上 下
46 / 47

46.帰還

しおりを挟む
「へ? 消えた?」
「はい。魅了されてしまった時はもうダメかと思いましたー」
「順を追って説明してもらえるか?」
「仕方ないですね。特別ですよ」

 と前置きしたすみよんが事のあらましを教えてくれた。
 力の暴走は意思を持つ。といっても、人間のような思考力があるわけじゃないそうだ。
 本能的により強力な力を持つ個体に惹かれるのだと言う。力の暴走のエネルギーの虜になったここにいたモンスターたちは争い、力の暴走を求めた。
 結果、ネザーデーモンが勝ち残って更なるレベルアップをしたというわけである。
 個体の中に取り込まれたとしてもエネルギーの漏れ出しは止まらない。強力な個体の中にいるほうが、発生するエネルギーが増すのだって。
 ネザーデーモンを倒した俺は力の暴走に「認められた」。
 しかし、俺は力の暴走のエネルギーに魅力を感じていないから、力の暴走を受け入れようとなんてしない。むしろ、破壊する気満々だった。
 そこで奴は狡猾なことに、俺の心を読んだのか知らんが変化したんだ。
 まんまと奴の思惑に乗ってしまった俺は、ワオキツネザルを受け入れてしまった。
 そのせいで、力の暴走は俺の体内に入り込んだ。
 
「おお、そういうことだったんだな。汚い奴め」
「ところが、いけぞえさーんは魔力を全く持ってません。ゼロにどれだけエネルギーを注ごうがゼロです」
「入る器自体がないからな……」
「そうでーす。気が付いてましたか? すみよんにとっても計算外だったんですが、いけぞえさんはこの世界の生物じゃないです」
「うん。あ。俺は魔力の恩恵を一切受けていない生命体だったってことか」
「その通りです。体のどこかしらに魔力の恩恵を受けたところというものはどの生物にでもあるのですが、いけぞえさんは魔力がないだけじゃなく肉体的にも魔力との関わりが一切なかったんです。完全無欠の非魔力生命体がいけぞえさんですー」

 だから、俺は力の暴走のエネルギーにまるで反応しなかった。
 そんなわけで、力の暴走は全てのエネルギーを使い果たしてしまい消滅したのだってさ。
 長期に渡ってエネルギーを放出し続けた力の暴走がこんな短時間で消滅するのかとスッキリしないのだけど……。

「んー。魔力との接触が絶たれると、酸素の無いところに俺が放り出されるようなもんなのかな?」
「そんなところでいいんじゃないですかー」

 いいそうだ。
 釈然としないが、誰も欠けることなく力の暴走を滅することができたじゃいか。
 
「お、こうしちゃおれん。ドニとパルヴィは」
「心配ありませーん。二体ほど残ったモンスターがいたようですが、既に討伐されてまーす」
「よかった」
「それにしても、いけぞえさーん」
「ん?」
「魅了で化けるとしたら、あのおっぱいだと思ってましたが、いけぞえさんの趣味はアレなんですか?」
「いやいやいや。待て待て。もふもふ動物に癒されるだろ?」
「まあいいです。すみよんの役目も終わりました」
「まだ終わってないって」
「そうですねー。今すぐ行きますか?」
 
 行くというのは「地球のあの日、あの時」に転移するってことだよな。
 さすがに今すぐは無理だ。少し休ませて欲しい。
 と自分の意思を示すためにその場で腰を下ろす。
 最後は謎の幸運で終わったとはいえ、ネザーデーモン戦ではかなり消耗した。腕を切り落とされるわ、胴体を袈裟に斬られるわ、散々だったんだぞ。
 懐からポーションを取り出し、ゴクゴクと一気飲みする。
 すみよん時計の残日数は戦い前と変わらず。よかった。彼女は余計な力を使わなくて済んだんだな。
 トスンとすみよんも腰を降ろし、自分の背中を俺の背中につけもたれかかってくる。
 
「一つ聞いておきたい」
「なんですかー? 最後におっぱいを揉みたいんです? すみよんのでよければどうぞ」
「いや……そうじゃない」
「揉めるほどない、とでも言いたいんですか?」
「違うってば。すみよんにもらった腕時計があるだろ。時計じゃないけど、日数が出ている」
「もう残日数を気にすることはないですよー。終わったんです」
「そうじゃなくて。俺を転移させても力尽きない日数が残っているよなって確認だ」
「日数がゼロでもいけぞえさーんを送り出す力は残してますよ。そういう『約束』ですからね」
「すみよんが無事でという前提で頼む」
「何を言っているんですかー。力の暴走は滅したのですよ。徐々に残日数も増えていきます。日数はすみよんの力の残量を示したものでーす」

 それを聞いて安心した。
 すみよんは命を燃やし尽くさずに済んだ。パルヴィとドニも無事。あとは俺が隕石を仕留めればハッピーエンドってわけだな。
 コンコンと指先で自分の頭を弾く。
 頭痛はない。
 すみよんは俺を安心させるために、日数のことを誤魔化した線も捨てきれないよな。
 だけど転移に必要な日数は365日だった。以前、俺を信じさせるためにあの時あの場所に送ってくれたからな。その時に減った日数をちゃんと記憶しておいてよかった。
 ぐうううっと両手を伸ばし、すみよんに背中を押し付ける。
 小柄なすみよんだけど、押すと同じくらいの力で押し返してきた。
 うん、体調は問題ない。
 
「すみよん、転移させてもらえるか?」
「行くのですか?」
「うん。ドニとパルヴィの顔を見たら辛気臭くなりそうだしさ」
「分かりましたー」

 ぐっと勢いをつけ一息に立ち上がる。
 くるりと体勢を変えたら、すみよんが顎をあげ真っ直ぐ俺を見上げた。
 うんと彼女に向け頷き、精一杯の笑顔を浮かべる。
 一方の彼女は相も変わらずの無表情のまま、背伸びして俺の肩を両手で掴む。
 
「最初は憤ったこともあったけど、ありがとうな。もう一回俺にチャンスを与えてくれて」
「そんなことない。ごめんね。池添くん。巻きこんじゃって」
「ごめんは無しだぜ。すみよんも俺もどっちのためになった。ウィンウィンだろ?」
「うん。池添くんのことだから乗り切っちゃうんだろうけど、勝算はあるの?」
「うーん。むぐ」

 幼女に口を塞がれた。まさかこう来るとは思っておらず、完全に不意をつかれる。
 しかしよく届いたな……なるほど。すみよんの体が完全に宙に浮いている。

「二人に挨拶しないなら、すみよんから挨拶、ね」
「そのことなんだが――」

 ◇◇◇
 
 戻ってきた。

「きゃ」
「え、影?」

 梓の悲鳴と今井の戸惑う声。何度、夢に見たことか。
 隕石が太陽光を遮り、影を作る。
 親友の二人にとっては連続した時間であるが、俺は違う。
 この時までのどれだけの修行を重ねただろうか。多くのモンスターを仕留め、団長やエタンらの犠牲に慟哭し、ネザーデーモンや王狼には致命傷といえるダメージを受けたりもした。
 過酷な経験が俺を格段に上のレベルにまで引き上げたのだ。
 当時は震えることしかできなかった隕石に対しても、今なら真正面から対峙し尚、冷静さを保っていられる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私の愛した召喚獣

Azanasi
ファンタジー
アルメニア王国の貴族は召喚獣を従者として使うのがしきたりだった。 15歳になると召喚に必要な召喚球をもらい、召喚獣を召喚するアメリアの召喚した召喚獣はフェンリルだった。 実はそのフェンリルは現代社会で勤務中に死亡した久志と言う人間だった、久志は女神の指令を受けてアメリアの召喚獣へとさせられたのだった。 腐敗した世界を正しき方向に導けるのかはたまた破滅目と導くのか世界のカウントダウンは静かに始まるのだった。 ※途中で方針転換してしまいタイトルと内容がちょっと合わなく成りつつありますがここまで来てタイトルを変えるのも何ですので、?と思われるかも知れませんがご了承下さい。 注)4章以前の文書に誤字&脱字が多数散見している模様です、現在、修正中ですので今暫くご容赦下さい。

もしも、いちどだけ猫になれるなら~神様が何度も転生させてくれるけど、私はあの人の側にいられるだけで幸せなんです。……幸せなんですってば!~

汐の音
ファンタジー
もしも、生まれ変わるときに神さまから一つだけ、なにか特別な力をもらえるなら? 女の子は「なにもいりません」と、答えましたがーー なぜか猫になったり、また転生して猫になったり。(作中でもさらっと割愛) やがて、“ヨルナ”という公爵令嬢に生まれ変わった女の子が、ちゃんと人としての幸せを掴みとるまでのお話。 ◎プロローグは童話風。〈つづく〉以降、転生ほんわかファンタジーで本人も回り(神様含む)も納得のハッピーエンドをめざします。全77話で完結します。 第一章「今生の出会い」 第二章「動き出す歯車」 第三章「運命の人」 エピローグ (タイトルがほぼあらすじです) (小説家になろう、エブリスタでも掲載しています)

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

転生しても侍 〜この父に任せておけ、そう呟いたカシロウは〜

ハマハマ
ファンタジー
 ファンタジー×お侍×父と子の物語。   戦国時代を生きた侍、山尾甲士郎《ヤマオ・カシロウ》は生まれ変わった。  そして転生先において、不思議な力に目覚めた幼い我が子。 「この父に任せておけ」  そう呟いたカシロウは、父の責務を果たすべくその愛刀と、さらに自らにも目覚めた不思議な力とともに二度目の生を斬り開いてゆく。 ※表紙絵はみやこのじょう様に頂きました!

没落貴族の兄は、妹の幸せのため、前世の因果で手に入れたチートな万能薬で貴族社会を成り上がる

もぐすけ
ファンタジー
 俺は薬師如来像が頭に落ちて死ぬという間抜けな死に方をしてしまい、世話になった姉に恩返しすることもできず、異世界へと転生させられた。  だが、異世界に転生させられるとき、薬師如来に殺されたと主張したことが認められ、今世では病や美容に効く万能薬を処方できるチートスキルが使える。 俺は妹として転生して来た前世の姉にこれまでの恩を返すため、貴族社会で成り上がり、妹を幸せにしたい。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

処理中です...