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24.魔法に挑戦
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「目玉だけ頼んでいいか?」
「あいよ。お、アレやるのか」
「うん。時間がかかっちゃうかもしれないけど、いいかな?」
「いいぜ。汚れないのがいい。んじゃ俺は夜営の準備をする」
「ゾエさん、ありがとうございます。私は食事の準備をいたしますね」
赤い目だけをささっと抜き取ったドニは大きなズタ袋の中にそれを放り込むと、枝を集め始めた。
一方でレティシアもまた、大きなバックパックを開け鍋や調味料を平な岩の上に置いて行く。
よっし、んじゃ。始めますか。
左右の手の平にそれぞれ剥ぎ取りナイフを構え、意識を念動力の糸へ。
浮き上がった剝ぎ取りナイフがバジリスクの鱗へ向かい、ざくりと突き刺さる。
「く、やっぱ難しいな」
繊細な動きとなると念動力の操作は格段に難しくなるんだ。
しかし、手でやるのと同じくらいの精度で扱うことができるようになれば、他人を護ることだってできるようになる……はず。
どうしても自分から離れると反応がワンテンポ遅れるんだよな。的確に攻撃を防御するには一瞬一瞬の動きが求められる。
なので今のところ、自分から離れた場所にある念動力の糸は感知と予め決めておいた方向への受け流ししかできない。
「練習だ、練習だ」と自室で念動力の修行をしても捗らないんだよな。
剥ぎ取りとかゴールがあり、その場の必要性もある作業なら集中力も続き、よい練習になるんだ。自分はどうも切羽詰まらないとやれない性格で我ながら自己嫌悪に陥る。
念動力で行う剥ぎ取りはちゃんとメリットもある。それは、離れて剝ぎ取りをするから手も服も汚れないことだ。
遠出している間は風呂になんて入ることができないからな。
こうしてバジリスクの剥ぎ取りが終わり、襲撃もなかったので夜営と相成った。
「くあ」
結局ついて来たサードに餌を与える。
もっちゃもっちゃと必死で突く姿に逞しいアヒルだな、と適用力の高さに少し引いてしまう。
餌はパルヴィに見繕ってもらった野菜と果物である。アヒルなんて適当なもの食わせておけばいいだろと投げやりだった俺に呆れた彼女が何かと手を焼いてくれていたのだ。
そういや、パルヴィ……元気にやってるかな。昨日も死んだ目をしていたけど。
ジャイアントラットの討伐完了まであと何日くらいかかるんだろ? 俺は全力でお断りしているので、討伐に関わっていない。
「ゾエ、やってみるか?」
「お、すまん。サードの食事が終わってからでもいいか?」
薪を準備してくれたドニに向け右手をあげる。
「ゾエさん、お鍋の準備はできてます。わあ。可愛いですね」
「そうかな……」
目を見開き、必死に嘴で喰らいつくサードに向け、レティシアが顔を綻ばせる。
彼女はパタパタとアヒルの前でしゃがみ込み、指先をくるくる回してアヒルの顔を見つめていた。
可愛いとは思わないよなあ、これ。必死過ぎて怖いわ。
「レティシア、サードを抱えてもらってていいかな?」
「いいんですか!」
最後のほうれん草に似た野菜を咀嚼したサードに向けてレティシアがおいでおいでと両手を広げる。
対するサードはのっしのっしと彼女の元へ進み、腕の中に納まった。
「サード頼むぞ。MPを供給してくれ」
「くあ……」
この日一番のやる気のない鳴き声でサードが了承の意を示す……示したよな?
魔法の中でも基本に当たるものは生活魔法と言われる一群である。
コップ一杯の水を出したり、ライターほどの火をつけたり、ちょっとした光を灯したりと、効果は地味だけど役に立つ。
街にいる時はそれほどでもないのだけど、こうして野宿したりするときにはとても便利だ。
特にいつでも水を出すことができることは驚愕に値する。
彼らにとっては身近な魔法なのかもしれないけど、いつでもどこでも飲み水が出せるなんてすごいことだぞ。人間は水があればしばらく生きていられるし、脱水症状の心配もなくなる。
「プチファイア」
薪に火は……つかないか。
イメージが大事。イメージ、イメージだ。
薪に小さな火がふわっと付く。空気が僅かに揺らぎ、まるで最初からそこにあったかのように自然に在る。
「プチファイア」
ポッと小さな火が枝の端に着いた。
「や、やったぞ。できた」
「ゾエさん。全く魔力が動いてません」
「え、サードからのMPが俺に移ってなかった?」
「魔力の流れはなかったです」
あれ、じゃあ、この火は何だってんだよ。
火がここにあることが俺の魔法が成功した何よりの証じゃないか。
「ひょっとしてこれ、超能力で……?」
「ゾエさんの念動力? でしたか、それと似たようなものではないかと」
「そ、そうかもしれない」
超能力も想像力を働かせ、現実に干渉する。
俺に新しい能力が目覚めた? いや、たぶん……もう一度やってみた方が早い。
同じように集中し、今度は意識を魔法じゃなく内なる自分の力に向けてみる。
「う、うーん。超能力だった」
念動力の糸の応用だな。
針のような狭いところで糸を高速で回転させると、摩擦熱が生まれ火がつく。
ひょっとしたら、分子を加速させて発火したんじゃないかなと思ったけど、都合よく新たな能力が生まれるわけなかった。
「火は付いたんですし、次回また挑戦されては?」
「そうするよ」
ぐううと盛大に鳴る腹をおさえ、たははと苦笑する。
◇◇◇
魔法というものは不可思議だ。超能力も無から有を作り出すように見えるから、似たようなものかもしれない。
魔法は空気中に漂う魔力を体内に取り込んで、呪文や術式と呼ばれるものを使って魔力を別のエネルギーに変換するのだ。
火や水、はたまた治療といった感じに。
超能力は何なんだろうな。誰か研究してくれたらよいのだけど、残念ながら俺以外に使える者に出会ったことが無い。
食事をとって体を動かすエネルギーになるだろ。多分、そこで発生したエネルギーの一部を使っているんじゃないかって思っている。
最近、妙に腹が減ってさ。動いているのもあるけど、超能力が関係してんじゃないかってね。
「ゾエさん!」
レティシアが俺の名を叫ぶ。
迫る一抱えほどもある炎でできた球。火球というやつだ。
「問題ない」
まともに喰らえば大やけどじゃ済まないほどのダメージを受ける。
が、これは「唯の炎」なのだ。
特殊な魔法でできた炎なんてものじゃない。
迫りくる火球を念動力の糸で作った網で絡めとり、方向を逸らす。
火球は右斜め上後方に飛んでいく。
「ひゅー。どうなってんだ。何でもありだな」
「そんなことないさ。強化をかけてもらえるか?」
後ろから声をあげるドニに向け、尋ねる。
「エンチャントウェポン」
ドニの力ある言葉に応じ引き抜いた三本の投げナイフの刀身がぼんやりと光を放ち始めた。
『ギャアーース』
火球で俺たちを攻撃して来た主が咆哮する。
こいつは全長凡そ7メートルほどの六本脚のトカゲといった容貌で、口から火を拭く。
巨体だが脚が横向きに生えていて短いため、重心が低く、奴の頭の高さは俺の胸当たりくらいだろうか。
ヒュンヒュン。
怒り心頭で顔を上にあげる奴の顎に三本のナイフが突き刺さる。
魔法で強化されたナイフは易々と奴の分厚い鱗を突き抜け、頭を貫通した。
ドサリと崩れ落ちるトカゲことファイアリザード。
「正攻法ってやつだよな? 武器でやったぞ」
「俺にしてみれば転移でも投げナイフでも似たようなもんだがな」
ドニが嫌らしい笑みを浮かべ、目を細める。人相の悪さが加速され、笑いそうになってしまう。
「あいよ。お、アレやるのか」
「うん。時間がかかっちゃうかもしれないけど、いいかな?」
「いいぜ。汚れないのがいい。んじゃ俺は夜営の準備をする」
「ゾエさん、ありがとうございます。私は食事の準備をいたしますね」
赤い目だけをささっと抜き取ったドニは大きなズタ袋の中にそれを放り込むと、枝を集め始めた。
一方でレティシアもまた、大きなバックパックを開け鍋や調味料を平な岩の上に置いて行く。
よっし、んじゃ。始めますか。
左右の手の平にそれぞれ剥ぎ取りナイフを構え、意識を念動力の糸へ。
浮き上がった剝ぎ取りナイフがバジリスクの鱗へ向かい、ざくりと突き刺さる。
「く、やっぱ難しいな」
繊細な動きとなると念動力の操作は格段に難しくなるんだ。
しかし、手でやるのと同じくらいの精度で扱うことができるようになれば、他人を護ることだってできるようになる……はず。
どうしても自分から離れると反応がワンテンポ遅れるんだよな。的確に攻撃を防御するには一瞬一瞬の動きが求められる。
なので今のところ、自分から離れた場所にある念動力の糸は感知と予め決めておいた方向への受け流ししかできない。
「練習だ、練習だ」と自室で念動力の修行をしても捗らないんだよな。
剥ぎ取りとかゴールがあり、その場の必要性もある作業なら集中力も続き、よい練習になるんだ。自分はどうも切羽詰まらないとやれない性格で我ながら自己嫌悪に陥る。
念動力で行う剥ぎ取りはちゃんとメリットもある。それは、離れて剝ぎ取りをするから手も服も汚れないことだ。
遠出している間は風呂になんて入ることができないからな。
こうしてバジリスクの剥ぎ取りが終わり、襲撃もなかったので夜営と相成った。
「くあ」
結局ついて来たサードに餌を与える。
もっちゃもっちゃと必死で突く姿に逞しいアヒルだな、と適用力の高さに少し引いてしまう。
餌はパルヴィに見繕ってもらった野菜と果物である。アヒルなんて適当なもの食わせておけばいいだろと投げやりだった俺に呆れた彼女が何かと手を焼いてくれていたのだ。
そういや、パルヴィ……元気にやってるかな。昨日も死んだ目をしていたけど。
ジャイアントラットの討伐完了まであと何日くらいかかるんだろ? 俺は全力でお断りしているので、討伐に関わっていない。
「ゾエ、やってみるか?」
「お、すまん。サードの食事が終わってからでもいいか?」
薪を準備してくれたドニに向け右手をあげる。
「ゾエさん、お鍋の準備はできてます。わあ。可愛いですね」
「そうかな……」
目を見開き、必死に嘴で喰らいつくサードに向け、レティシアが顔を綻ばせる。
彼女はパタパタとアヒルの前でしゃがみ込み、指先をくるくる回してアヒルの顔を見つめていた。
可愛いとは思わないよなあ、これ。必死過ぎて怖いわ。
「レティシア、サードを抱えてもらってていいかな?」
「いいんですか!」
最後のほうれん草に似た野菜を咀嚼したサードに向けてレティシアがおいでおいでと両手を広げる。
対するサードはのっしのっしと彼女の元へ進み、腕の中に納まった。
「サード頼むぞ。MPを供給してくれ」
「くあ……」
この日一番のやる気のない鳴き声でサードが了承の意を示す……示したよな?
魔法の中でも基本に当たるものは生活魔法と言われる一群である。
コップ一杯の水を出したり、ライターほどの火をつけたり、ちょっとした光を灯したりと、効果は地味だけど役に立つ。
街にいる時はそれほどでもないのだけど、こうして野宿したりするときにはとても便利だ。
特にいつでも水を出すことができることは驚愕に値する。
彼らにとっては身近な魔法なのかもしれないけど、いつでもどこでも飲み水が出せるなんてすごいことだぞ。人間は水があればしばらく生きていられるし、脱水症状の心配もなくなる。
「プチファイア」
薪に火は……つかないか。
イメージが大事。イメージ、イメージだ。
薪に小さな火がふわっと付く。空気が僅かに揺らぎ、まるで最初からそこにあったかのように自然に在る。
「プチファイア」
ポッと小さな火が枝の端に着いた。
「や、やったぞ。できた」
「ゾエさん。全く魔力が動いてません」
「え、サードからのMPが俺に移ってなかった?」
「魔力の流れはなかったです」
あれ、じゃあ、この火は何だってんだよ。
火がここにあることが俺の魔法が成功した何よりの証じゃないか。
「ひょっとしてこれ、超能力で……?」
「ゾエさんの念動力? でしたか、それと似たようなものではないかと」
「そ、そうかもしれない」
超能力も想像力を働かせ、現実に干渉する。
俺に新しい能力が目覚めた? いや、たぶん……もう一度やってみた方が早い。
同じように集中し、今度は意識を魔法じゃなく内なる自分の力に向けてみる。
「う、うーん。超能力だった」
念動力の糸の応用だな。
針のような狭いところで糸を高速で回転させると、摩擦熱が生まれ火がつく。
ひょっとしたら、分子を加速させて発火したんじゃないかなと思ったけど、都合よく新たな能力が生まれるわけなかった。
「火は付いたんですし、次回また挑戦されては?」
「そうするよ」
ぐううと盛大に鳴る腹をおさえ、たははと苦笑する。
◇◇◇
魔法というものは不可思議だ。超能力も無から有を作り出すように見えるから、似たようなものかもしれない。
魔法は空気中に漂う魔力を体内に取り込んで、呪文や術式と呼ばれるものを使って魔力を別のエネルギーに変換するのだ。
火や水、はたまた治療といった感じに。
超能力は何なんだろうな。誰か研究してくれたらよいのだけど、残念ながら俺以外に使える者に出会ったことが無い。
食事をとって体を動かすエネルギーになるだろ。多分、そこで発生したエネルギーの一部を使っているんじゃないかって思っている。
最近、妙に腹が減ってさ。動いているのもあるけど、超能力が関係してんじゃないかってね。
「ゾエさん!」
レティシアが俺の名を叫ぶ。
迫る一抱えほどもある炎でできた球。火球というやつだ。
「問題ない」
まともに喰らえば大やけどじゃ済まないほどのダメージを受ける。
が、これは「唯の炎」なのだ。
特殊な魔法でできた炎なんてものじゃない。
迫りくる火球を念動力の糸で作った網で絡めとり、方向を逸らす。
火球は右斜め上後方に飛んでいく。
「ひゅー。どうなってんだ。何でもありだな」
「そんなことないさ。強化をかけてもらえるか?」
後ろから声をあげるドニに向け、尋ねる。
「エンチャントウェポン」
ドニの力ある言葉に応じ引き抜いた三本の投げナイフの刀身がぼんやりと光を放ち始めた。
『ギャアーース』
火球で俺たちを攻撃して来た主が咆哮する。
こいつは全長凡そ7メートルほどの六本脚のトカゲといった容貌で、口から火を拭く。
巨体だが脚が横向きに生えていて短いため、重心が低く、奴の頭の高さは俺の胸当たりくらいだろうか。
ヒュンヒュン。
怒り心頭で顔を上にあげる奴の顎に三本のナイフが突き刺さる。
魔法で強化されたナイフは易々と奴の分厚い鱗を突き抜け、頭を貫通した。
ドサリと崩れ落ちるトカゲことファイアリザード。
「正攻法ってやつだよな? 武器でやったぞ」
「俺にしてみれば転移でも投げナイフでも似たようなもんだがな」
ドニが嫌らしい笑みを浮かべ、目を細める。人相の悪さが加速され、笑いそうになってしまう。
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