上 下
40 / 45

第40話 レベルアップ再び

しおりを挟む
「良介さん!」

 拠点に戻った俺を見とめたライラは全速力で駆けてきて俺に抱き着く。
 俺は彼女の艶やかな髪を撫で、
 
「ただいま」

 と告げる。
 
「おかえりなさい。良介さん」

 一方のライラも俺の胸に顔をうずめながら、言葉を返した。

「積もる話はいろいろあるけど、まずは食事にでもしようか」
「はい!」

 エドから頂いた鶏肉を切り分け、塩を振って串焼きにする。他にも香草と猪肉を使ってヤシの葉っぱでくるみ蒸し焼きに。
 更にはほうれん草ぽい野菜とカリフラワー、トウモロコシはまとめて茹でてサラダにする。
 なんと、牛乳とチーズも手に入ったので、牛乳は念のため湯煎してから食事と一緒に飲もう。チーズは保管。
 
「ライラ、この野菜や香草類ってこの辺りで自生しているかなあ?」
「香草はあると思いますが、野菜は畑で育てないと……ですね」
「そっかあ、畑も作ろうか」
「はい! 苗は悪魔族の村から頂けば大丈夫と思います」
「おお、それくらいなら融通してくれそうだね」

 食事の準備ができたので、ライラへ悪魔族の村で起こった出来事をかいつまんで話をする。
 彼女は時にぱああと明るく、時に顔をしかめ、俺の話をうんうんと頷きながら聞いてくれた。
 
「良介さん、大活躍だったんですね! 村も元に戻ってよかったです」
「ライラの父さんもライラが話をしにくるのは歓迎みたいだったよ」
「そうですか。ありがとうございます!」

 お、そうそう。もう一つライラに相談したいことがあったのだ。

「お礼にいろいろ物資もくれるみたいだから、何が必要か一緒に考えないか?」
「はい!」
 
 ライラは満面の笑みを浮かべて元気よく返事をしたのだった。
 
 ◆◆◆
 
 久しぶりに体を洗ってさっぱりした後、自室に戻りポチのお腹に寝そべる。
 モフモフして気持ちいいー。
 さてと、落ち着いたところでエドから聞けた情報を整理してみるか。
 
 一番気になっていたのは、悪魔族と人間の関係性だ。悪魔族と人間は過去にドンパチがあったみたいで、それ以来悪魔族は人間と接触を断つようになった。
 それでも、一部の好戦的な悪魔族と人間はお互いに「狩り」を行っているらしい。エドの村ではそのようなことをする悪魔族はいないらしく、専ら人間の残虐性を伝え人間と接触しないように子供に言い聞かせているとのこと。
 だから、ライラはあれほどまでに人間を恐れていたってわけだ。
 一方、人間側はどうなんだろう。ガイアたちと接した感じ、悪魔族は戦闘力が高く危険な存在だと言っていた。他のことに気を取られて余り詳しく聞いていなかったことが悔やまれるなあ。
 でも、ガイアたちとは定期的に会えることになっているからおいおい聞いていけばいいか……って! ガイアたちと会う日は明後日じゃないか! アリのことですっかり忘れていたよ……。
 明日、彼らに持っていくものを何か見繕うとしよう。あ、そうか! アリの甲殻も売れるかもしれないじゃないか……持って帰ってきたらよかったかな。
 
 エドから聞いたことを紙に書いてまとめたわけじゃなかったから、抜けなく聞けたわけではないが技術力や家畜、畑のことも聞くことができた。
 車軸のところで気になっていたんだけど、悪魔族と人間は接触が無いからお互いの技術力は不明となっている。少なくとも悪魔族の技術力では、鉄の車軸やゴムを使った衣類を作ることはできないみたいだ。
 となると、人間と悪魔族の技術格差はそれなりにありそうだと予想される。
 家畜に関しては、馬牛羊ヤギと俺の知っている家畜はほとんど揃っている模様。例外は豚くらいか。豚は家畜化しておらず、野生の猪を狩猟しているそうだ。
 畑では俺待望の穀物類としてトウモロコシ。俺がもらってきたようないくつかの野菜を栽培している。
 マンゴーなどの果物類は余り栽培しておらず、ジャングルに自生しているものを使うことが多いみたいだった。
 
 だいたいこんなところか。ガイアたちからもっと情報を得たいところだけど、焦らずじっくりやっていくつもりだ。俺には急ぐ理由もないしねー。
 さしあたり、生きていく分には問題ないくらいの物資も揃いつつあるし。
 
 ここまでこれたのはなんといってもタブレットによるところが大きい。
 俺は何気なくタブレットを手に出現させる。すると、画面に映るブロックアプリのアイコンにビックリマークが浮かんでいるじゃないか。確かこれって……レベルアップだっけ?
 ブロックアプリを起動させてみると、俺の予想通りの案内が出てくる。
 
『ミッションクリア レベルが上がりました』
 
 お、おおお。ミッション自体何をしたのか分からないけど、性能がパワーアップするのは大歓迎だぜ。
 どれどれ、画面をタップすると追加された機能が出てくる。
 
『材質に水が追加されました』
『「解除」の機能が追加されました』

 ほうほう。最初のは分かりやすい。木材に加えて水もブロックにできるってことだよな。
 もう一つは試してみないと何のことかよく分からないな……明日、ガイアたちに会いに行く前に試してみるとしようか。
 
 寝ころんでいたものの、遠足前の子供のようにブロックの新機能を試すことでワクワクしてしまい、ゴロゴロとその場で寝返りを打つ。
 しかし、ポチをモフモフしているうちにすぐに眠ってしまったのだった。
 
 ◆◆◆
 
――翌朝
 ライラが朝食を準備している間、俺は心ここにあらずと言った感じで小川の方をぼーっと眺めていた。

「どうされました? 良介さん、体調が優れないのですか?」
「ぬお、ラ、ライラ。近い、近い!」

 気が付くとライラの顔がドアップになっていたから驚いてしまう。

「す、すいません。つ、つい」
「あ、当たる」
「え、きゃああ」

 ちょっと当たってしまったかもしれない……お口同士が。
 だってえ、ライラの顔が近すぎるんだものお。お、俺のせいじゃあないよお(棒)。
 焦る俺に対し、ライラが俯いて「キ、キス、しちゃったかも……」とか呟いているけど、何を言ったのかハッキリとは俺の耳に届かない。
 
「ライラ? 何だろう?」
「何でもありません! し、しかし、良介さん、先ほどからどうされたんですか?」

 あからさまに話題を変えてきたライラへ俺も同じ気持ちだったから、彼女の言葉に乗っかる。
 
「新しい機能を試してみたいと思っているんだよ」
「ブロックの大魔法のですか?」
「うん。片づけたら小川に行こう」
「はい!」

 ライラと一緒に小川で食器を洗った後、俺はタブレットを手に出し小川を映しこむ。
 それじゃあ、一丁、試してみるとしますか!
 
 画面に映る水をタッチすると、『水をブロック化しますか?』と聞いてきたので、『はい』をタップし、小さい方のサイズを選ぶ。
 すると、画面の中に透明な水でできたブロックが出現したので、足元に移動させ『決定』ボタンをタッチした。
 
――次の瞬間、現実世界に四十五センチ角の透明なブロックが姿を現す。

「お、おおおお」
「良介さん、水でしょうか? これは」

 俺とライラは異口同音に感嘆の声をあげた。
 
「良介さん、何を?」
「あ、踏んでみようかなと」

 俺はライラに宣言したとおり、よっこらせっと水ブロックの上に乗ってみる。
 その場で軽く飛び跳ねてみるけど、水でできたブロックは木のブロックと同じように頑丈な質感でひっかいても傷が付く様子はまるでなかった。
 押しても動かないし、見た目が違うだけで水でも木でも同じ性質を持つように思える。
 ライラに頼んで水ブロックの上で火を焚いてみたが、普通に火が燃え盛った。おそらく、俺の考えに間違いはないはずだ。
 
 それじゃあ、もう一つの機能「解除」を使ってみるとしよう。
 水ブロックと木のブロックを横に並べて、タブレットに映像を映しこむ。水ブロックをタップしてみると、「解除」が選択できるようになっていた。
 
 おっし「解除」を選んで……決定を行うと水ブロックは元の水に戻ってその場で重力に従い形が崩れ流れていってしまった。
 木のブロックはそのままに見えるが……たぶんこれは。
 
「ライラ、ナタを使うよ」
「はい!」

 後ろに控えてずっと固唾を飲んで見守っていたライラが、俺が動くより早く動き出してナタを取って来てくれる。

「ありがとう」
「いえ!」

 ライラからナタを受け取り、「解除」した木のブロックへナタを振り下ろすと……ナタが突き刺さる!
 お、おお。これも材質が元の「木材」に戻っているみたいだな。木は水と違って固体だからブロックの形は保っていたってことか。
 なるほど、これを使えば……水と木を持ち運ぶことができるってことだ! 素晴らしいぞお。
 
 試して無かったけど、木を元にした加工品……例えば、炭なんかもブロックにできるんだろうか。
 先にガイアたちに持っていく商品を見繕うことにしよう。ブロックアプリの機能確認は後からじっくりやればいいからな!
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが

アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。 右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。 青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。 そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。 青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。 三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。 【登場人物紹介】 マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。 ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。 クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。 ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。 デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。 ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。 ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。 【お知らせ】 ◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。 ◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。 ◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。 ◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。 ◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。 ◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。 ◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。 ※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラスメイトのなかで僕だけ異世界転移に耐えられずアンデッドになってしまったようです。

大前野 誠也
ファンタジー
ー  子供頃から体の弱かった主人公は、ある日突然クラスメイトたちと異世界に召喚されてしまう。  しかし主人公はその召喚の衝撃に耐えきれず絶命してしまった。  異世界人は世界を渡る時にスキルという力を授かるのだが、主人公のクラスメイトである灰田亜紀のスキルは死者をアンデッドに変えてしまうスキルだった。  そのスキルの力で主人公はアンデッドとして蘇ったのだが、灰田亜紀ともども追放されてしまう。  追放された森で2人がであったのは――

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

処理中です...