上 下
46 / 52

46.すうぇー

しおりを挟む
 ――コアラハウス。
 もしゃ……うむむ。むむ。
『アイテムが失われました』
 だあああ。なかなかうまく行かねえな。
 
 モンスターのドロップアイテムと街で購入した小麦粉やらガラス瓶やらを錬金術の実験台にしているが、なかなかうまくいかないなあ。
 煙玉とかちょっとした逃走用アイテムでもできりゃあいいんだが……。
 あ、煙玉は意味がない。俺のステルスより効果が低いじゃないか。高レベルモンスターはこっちが見えなくても気配で察知してくるから無駄なのだ。

 我が家ができてから、寝るまでの間、安全に過ごせるようになったからいろいろと試しているんだよ。
 物を広げても樹上じゃないから落ちることもないし。
 
「何をされているんですか?」
「まずは服を着るんだ。話はそれからな」
「そうでした」

 俺のやっていることに興味を引かれたのか、コレットが手元を覗き込んでくる。
 全裸で。彼女はお湯で体を拭いている最中だった。
 もう彼女のお清めタイムは終わったようで、濡れたタオルが壁際に干されていたる様子。
 人間は毛皮がないんだから、ちゃんと服を着ないと風邪をひいてしまうんだからな。
 全く……注意してくれないと。風邪薬とか回復魔法なんてものは準備していないんだよな。
 包帯スキルとか少しは鍛えているけど、幸いにも未だ誰も大怪我をしたことがない。
 怪我や病気の時の対応策もちゃんと考えておかないとなあ。
 
 ん?
 そういや。
 
「コレット」
「はい」
「コレットって回復術師じゃなかったっけ?」
「そ、そうです。一応……弓しか使っていないですけど」
「回復魔法って全く増やしていないよな」

 この前ワーンベイダーらに会った時も、家具や服を買うだけで呪文のスクロールは何一つ買わなかった。
 確か、コレットって一つだけスペルブックに呪文を登録しているとか言っていたような……。
 じとーっと見上げたら、彼女の額からたらりと冷や汗が流れ落ちた。
 
「つ、使う機会もありませんでしたし……わたしの持つ呪文はリフレッシュだけですし……」
「どんな魔法なんだ?」
「気分が晴れ晴れとした……ような、そうでないような」
「もういっそ、レンジャーかアーチャーにでもなった方がいいんじゃないか?」

 弓と軽業師に、野外活動系のスキルとか罠やらがあればレンジャーとしてやっていけるだろうし。
 アーチャーなら既に弓はお得意分野になっているからさ。
 
「か、考えておきます。あはは」
「お友達がきっかけで回復術師になったんだよな。お友達には会いに行かなくていいのか?」
「街は近くですし、彼女に会おうとしたらなかなか大変なんです……コアラさんを連れて行けないような気がするので」
「友達に会うくらい行ってきてと言いたいところだけど、できればアンデッドのことを調べ終わった後なら助かる」
「もちろんそのつもりです。アンデッドをこのまま放置しておけません。わたしで力になれるのでしたら、何とかしたいです」

 うんうん。そうだよな。
 コレットは良く分かっている。ユーカリが手に入らなくなったら大変だもの。
 
「ありがとな。我慢してくれて」
「いえ、一人前になるまでソニアには会わないと決めていましたし。アンデッドの事件で力になれればわたしも自分を一人前と思うことができます。ですので」
「分かった。一緒に解決まで導こうぜ」
「はい!」
「俺は作業に戻る。コレットは服をちゃんと着たまえ」

 ゴソゴソと衣擦れの音を聞きながら、再び床に散らばったアイテムへ目を落とす。
 錬金術は特定のアイテムを合成すると、決まったアイテムができる仕組みというところまでは分かっている。
 例えば、薬草と水を合成するとポーションができるといった感じだ。
 でたらめに試しているけど、メモを取ったりなんてしていないからどれがどれやら全く分からん。
 熟練度だけは上がっていくのだが、実用に耐えなかったら鍛えてもなあ。
 
 んー。錬金術とか素敵な響きだから自宅が出来てから結構積極的に熟練度をあげていたけど、包帯とか他のスキル上げに変えてもいいか。
『アイテムが失われました』
 ぬがあああ。また失敗したしさ!
 バンザイのポーズでやってられるかああっと何かの牙をポイっと床に投げ捨てた。
 
「可愛らしく伸びをしてどうされたんです? コアラさんがユーカリ以外のアイテムに注目するなんて」
 
 いや、嘆いていたんだけどな。
 まあそれはともかく、覗き込むようにしてさりげなく頭に触れようとしているのは分かっている。
 ひょいと頭をスウェーさせると、あからさまにコレットが動揺しびくうっと肩が震えた。
 
「適当にアイテムを合成しているんだけど、どうにもこうにもよくわからん」
「錬金術でしたっけ? えっと、ベノムウルフの目玉とコアクリスタルを合わせると魔石ができます」
「え?」
「あれ? 何か変なことを言いましたか?」
「いや、何と何を合成したら何になるとか分かるの?」
「はい。コーデックスが教えてくれる範囲でしたら」

 こてんと小首をかしげるコレットだったが、こいつはとんでもねえぞ。
 回復術師なんかより、錬金術師こそ彼女の天職じゃないだろうか。
 錬金術師なら戦闘ができないかもしれない? そんなことはないさ。
 今だって回復術師としては何ら動いていないもの。
 職業が何であれ、弓と軽業師スキルがあれば戦闘に支障はない。
 
「コレット。いろいろアイテムを出すから合成のやり方を教えてもらえるか」
「もちろんです!」

 コレットがその場でペタンと座り、俺を膝の上に乗せる。
 
「何か使えるアイテムができるかもしれない。寝るまで試してみたい」
「はい!」
「俺の熟練度でうまく合成できりゃあいいけど」
「失敗しても、コアラさんならアイテムなんて惜しくない、ですよね?」
「おう。ユーカリ以外は全て要らない」
『パンダは笹が食べたいようです』

 パンダが笹も必要だとアピールしてきやがった。
 ゴロゴロしているだけのくせに、目ざとい奴め。
 
 ◇◇◇
 
 ふああ。眠い。
 結局あの後、遅くまで錬金術を試していたんだよ。
 空が白くなってきて……すっかり日が登る頃まで熱中していた。
 
 寝てしまったら、深夜まで余裕で起きない自信がある。
 だから、そのまま起きておくことにしたのだ。素晴らしい発想の転換。
 もちろん、日中起きておくってことには意味がある。
 
「戻ったらすぐに寝よう」
「はいい」

 パンダは自宅に置いておくことにした。
 完全に眠っていて動こうとしないんだもの。
 
 目的地はワーンベイダーとトリアノンがいるあの兵舎だ。
 彼らは日中に活動しているから、夜中に行っても会うことができない。
 俺の入手した情報を伝えておけば、彼らも彼らで動いてくれるだろうと思ってさ。
 というのは、アンデッド化をしている者が森の中にいるとは限らないし、一体だけじゃないかもしれない。
 となれば、人数がいるワーンベイダー達にも動いてもらった方が良い。
 
 ついでに物資も補充しておくか……。
 眠気眼を擦りながら、樹上を移動する俺とコレットであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

蜜柑
ファンタジー
*第13回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。ありがとうございました。* レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。 ――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの? 追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※序盤1話が短めです(1000字弱) ※複数視点多めです。 ※小説家になろうにも掲載しています。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

聖獣がなつくのは私だけですよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
3姉妹の3女であるエリッサは、生まれた時から不吉な存在だというレッテルを張られ、家族はもちろん周囲の人々からも冷たい扱いを受けていた。そんなある日の事、エリッサが消えることが自分たちの幸せにつながると信じてやまない彼女の家族は、エリッサに強引に家出を強いる形で、自分たちの手を汚すことなく彼女を追い出すことに成功する。…行く当てのないエリッサは死さえ覚悟し、誰も立ち入らない荒れ果てた大地に足を踏み入れる。死神に出会うことを覚悟していたエリッサだったものの、そんな彼女の前に現れたのは、絶大な力をその身に宿す聖獣だった…!

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ連載中、2024/08/23よりコミックシーモアにて先行販売開始】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

処理中です...