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第35話 兄貴!
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ブロックで囲いを作り、そのなかに櫓を組む。これが俺がアリを潰す拠点になる。
そして、アリの巣をブロックで塞いで周囲の地面をブロックで埋め尽くすと共に、囲いを作成。これにて準備完了だ。
後は戻ってきたアリを駆除するのみ。
「あ、ええと……悪魔族の人、そこにいたらアリが襲ってくるかもしれないから一緒に櫓へ来てくれないか?」
「あ、ああ」
青年は驚愕し信じられないと首を何度も振っていたが、俺の呼びかけにも心ここにあらずといった感じだった。
初めてブロックを見た人はみんな彼のように開いた口が塞がらない感じになっていたから、俺は彼のことは気にも留めず巣に戻ってくるアリが無いか周囲を見渡す。
櫓の上に登っている今となっては、俺の身に危険が及ぶことはまずない。確実にアリを潰していこう。
「おい、良介、俺の名前はアッシュ。ちゃんと覚えろ」
ようやく櫓の上に登ってきた青年――アッシュは腕を組みフンと顎をツンとした。
アッシュか。覚えやすい名前だよ。何故なら、彼の髪色はアッシュグレーなのだよ。彼は少年と青年の中間くらいの若い男で、生意気そうな釣り目で眉麻呂。
悪魔族らしく額から一対の短い角が生え、口にはエドと同じ牙……じゃないな、八重歯が見えている。
「りょーかい、アッシュ」
思春期の少年を見ているようで、クスリとしてしまう。
「良介、俺のことを子ども扱いしただろ! 俺はもう大人だ」
「はいはい」
大人は自分で大人なんて言わないって。とか突っ込んでからかってやろうと思ったけど、アリを見ないといけないからやめておくことにした。
「おい、良介! 聞いてるのか!」
「待て、アッシュ。アリが来た」
があああとまくしたてるアッシュの口を手で制し、俺は下を指さす。
前脚にパンを抱えたアリが三匹、巣に向かって歩いてくる姿が目に映る。
「あいつら!」
村の食料を奪っていくアリを目の当たりにしたからか、アッシュは怒りの声をあげた。
このままだと飛び掛かっていく勢いのアッシュの肩を掴んで後ろにやると、俺はダブレットでキルゾーンを映しこむ。
「見ていろ、アッシュ。パンは……すまん」
「お、おう」
じっとアリが巣穴を中心としたブロックの囲いに入るのを待つ。奴らが囲いに全部入った瞬間、囲いの入り口をブロックで閉じた。
後は、狙いを定めて……上からドーン! だ。
巣穴に入ろうとするが、ブロックで塞がれていたため入れないアリたちは、囲いの中でウロウロし始める。
そこへ突如、空にブロックが出現し、そのままストーンと重力に引かれ地に落ちた。
結果、音も立てずにアリを踏みつぶすブロック。
続けて、二匹目、三匹目も同じようにブロックで圧殺する。使ったブロックはまた待機状態にして現実世界から消すことも忘れず実施。
うん、完璧だ。
パンも一緒にぺしゃんこだけどな……。
「す、すげえ! 良介……いや、兄貴! あんたはすごいよ!」
褒めてくれるのは嬉しいが、肩を掴んで思いっきり前後に揺するのはやめてくれないかな……。
「そ、そうか……」
首がガクンガクンと振られて酔いそうだ。
「この調子で潰していこう。日が暮れる頃には全部のアリが巣穴に集まってくるんだよな?」
「その通りだぜ、兄貴」
窪地でやったように、夕方まで待ってから一気に押しつぶしてもいいんだけど数が多いと聞いているから囲いを拡大しながら潰していく必要があると考えている。
なので、様子を見ながら夕方まで順次潰して行くつもりだったんだ。
「夜までに、村に出ているアリを全て潰すぞ。アッシュ」
「おう、兄貴! 昼食は飛んで持ってくるからな!」
最初に会った時の敵対的な態度が嘘のように、アッシュは子供っぽい笑顔を浮かべて俺にあれやこれやと手を焼いてくれる。
太陽が高く上がる頃には二十匹くらいのアリを仕留めることができた。
「兄貴! お疲れ様。これ飲んでくれよ」
「これは?」
コップにつがれた液体に目を落とす。色は透明に少しだけ黄色っぽい色がついているな。
匂いは……ほんのり甘い。アルコール臭は無し。
うん、これなら飲んでも大丈夫かな。俺は酒に弱いんだ。もし酒を飲んだら、酔っぱらってしまいアリ駆除に支障が出る。
「お、おお、これはハチミツかな?」
「ああ、ハチミツ水だぜ。兄貴」
「ハチミツも採れるのかあ」
「おう、ハチの巣を育ててるんだ」
養蜂をやっているのか。それだったら、他の畜産業もいろいろやっているかもしれないな。
なら、村を捨てて他に……てのは厳しい話だ。
優しいハチミツ水が胃にはいると、これまでの疲れが癒された気になってくる。人の心遣いとは疲れを癒すパワーになるのだ。
リフレッシュしたところで、俺はタブレットを手に出し、巣穴の囲いに目をやる。
「アッシュ、囲いの高さと広さをそろそろ変更する」
「あれだけうまくいってるのに変えるのか?」
「潰したアリが折り重なって、アリが囲いの外に出てきたら困るからな」
「あ、ああ。そういうことか! 兄貴はちゃんと見ているんだな! 強いのに奢らない、すごいぜ兄貴!」
いちいち大げさに称賛してくれるアッシュに照れてしまう。
身振り手振りも交えてなのだから、俺の気持ちは分かってくれるだろう?
そんなこんなで、日が暮れる頃に集まってくるアリもいなくなりアリの駆除は完了した。
五十辺りまでは数を数えていたんだけど、途中から数を数えるのも面倒になり……たぶん八十くらいのアリを駆除したと思う。
「よし、それじゃあ、エドさんを呼びに行くか」
「兄貴、呼んで来るよ。俺なら飛んですぐだからな!」
「うん、暗いから気を付けてくれよ」
「大丈夫、大丈夫!」
アッシュは何か呪文のようなものを呟き、手を振ると彼の身体がぼんやりと裸電球のような灯りにまとわれた。
お、おおお。灯りの魔法か、すごいな。
すぐにエドと共にアッシュが戻ってきて櫓に着地する。
「こ、これは……聞いてはいたが、凄まじい……」
「兄貴はすごいんだって! 昼に言ったじゃないか!」
自慢気にエドに向けて俺のことを語るアッシュ。なるほど、食料はエド経由で受け取っていたってわけか。
「賢者よ、既に村の者にはあなたの活躍を伝えている。あなたを招く準備は既に整っている」
「兄貴! 村の郊外に村のみんなが集まっているんだ」
彼らの言葉を信じるなら、俺が悪魔族の村人と会っても大丈夫になってるってことだよな。
警戒を解くわけにはいかないけど、アリ殲滅作戦を実施できそうな感じになってきたぜ。
◆◆◆
郊外と聞いていたからすぐそこだと思っていたんだけど、さすがは飛行できる種族。ポチのダッシュで二十分くらいのところに件のキャンプ地はあった。
キャンプ地は周囲にかがり火が炊かれていて、簡易的なテントが軒を連ねている。
エドが先にキャンプ地に入って、俺は遅れてアッシュと共にポチに騎乗した状態で中へ入った。
「賢者さまー」
俺の姿を見とめたフィアが駆けてきてボフッとポチの前脚にアタックする。
そのまま、ふわふわのポチの前脚に頬をスリスリするフィア。
「アリは倒してきたよ、フィア」
「うんー、聞いたよー。やっぱり賢者さまの大魔法はすごいんだー」
「おう、良介の大魔法はすごかったぞ!」
ふふんと自慢気に両腕を組むアッシュは、もうすっかりブロックアプリの信者になっていた。
「フィア、ポチに乗る?」
「うんー」
ポチの前脚にしがみついたまま放そうとしなかったフィアへ問いかけると、彼女は満面の笑顔でやったーとぴょんぴょん跳ねる。
俺はポチの背中の上からフィアに手を伸ばし、彼女を引っ張り上げた。
彼女を俺の前に乗せ、俺は彼女へポチのフサフサの首回りをしっかりつかむように指示を出す。
彼らに案内されてキャンプ地の広場に到着すると、悪魔族の方々が遠巻きにこちらを伺っている様子が目に入る。
う、ううん。目線を痛々しいほどに感じるぞ……。こんなに多くの人たちに注目されたことって今まで無いからどう振舞っていいのか困ってしまう。
「賢者よ。村の者は皆、あなたを歓迎します」
エドが前に進み出て、軽く会釈をした。
「フィア、村人の様子はどんな感じなの?」
俺はフィアの耳元で囁く。
「みんな、賢者さまのことすごーいって。人間の姿をとっていても賢者さまは賢者さまだからーって」
少し気になる言葉があるけど、いきなり襲い掛かられたりすることは無さそうかな……。
「兄貴! 祝勝会をやろうぜ! 兄貴の武勇伝をみんなに語ってくれよ!」
待ちきれない様子でアッシュがせがんでくる。俺はエドに顔を向けると、彼は無言で頷きを返したのだった。
そして、アリの巣をブロックで塞いで周囲の地面をブロックで埋め尽くすと共に、囲いを作成。これにて準備完了だ。
後は戻ってきたアリを駆除するのみ。
「あ、ええと……悪魔族の人、そこにいたらアリが襲ってくるかもしれないから一緒に櫓へ来てくれないか?」
「あ、ああ」
青年は驚愕し信じられないと首を何度も振っていたが、俺の呼びかけにも心ここにあらずといった感じだった。
初めてブロックを見た人はみんな彼のように開いた口が塞がらない感じになっていたから、俺は彼のことは気にも留めず巣に戻ってくるアリが無いか周囲を見渡す。
櫓の上に登っている今となっては、俺の身に危険が及ぶことはまずない。確実にアリを潰していこう。
「おい、良介、俺の名前はアッシュ。ちゃんと覚えろ」
ようやく櫓の上に登ってきた青年――アッシュは腕を組みフンと顎をツンとした。
アッシュか。覚えやすい名前だよ。何故なら、彼の髪色はアッシュグレーなのだよ。彼は少年と青年の中間くらいの若い男で、生意気そうな釣り目で眉麻呂。
悪魔族らしく額から一対の短い角が生え、口にはエドと同じ牙……じゃないな、八重歯が見えている。
「りょーかい、アッシュ」
思春期の少年を見ているようで、クスリとしてしまう。
「良介、俺のことを子ども扱いしただろ! 俺はもう大人だ」
「はいはい」
大人は自分で大人なんて言わないって。とか突っ込んでからかってやろうと思ったけど、アリを見ないといけないからやめておくことにした。
「おい、良介! 聞いてるのか!」
「待て、アッシュ。アリが来た」
があああとまくしたてるアッシュの口を手で制し、俺は下を指さす。
前脚にパンを抱えたアリが三匹、巣に向かって歩いてくる姿が目に映る。
「あいつら!」
村の食料を奪っていくアリを目の当たりにしたからか、アッシュは怒りの声をあげた。
このままだと飛び掛かっていく勢いのアッシュの肩を掴んで後ろにやると、俺はダブレットでキルゾーンを映しこむ。
「見ていろ、アッシュ。パンは……すまん」
「お、おう」
じっとアリが巣穴を中心としたブロックの囲いに入るのを待つ。奴らが囲いに全部入った瞬間、囲いの入り口をブロックで閉じた。
後は、狙いを定めて……上からドーン! だ。
巣穴に入ろうとするが、ブロックで塞がれていたため入れないアリたちは、囲いの中でウロウロし始める。
そこへ突如、空にブロックが出現し、そのままストーンと重力に引かれ地に落ちた。
結果、音も立てずにアリを踏みつぶすブロック。
続けて、二匹目、三匹目も同じようにブロックで圧殺する。使ったブロックはまた待機状態にして現実世界から消すことも忘れず実施。
うん、完璧だ。
パンも一緒にぺしゃんこだけどな……。
「す、すげえ! 良介……いや、兄貴! あんたはすごいよ!」
褒めてくれるのは嬉しいが、肩を掴んで思いっきり前後に揺するのはやめてくれないかな……。
「そ、そうか……」
首がガクンガクンと振られて酔いそうだ。
「この調子で潰していこう。日が暮れる頃には全部のアリが巣穴に集まってくるんだよな?」
「その通りだぜ、兄貴」
窪地でやったように、夕方まで待ってから一気に押しつぶしてもいいんだけど数が多いと聞いているから囲いを拡大しながら潰していく必要があると考えている。
なので、様子を見ながら夕方まで順次潰して行くつもりだったんだ。
「夜までに、村に出ているアリを全て潰すぞ。アッシュ」
「おう、兄貴! 昼食は飛んで持ってくるからな!」
最初に会った時の敵対的な態度が嘘のように、アッシュは子供っぽい笑顔を浮かべて俺にあれやこれやと手を焼いてくれる。
太陽が高く上がる頃には二十匹くらいのアリを仕留めることができた。
「兄貴! お疲れ様。これ飲んでくれよ」
「これは?」
コップにつがれた液体に目を落とす。色は透明に少しだけ黄色っぽい色がついているな。
匂いは……ほんのり甘い。アルコール臭は無し。
うん、これなら飲んでも大丈夫かな。俺は酒に弱いんだ。もし酒を飲んだら、酔っぱらってしまいアリ駆除に支障が出る。
「お、おお、これはハチミツかな?」
「ああ、ハチミツ水だぜ。兄貴」
「ハチミツも採れるのかあ」
「おう、ハチの巣を育ててるんだ」
養蜂をやっているのか。それだったら、他の畜産業もいろいろやっているかもしれないな。
なら、村を捨てて他に……てのは厳しい話だ。
優しいハチミツ水が胃にはいると、これまでの疲れが癒された気になってくる。人の心遣いとは疲れを癒すパワーになるのだ。
リフレッシュしたところで、俺はタブレットを手に出し、巣穴の囲いに目をやる。
「アッシュ、囲いの高さと広さをそろそろ変更する」
「あれだけうまくいってるのに変えるのか?」
「潰したアリが折り重なって、アリが囲いの外に出てきたら困るからな」
「あ、ああ。そういうことか! 兄貴はちゃんと見ているんだな! 強いのに奢らない、すごいぜ兄貴!」
いちいち大げさに称賛してくれるアッシュに照れてしまう。
身振り手振りも交えてなのだから、俺の気持ちは分かってくれるだろう?
そんなこんなで、日が暮れる頃に集まってくるアリもいなくなりアリの駆除は完了した。
五十辺りまでは数を数えていたんだけど、途中から数を数えるのも面倒になり……たぶん八十くらいのアリを駆除したと思う。
「よし、それじゃあ、エドさんを呼びに行くか」
「兄貴、呼んで来るよ。俺なら飛んですぐだからな!」
「うん、暗いから気を付けてくれよ」
「大丈夫、大丈夫!」
アッシュは何か呪文のようなものを呟き、手を振ると彼の身体がぼんやりと裸電球のような灯りにまとわれた。
お、おおお。灯りの魔法か、すごいな。
すぐにエドと共にアッシュが戻ってきて櫓に着地する。
「こ、これは……聞いてはいたが、凄まじい……」
「兄貴はすごいんだって! 昼に言ったじゃないか!」
自慢気にエドに向けて俺のことを語るアッシュ。なるほど、食料はエド経由で受け取っていたってわけか。
「賢者よ、既に村の者にはあなたの活躍を伝えている。あなたを招く準備は既に整っている」
「兄貴! 村の郊外に村のみんなが集まっているんだ」
彼らの言葉を信じるなら、俺が悪魔族の村人と会っても大丈夫になってるってことだよな。
警戒を解くわけにはいかないけど、アリ殲滅作戦を実施できそうな感じになってきたぜ。
◆◆◆
郊外と聞いていたからすぐそこだと思っていたんだけど、さすがは飛行できる種族。ポチのダッシュで二十分くらいのところに件のキャンプ地はあった。
キャンプ地は周囲にかがり火が炊かれていて、簡易的なテントが軒を連ねている。
エドが先にキャンプ地に入って、俺は遅れてアッシュと共にポチに騎乗した状態で中へ入った。
「賢者さまー」
俺の姿を見とめたフィアが駆けてきてボフッとポチの前脚にアタックする。
そのまま、ふわふわのポチの前脚に頬をスリスリするフィア。
「アリは倒してきたよ、フィア」
「うんー、聞いたよー。やっぱり賢者さまの大魔法はすごいんだー」
「おう、良介の大魔法はすごかったぞ!」
ふふんと自慢気に両腕を組むアッシュは、もうすっかりブロックアプリの信者になっていた。
「フィア、ポチに乗る?」
「うんー」
ポチの前脚にしがみついたまま放そうとしなかったフィアへ問いかけると、彼女は満面の笑顔でやったーとぴょんぴょん跳ねる。
俺はポチの背中の上からフィアに手を伸ばし、彼女を引っ張り上げた。
彼女を俺の前に乗せ、俺は彼女へポチのフサフサの首回りをしっかりつかむように指示を出す。
彼らに案内されてキャンプ地の広場に到着すると、悪魔族の方々が遠巻きにこちらを伺っている様子が目に入る。
う、ううん。目線を痛々しいほどに感じるぞ……。こんなに多くの人たちに注目されたことって今まで無いからどう振舞っていいのか困ってしまう。
「賢者よ。村の者は皆、あなたを歓迎します」
エドが前に進み出て、軽く会釈をした。
「フィア、村人の様子はどんな感じなの?」
俺はフィアの耳元で囁く。
「みんな、賢者さまのことすごーいって。人間の姿をとっていても賢者さまは賢者さまだからーって」
少し気になる言葉があるけど、いきなり襲い掛かられたりすることは無さそうかな……。
「兄貴! 祝勝会をやろうぜ! 兄貴の武勇伝をみんなに語ってくれよ!」
待ちきれない様子でアッシュがせがんでくる。俺はエドに顔を向けると、彼は無言で頷きを返したのだった。
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