨拶が済んだが……ガイアたちは三人、エドたちも三人、そして俺とライラまでいるから、みんながみんな勝手に喋ったら収集がつかなくなってしまう。
　そこで、ニーナとエドに代表して話をしてもらうことにしたのだ。

「エルフの方もいたのだな。改めてよろしく。私は村の代表をしているエド」
「ご丁寧にどうも。うちは人間の街で商人をやってるニーナや。エルフとは会おうてるん？」
「稀にだがな。ここから距離はあるが、エルフの集落があるのだ。彼らは外部と基本交流を持たない」
「うちは人間の街で生まれたさかい、エルフの集落のことはよくわからないんや。うちはエドさんが想像するエルフと少しちゃうと思う」
「問題ない。あなたの方が私の知るエルフより余程親しみやすい」

　エドとニーナの会話が弾んでいるようだけど手持無沙汰になってきたな……フィアとか何かウズウズしてガイアの髭をじっと見ている。
　そういや、悪魔族の人で髭が生えた人を見たことがないな。生えてこないんだろうか？　俺？　俺は刃物を手に入れて以来、ちゃんと髭を剃ってるぜ。
　
「エドさん、ニーナ。他の人たちもそれぞれ話をしていてもいいかな？」
「問題ない」
「ええでえ。こっちはこっちで詰めたい話が終わったらりょうちゃんに言うさかい」

　ふむ。よいようだ。何やら村と商人の話に推移しているようだな……。
　
「賢者さまー」
「ん？」

　俺の手を引き、ガイアの方へ顔を向けるフィア。
　え、えええ。俺が頼むのお？
　
「どうした、良介。そこの嬢ちゃんが何かあるのか？」
「あー、あー、うん。どうやら髭が珍しいみたいで」
「ほう。そいつは面白えな！　悪魔族は髭が生えないのか？」
「ああ、そうだぜ！　エルフも髭が生えないから、初めてみたぞ！」

　アッシュも会話に参戦してきた。
　アッシュとフィアはガイアに髭を触らせてもらってご満悦の様子。

「そういや、兄貴も髭が生えるの？」
「うん。毎朝剃ってるけど」
「へえええ。でも、兄貴は髭が無い方がカッコいいと思うぜ！」
「そ、そうか。ありがとう」

　アッシュはそう言い残して、今度はヨハンに絡みに行く。あいつ、物凄く社交的だよな……。
　
「良介さん、お昼の用意をしてきましょうか？」
「あ、俺も手伝うよ」
「では、僕も手伝いましょう」
「えー、じゃあ俺もー」

　ヨハンに加えて、アッシュも手伝うと申し出てくれたけど数が多すぎると逆につかえてしまって邪魔になる。
　まあいいかあ。同じ釜の飯を作るってのもいいことだ。ワイワイやっちゃおうぜ。
　
　ご飯ができる頃にニーナとエドの話し合いも終わっていた模様で、彼らから決まったことを聞かせてもらう。
　内容は概ね、俺がニーナと決めていたことに近い感じで妥結したようだった。人間の商人はしばらくの間、ニーナのみに限る。また、ガイアとヨハンも護衛として連れてきていい。
　悪魔族の方は、原則エドが応対するけどクリスタルパークの利用はニーナたちがいる日であろうと村民は利用する。
　様子を見て、今後どうしていくのかは俺も交えて話し合いたいとのことだった。
　
「ふむ。では、食べるとしようか」

　ん？　頭の上から声が……。
　あ、あれは、ウォルターか。全くご飯となるとどこからか嗅ぎつけてきて現れるよなあ。全く。
　
「ウォルター、君の弟子もいるよ」
「そんなことより、飯だ。良介」

　やれやれ……。こら食べるまで何言っても聞かねえな。
　俺は肩を竦め、ウォルターへ肉の塊を更に乗せ椅子の上に置いた。
　
「みんな、お昼を食べよう！」

　俺が声をかけると、全員が協力して取り皿や食器の準備を始める。
　そこに悪魔族だとか人間だとかはまるで感じさせなかった。フィアが食器を出し、よろけているのをガイアが支え、ニーナが鍋から小皿にとりわけエドが並べる。
　悪魔族と人間、エルフが一緒になって作業を行う。たった六人だけだけど、これが始まりでここから融和が始まっていけばいいなあと俺の頬が緩んだのだった。