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第14話 籠編み

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 ポチ達が帰って来るまでと思い開始した葉っぱ編み作業だったが、気が付くと日が傾き始めていた。
 時がたつのも忘れて集中した結果、良く分からない葉っぱを集めた残骸が一つできただけだったという……。
 
 い、いや、何度も修正しようと編みなおしたりして頑張ったんだ。だけど、やればやるほど悪化していって意地になって更に酷くという悪循環を繰り返してしまった。
 我ながらここまで不器用だったのかと頭を抱える。
 
「良介さん、こちらも使いますか?」

 おずおすと俺に囁くライラの手には折りたたまれた藁でできた布が見えた。
 い、いつの間に作ったんだよ! 確かライラは籠を作った後に袋を作っていたよな。
 
「ライラ、それは?」
「これは、ヤシの繊維で作ったラグです」
「は、はやいな……作ると言っていたものは全部できたの?」
「はい。籠と袋は二つ作りました。ポチとウォルターが戻るまでと思って作っていたらこれもできちゃいました」
「お、俺のはちょっとダメそうだよ」
「……良介さん、私の教え方が良くなかったんです。次はちゃんと見てますから……」

 ライラの優しさに対し、逆に俺の心が抉られる。やり方は一応聞いたんだよね……。次だ次、次こそはちゃんとしたのを作ってみせるからな。

「良介さん、このラグの上に葉っぱで作ったシートを被せたらちょうどいい敷物になると思いますよ。葉っぱのシート、完成させましょうね」
「うん、頑張るよ!」

 両手に握りこぶしを作って胸の前に持ってきたライラが、俺を励ますようにそう言ってくれた。
 うん、最初からうまくできるわけがないよな! 幸い、編み物の先生が目の前にいるんだ。絶対編み物をマスターしてやる!
 
「あ、ライラ、ココナツの実の白い部分は乾燥させたいんだけど」
「はい。石鹸を作られるのですか?」
「うん、やり方を知ってるの?」
「はい。石鹸なら、ココナツよりアブラヤシの実の方が作りやすいかもですが、私はココナツの石鹸の方がいい香りがして好きです」
「アブラヤシもあるのか!」
「窪地にあるかは分かりませんが、上には沢山ありますよ。よく採集していましたし」

 ほうほう。アブラヤシの実を絞るとパーム油が採れるのだ。パーム油は現代の地球でも主要な油の一つになっているほど、油の採れる効率がいいそうだ。
 しかし、「窪地の外」かあ。やっぱり近く外に出た方がいいな。道具もそうだけど、ライラのためにも服くらい入手したいところだ。
 ただ、外部の村がどこにあるのかといった情報はまるでない。少しづつ探索していくしかないだろうなあ……もう一つ問題があって、取引するなら当たり前だけどこちらから出す商品が必要になる。

「何か考え事をされているのですか?」
「うん、折を見て外に出ようかなと考えていたんだ」
「そ、そうなんですか……」

 ライラはうつむき悲しそうな声をあげる。
 俺は焦ったように手を振って慌てて彼女へ言葉を返した。
 
「ライラ、俺は君を置いて外で暮らそうとか考えていないよ。もちろん、悪魔族の村を目指すこともしない」
「そ、そうですか。誤解してしまってすいません……」
「俺は人間だから、悪魔族と出会うのは得策じゃない。だから、悪魔族の勢力圏と反対側……つまり人間がいるであろう地域を探ってみようかなと」
「良介さんなら人間なので、おそらく大丈夫だと思いますが……」

 人間のことを想像したのか、ライラは肩を震わせると抱え込むように両腕で自身を抱え込んだ。
 あちゃー、彼女の人間に対する恐怖感はとんでもないものなんだなあ……。そらまあ、人間は出会ったら即襲い掛かってくると聞かされていたんだから、仕方ないか。
 俺は話題を変えるため、ことさら明るい声を出す。
 
「ライラ、さっきの魔法でココナツの実の白いところを乾燥させてもらえるかな?」
「そうですね。やってしまいましょう。この後絞ると油が取れるんですが、この作業はなかなか大変です。後日やりましょうか?」
「いや、圧搾あっさくは任せてくれ。一瞬でやってみせる!」

 ライラは少しだけ眉をしかめたが、すぐにブツブツと何かを唱えるとココナツの実の白い部分――胚乳はいにゅうに手をかざす。
 胚乳はみるみるうちに乾燥して、琥珀色に変色した。これは地球だとコプラと言われるものなのだが、これを圧搾(押しつぶす)とコプラ油が取れるのだ。
 
「魔法ってやっぱりすごいな」
「これくらいのサイズなら私でもできます」
「あとは任せてくれ!」

 俺はライラを一歩下がらせると、タブレットを手に出す。
 ロの字型になるようにブロックを配置して、穴の開いた部分にコプラを置く。続いてコプラの真上……だいたい五メートルくらいの空中にブロックを出現させた。
 出た途端に重力に引かれ落ちていくブロックは、見事コブラを置いた穴へハマりこむ。
 よっし、うまくいったぞ。あとはコプラを押しつぶしたブロックを移動させれば作業完了だ。
 
「すごいです、良介さん。あとは残骸を捨てて油を採取するだけですね」
「うまくいってよかったよ。壺に油を集めよう」

 そうはいったものの、油を集める手段がない。布に油を浸して絞るとか方法はあるんだけど、うーん。
 ブロック同士は強固にくっついていて、ここに水を入れても漏れだしてこないほどだ。ならいっそ、残骸だけ取り除いてこのまま石鹸にしてしまうか。
 石鹸なら油より水気がないから拾えるような気がする。
 
「ライラ、石鹸の作り方なんだけど、今ある材料だけで作れそうかな?」
「まず油を集めないと……あ、このままここで作られるのですか」
「うん、ちょうどこれが容器になるかなと思ってさ」
「それでしたら、さっそく作りましょう。うまくできないかもしれませんが……」
「最初からうまくいくと思ってないよ。ここにあるものだけで作らないといけないしさ」
「でしたら、まずやってみましょうか」

 胚乳の残骸を取り除いた後、ライラは家に戻り壺を手に持って戻ってくる。
 彼女はロの字型に配置したブロックの前で壺をひっくり返すと、中から灰が落ちてきた。

「これをかき混ぜます」
「了解」

 そこら辺の枝でグルグルかき混ぜると、灰と油が混じったドロドロの液体になる。
 これが石鹸なのかな?
 
「灰を使ってますので、匂いはあまりよくありませんがこれに塩を混ぜて固めます」
「お、おお。なるほど」

 ようやくライラの行おうとしていたことが理解できた。確か石鹸は油にアルカリを混ぜて作ると記憶している。
 灰のアルカリ成分と油が混じりあうことで石鹸になるけど、このままだと液体で使いづらい。そこで、塩を混ぜて塩析えんせきを行おうっていうんだな。
 塩析ってのは、豆腐を固めるような工程になる。余り化学変化には詳しくないけど、要は液体に塩を混ぜることで固まる部分が出てくるってことだ。うん。
 
 ライラはナイフで岩塩を削り、パラパラと灰色のドロドロへ振りかけていく。

「混ぜたらいいのかな?」
「はい。ゆっくりと混ぜてみてください」

 うまくいけよお。と祈りながら枝をグルグルするとすぐにライラから待ての合図が入った。
 
「このまましばらく待つと固まってくる部分が出てくると思います。うまくいけばですが……」
「うまくいかなかったとしても、このまま石鹸として使えるか試そうよ」
「はい」

 夕食の後、これを使って手を洗ってみよう。肉を扱うから脂肪分で手がベトベトになるんだよなあ……水であらってもなかなか取れないし。

「じゃあ、一旦休もうか」

 ライラに声をかけて、その場で胡坐をかこうとした時、口に鹿を咥えたポチの姿が小川の向こうに見えた。
 お、おお。今日も狩猟してきたのか。やるなあ、ポチ。
 
「ポチ、お帰り」
「わんわん」

 鹿を俺のそばに置いたポチは元気よく俺の言葉に応じる。
 よしよしーと彼の首周りをわしゃわしゃすると、千切れんばかりにポチは尻尾を振った。

「戻ったぞ」

 ウォルターはブロック製のテーブルの上に舞い降りてくる。
 
「お帰り。遅かったね。お昼にと思ったヤシガニがあるからポチとウォルターで食べてくれ」
「ほう。ヤシガニとな。久しく食べていない。何故ならヤシガニの殻は固く我が輩の嘴が通らないからだ。いや、勘違いしないでいただきたいのだが、我が輩のくちばしは、むぐ」

 長くなりそうだったから、ウォルターのくちばしにヤシガニの肉を突っ込むと、彼はそのまま食べ始めた。
 今度から、しゃべり続けるようだったらこれで行くか!
 
 俺はポチにもヤシガニの肉を与えてから鹿を解体する作業に向かい、鹿を枝に引っかけてナイフを手に持つ。
 ようやく、この生活にも慣れてきた気がする。俺一人だけじゃなく、ライラたちがいてくれて良かった。もし、自分一人でサバイバル生活ができたとしても仲間がいないと孤独でおかしくなってしまいそうだから……。
 彼らがいてくれて本当にラッキーだと思う。
 俺は鹿の解体作業をしながら、三人へ心の中でお礼を言うのだった。
 
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