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31.上位悪魔
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「くっ……」
「斬っても斬っても」
エタンと団員の声が耳に届く。
ジリジリとトロールの動きに合わせて移動していた彼女らとパルヴィが背中を合わせるほどにまで接近していた。
俺だけはレッサーデーモンの首に足を回ししがみついている。
もともとパルヴィにはトロールに当たってくれと頼んでいたので、位置取りは悪くない。
プツン。
レッサーデーモンの血管を断ち切る。しかし、ダメージを与えることはできたものの、致命傷には至っていない……はず。
こいつの体内に宿る生命力というか躍動感は失われていないからだ。何度もこの攻撃で敵を仕留めているから分かる。
致命傷となった場合は、体の力という力は糸が切れたように失われるのだ。
コアか。体内を傷付ける場合は、体のどこかで相手に触れ血流を感じ取り、触れた部分から念動力の糸を伸ばす。
心臓を握りつぶさず、血管を切るのにはもちろん理由がある。
念動力の糸では血管を切るのが精一杯だという単純なものなのだけどね。
「多少は……傷が入るか」
やはり、一回で潰すのは無理だった。何度も念動力の糸の刃を叩きつけるしかないな。
ところが――。
僅かに首を捻っただけで振り落とされてしまう。
呑気に転がっている暇はない。
半ば反射的に目に映る先をターゲットに転移する。
ドガアアン。
直後、先ほどまで俺のいた辺りから耳をつんざく音が響き渡る。
レッサーデーモンが右脚をあげて、地面を踏みつけたようだった。
……何というパワーだよ。あれと比べたら団長やトロールでも赤子のようだ。
間一髪だった。
俺の位置はレッサーデーモンの右上方の空間だ。
奴と異なり、飛行できるわけではないので絶賛落下中である。
7メートルくらいの高さがあるので、地面にたたきつけられると骨が折れるかも。
レッサーデーモンの黒い翼が僅かに揺らめく。
奴の動きを見た瞬間に転移し、奴の真正面に出現する。続いて、岩壁の一部が派手に破壊されパラパラと石が落ちてきた。
衝撃波なのか風の刃なのか不明だが、グレムリンの攻撃の比じゃないな。
まだまともに攻撃を繰り出していないってのに、規格外過ぎて呆れてくるぜ。
王狼を1とすればレッサーデーモンは7か8くらいの強さがあるな……これまで出会った中で確実に一番強い。
それでも、奴の膝上辺りに触れ、コアを削る。
どの攻撃でも念動力の糸で逸らすのは無理だな……。
転移で飛び回って何とかするしかねえ。
「ゾエさんー!」
パルヴィ?
あっちはあっちでトロールのタフさに辟易しているのだろうが、こっちはこっちで……。
な、何!
トロールの背中がぼこぼこと盛り上がったかと思うと、雄叫びをあげた。
すると全身が波打ち、みるみる形を変えていく。
ボコリと首元からヤギの頭が生えてきて、トロールの顔が牛のように変化する。
腹から上にびっしりとこげ茶色の獣毛が覆い、背中からは棘のような骨? が幾本も出てきた。
異形の怪物……としか表現しようがない。背丈はトロールより更に高く3.5メートルくらいか。
「パルヴィ! みんな、そこの石の柱の後ろへ逃げろ!」
あれはヤバい。本能的に怖気を覚える。
レッサーデーモンと同格、いや、それ以上かもしれない。
これまでの動きから変化が完了するまで襲い掛かってはこないはず。
その隙にパルヴィらは大きな石筍の後ろへ退避した。
こいつはもう一旦撤退以外道はないだろ。
パルヴィらの元に転移し、彼女らと合流する。
レッサーデーモンの魔法が怖いが、石筍が一撃くらいなら防いでくれるだろ。
「逃げる」
「あたしもそれしかないかなっと」
パルヴィの声にエタンと団員の二人もコクリと頷きを返し、全員の意見が一致した。
『いけぞえさーん』
『こんな時に。無事に逃げてからにしてくれ』
『ヤバいでーす』
『ヤバいのは分かってるって! この場に来て手伝ってくれるならともかく……』
アヒルならついて来ていたけど、団長より更に後方にいるはず。
転移した時から移動していないはずだからな。
すみよんと脳内で会話しつつも、動き出す。
「ゾエさん、あれ……」
「牛とヤギ頭はまだ……え」
追い打ちをかけてこず、警戒を解かないものの胸を撫でおろしていたのだが……。
奴の狙いはやはり俺だけに定められている。
そう、レッサーデーモンだ。
進化の速さに辟易していたが、更に進化しやがったらしい。
今度は女性型か。
エルフのように耳が尖り、彫刻家が理想的な造形を切り出したかのようなプロポーションをしている。
顔もまた作り物のような流麗さであるが、凡そ暖かみを感じさせぬ冷淡さを持つ。氷細工の美女という表現がしっくりくる。
といっても明らかに人でもエルフでもない。
肌の色は薄い青色で背中からはコウモリのような翼が生え、額に二本の角。妖艶な薄紫の長い髪が胸元を隠していた。
全裸でないことは幸いだ。布一枚を巻きつけただけだが、隠れる部分はちゃんと隠れている。
「次から次へと」
「あ、あれは……上位悪魔……?」
「レッサーデーモンから進化したのだから、奴以上の実力があるだろうな……」
「はやく、逃げなきゃ」
蒼白になるパルヴィに俺も完全に同意するよ。
あの妖艶な美女型モンスターもレッサーデーモンと同じく「コア」を持っているんだろうな……。
となれば、即殺は不可能。牛ヤギ頭もいることだし、一体ならともかくこの場でどうこうするのは難しい。
くすりと美女モンスターこと上位悪魔の口元が僅かに上がった気がした。
……ぐ、ぐぐ。
何だこの感覚。悍ましいがあがらい難い。あの豊満な胸に顔を埋めたい衝動が湧き上がり、フラフラと奴に吸い寄せられそうに。
俺にターゲットを定めているから、他の人は平気のようだけど……このままでは。無防備に奴の元へ体が動いてしまう。
「すまん、パルヴィ!」
「え、きゃ」
本当に最低だと思う。こんな緊迫した場面で何をしてんだって話だが、罵詈雑言はこの後甘んじて受けよう。
パルヴィが鎧を着ていなくて幸いだった。ゆさゆさ、ぷるんぷるんと揺れやがってと恨めしく思ったことも何度もある。
突然のことに羞恥よりも驚きが勝った彼女だったが、すぐにかああっと真っ赤に。
俺の右手がしかと彼女の服を掴み、ぐいっと肩の上までたくし上げている。
そこまでするつもりはなかったのだが、どうやら服に擦れて下着までズレてしまって、立派なぷるるんが空気に触れていた。
ダラダラと彼女の顔から冷や汗が流れ落ち、俺は俺で彼女のおかげで悪魔の肢体からより興味を惹くパルヴィの裸で上書きでき元の状態に戻ることができたのだが……。
無言で服を元の位置に戻し、彼女から目を逸らす。
「もう大丈夫だ。団長も連れ、脱出しよう」
「う、うん」
戸惑うパルヴィの手を引く。
そこへエタンが苦言を呈する。
「ゾエ殿……いくら何でも今のは」
「き、きっと、ゾエさんにも何か事情があったんだって」
「そうなのか。パルヴィでないといけない……く、やはり私では何も力になれんか」
「鎧は脱げないだろ!」
パルヴィとエタンの謎の会話へ突っ込んでしまう。
後で平謝りするから、今はそっとしておいて……。
「斬っても斬っても」
エタンと団員の声が耳に届く。
ジリジリとトロールの動きに合わせて移動していた彼女らとパルヴィが背中を合わせるほどにまで接近していた。
俺だけはレッサーデーモンの首に足を回ししがみついている。
もともとパルヴィにはトロールに当たってくれと頼んでいたので、位置取りは悪くない。
プツン。
レッサーデーモンの血管を断ち切る。しかし、ダメージを与えることはできたものの、致命傷には至っていない……はず。
こいつの体内に宿る生命力というか躍動感は失われていないからだ。何度もこの攻撃で敵を仕留めているから分かる。
致命傷となった場合は、体の力という力は糸が切れたように失われるのだ。
コアか。体内を傷付ける場合は、体のどこかで相手に触れ血流を感じ取り、触れた部分から念動力の糸を伸ばす。
心臓を握りつぶさず、血管を切るのにはもちろん理由がある。
念動力の糸では血管を切るのが精一杯だという単純なものなのだけどね。
「多少は……傷が入るか」
やはり、一回で潰すのは無理だった。何度も念動力の糸の刃を叩きつけるしかないな。
ところが――。
僅かに首を捻っただけで振り落とされてしまう。
呑気に転がっている暇はない。
半ば反射的に目に映る先をターゲットに転移する。
ドガアアン。
直後、先ほどまで俺のいた辺りから耳をつんざく音が響き渡る。
レッサーデーモンが右脚をあげて、地面を踏みつけたようだった。
……何というパワーだよ。あれと比べたら団長やトロールでも赤子のようだ。
間一髪だった。
俺の位置はレッサーデーモンの右上方の空間だ。
奴と異なり、飛行できるわけではないので絶賛落下中である。
7メートルくらいの高さがあるので、地面にたたきつけられると骨が折れるかも。
レッサーデーモンの黒い翼が僅かに揺らめく。
奴の動きを見た瞬間に転移し、奴の真正面に出現する。続いて、岩壁の一部が派手に破壊されパラパラと石が落ちてきた。
衝撃波なのか風の刃なのか不明だが、グレムリンの攻撃の比じゃないな。
まだまともに攻撃を繰り出していないってのに、規格外過ぎて呆れてくるぜ。
王狼を1とすればレッサーデーモンは7か8くらいの強さがあるな……これまで出会った中で確実に一番強い。
それでも、奴の膝上辺りに触れ、コアを削る。
どの攻撃でも念動力の糸で逸らすのは無理だな……。
転移で飛び回って何とかするしかねえ。
「ゾエさんー!」
パルヴィ?
あっちはあっちでトロールのタフさに辟易しているのだろうが、こっちはこっちで……。
な、何!
トロールの背中がぼこぼこと盛り上がったかと思うと、雄叫びをあげた。
すると全身が波打ち、みるみる形を変えていく。
ボコリと首元からヤギの頭が生えてきて、トロールの顔が牛のように変化する。
腹から上にびっしりとこげ茶色の獣毛が覆い、背中からは棘のような骨? が幾本も出てきた。
異形の怪物……としか表現しようがない。背丈はトロールより更に高く3.5メートルくらいか。
「パルヴィ! みんな、そこの石の柱の後ろへ逃げろ!」
あれはヤバい。本能的に怖気を覚える。
レッサーデーモンと同格、いや、それ以上かもしれない。
これまでの動きから変化が完了するまで襲い掛かってはこないはず。
その隙にパルヴィらは大きな石筍の後ろへ退避した。
こいつはもう一旦撤退以外道はないだろ。
パルヴィらの元に転移し、彼女らと合流する。
レッサーデーモンの魔法が怖いが、石筍が一撃くらいなら防いでくれるだろ。
「逃げる」
「あたしもそれしかないかなっと」
パルヴィの声にエタンと団員の二人もコクリと頷きを返し、全員の意見が一致した。
『いけぞえさーん』
『こんな時に。無事に逃げてからにしてくれ』
『ヤバいでーす』
『ヤバいのは分かってるって! この場に来て手伝ってくれるならともかく……』
アヒルならついて来ていたけど、団長より更に後方にいるはず。
転移した時から移動していないはずだからな。
すみよんと脳内で会話しつつも、動き出す。
「ゾエさん、あれ……」
「牛とヤギ頭はまだ……え」
追い打ちをかけてこず、警戒を解かないものの胸を撫でおろしていたのだが……。
奴の狙いはやはり俺だけに定められている。
そう、レッサーデーモンだ。
進化の速さに辟易していたが、更に進化しやがったらしい。
今度は女性型か。
エルフのように耳が尖り、彫刻家が理想的な造形を切り出したかのようなプロポーションをしている。
顔もまた作り物のような流麗さであるが、凡そ暖かみを感じさせぬ冷淡さを持つ。氷細工の美女という表現がしっくりくる。
といっても明らかに人でもエルフでもない。
肌の色は薄い青色で背中からはコウモリのような翼が生え、額に二本の角。妖艶な薄紫の長い髪が胸元を隠していた。
全裸でないことは幸いだ。布一枚を巻きつけただけだが、隠れる部分はちゃんと隠れている。
「次から次へと」
「あ、あれは……上位悪魔……?」
「レッサーデーモンから進化したのだから、奴以上の実力があるだろうな……」
「はやく、逃げなきゃ」
蒼白になるパルヴィに俺も完全に同意するよ。
あの妖艶な美女型モンスターもレッサーデーモンと同じく「コア」を持っているんだろうな……。
となれば、即殺は不可能。牛ヤギ頭もいることだし、一体ならともかくこの場でどうこうするのは難しい。
くすりと美女モンスターこと上位悪魔の口元が僅かに上がった気がした。
……ぐ、ぐぐ。
何だこの感覚。悍ましいがあがらい難い。あの豊満な胸に顔を埋めたい衝動が湧き上がり、フラフラと奴に吸い寄せられそうに。
俺にターゲットを定めているから、他の人は平気のようだけど……このままでは。無防備に奴の元へ体が動いてしまう。
「すまん、パルヴィ!」
「え、きゃ」
本当に最低だと思う。こんな緊迫した場面で何をしてんだって話だが、罵詈雑言はこの後甘んじて受けよう。
パルヴィが鎧を着ていなくて幸いだった。ゆさゆさ、ぷるんぷるんと揺れやがってと恨めしく思ったことも何度もある。
突然のことに羞恥よりも驚きが勝った彼女だったが、すぐにかああっと真っ赤に。
俺の右手がしかと彼女の服を掴み、ぐいっと肩の上までたくし上げている。
そこまでするつもりはなかったのだが、どうやら服に擦れて下着までズレてしまって、立派なぷるるんが空気に触れていた。
ダラダラと彼女の顔から冷や汗が流れ落ち、俺は俺で彼女のおかげで悪魔の肢体からより興味を惹くパルヴィの裸で上書きでき元の状態に戻ることができたのだが……。
無言で服を元の位置に戻し、彼女から目を逸らす。
「もう大丈夫だ。団長も連れ、脱出しよう」
「う、うん」
戸惑うパルヴィの手を引く。
そこへエタンが苦言を呈する。
「ゾエ殿……いくら何でも今のは」
「き、きっと、ゾエさんにも何か事情があったんだって」
「そうなのか。パルヴィでないといけない……く、やはり私では何も力になれんか」
「鎧は脱げないだろ!」
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