上 下
18 / 30

18.任せろごぶ

しおりを挟む
 今日食べる分の獲物は蛇と飛竜の二体で十分足りる。ゴブリンたちがもう少しで到着しそうだったから、この場で待つことにした。
 単に待っていても手持ち無沙汰だったので、ラウラとお肉が見える範囲で探索を行う。
 何か育てることができるような植物があればいいんだけど……自生している植物だと発見したとしても育成は困難かなあ。
 穀物の種は長い年月をかけて少しずつ農業に適するように改良が加えられてきた。
 果物だって同じこと。
 最初は自生したのだろうけど、育てやすいよう、より果実をつけるよう、おいしくなるように選別されてきたわけだ。
 それを一からやるとなると、数年かかってもたいした成果があがらないかもしれない。
 
「んー。そうすぐには見つからないか」
「そうでもないよ。見て」

 ラウラが草をかき分け、指先でちょんと苔むした枯れ木をつつく。
 お、キノコか。シメジでもなくシイタケでもないな。何だろうこれ。
 色はシイタケに似ている。
 
「食用なのかな?」
「うん。煮込むとよい出汁がでるんだよ。この辺りに転がっている太い枝を持って帰ると生えてくるかも」
「おお。試してみよう」

 いそいそと二人揃って枯れ木を集めていたら、俺もキノコが生えた枝を見つけた。
 このキノコは草に隠れたところを好むみたいだな。
 てことは、影になるようにして枝を安置したほうがよさそうだ。ラウラに聞きながら、試してみよう。
 
『大魔王ー』
『大魔王さまー。どこごぶー?』
『ごぶー、ごぶー』

 お、ゴブリンたちが森に入ったようだな。
 しっかし、あれだけ騒いでいたら変なモンスターを呼び寄せないか心配だ。
 いや……ガラスばりいいいんをした俺が言うことじゃあないな……。い、よい手だと思ったんだって。
 もうやらないから、ガラスの件は忘れることにするのだ。うんうん。
 
「こっちだー!」

 呼びかけると、声に気が付いたゴブリンたちがわらわらとこちらにやって来る。
 しかし、彼らは倒れた飛竜と大蛇を見た途端、ぎゃーぎゃーと騒ぎ始めてしまう。

『大魔王が狩ったのかごぶ?』
「一応な……」
『やっぱり大魔王は魔族の中の魔族ごぶ……ま、まあ。ごぶたちでも討伐できるが、ごぶ』

 思いっきり目が泳いでいる分かりやすいゴ・ザーに対し、必至で笑いを堪える。

「そ、そうだな……だけど、ゴ・ザーたちにはもっと大事な仕事を任せたい」
『ごぶ?』
「獲物を魔王ビルまで運んで欲しんだ。トロッコをいくつか出すから、持っていってもらえるか?」
『任せろごぶ。大魔王は?』
「俺はもう少し探索してから帰るよ。肉だけじゃなく野菜や果物も欲しいからさ」
『是非頼むごぶ! 肉は任せろごぶ!』

 食糧が関わると本当に素直になるゴ・ザーとゴブリンたちなのであった。
 
 大きさ一メートル四方ほどの木製トロッコを出したものの、そのままじゃあ大蛇も飛竜も積み込めない。
 その場でざくっと解体して、後はゴブリンたちに任せることにした。
 その間、ゴブリンたちは車輪がついているトロッコを押して「すごいごぶー」とか言っている……。
 いや、それにしても詰め込み過ぎだろ。中に四体のゴブリンがおしくらまんじゅうして乗り込み、むぎゅうっとなっていた……。
 
「後は頼むぞー」
『ごぶー』

 アスファルトの道沿いに行けば、慣れていないゴブリンたちでも楽に運べるだろう。
 途中で遊ばないことを祈る。到着するまでは「肉の為」ということでたぶん大丈夫だろ。
 その後は……トロッコが壊れるかもしれないな……。
 創造スキルじゃなくて、丹精込めて作ったものだったら絶対に俺がみていないところでトロッコを彼らに託すなんて真似はしない。は、はは。
 トロッコ四台をうんしょうんしょと押す彼らを見送り、俺たちは再び森の探索へ。

 ◇◇◇
 
 ビワに似た木、野草、野イチゴ、ゴボウに似た根……この辺りを収穫したけど、やはり農業として使えるかとなると難しいだろうなあ。
 そろそろ撤収するかという時に、俺はあることに思い至る。
 
「ルルー、ラウラ。知っていたらでいいんだけど、この辺りは俺の記憶によると魔境と呼ばれる魔素溢れる地域になっていた」
『もきゃ?』
「魔境はどんどん拡大を続けているとか街で言っていてな。でも、今ここは元の大自然に戻っている。つまり……魔境が縮小しているってことだよな」
『もっきゃもっきゃ』

 まともな返事をしないルルーからビワに似た果実を取り上げる。
 すると、むきーっとまん丸の目を俺に向け、ピンク色の鼻をこれでもかと鳴らす。
 お、種もビワに似た感じなんだな。
 ルルーが齧ったところから、茶色の種が見えていた。
 
「私は、魔境? のことは分からないわ。恐ろしい場所があるから近寄るなと言われていたくらい」
「ふうむ」
『返すもきゃー』

 うるさいのでビワをぽいっと放り投げると、パシッとルルーが上手にキャッチしそのままかじかじし始める。
 ラウラの村では、魔境の情報があまり伝わっていなかったのかな。
 
「一つ、思いついたことがあるんだ。聞いてもらえるか」
「うん」
『よろしい。言ってみろもきゃ』

 くっちゃくっちゃをやめず果汁で口を汚すルルーには聞いてないんだが……。
 もきゃーは放置して、ラウラと目を合わせ言葉を続ける。

「ポイントは魔境が『縮小』したってことなんだ。俺はどこかに吹き飛ばされたわけじゃなく、確かに魔境の入り口でうずくまった」
「うん」
「ところが、今ここは大自然が広がっていて魔境ではなくなっている。となれば、繰り返しになるけど、魔境が縮小したと考えたってわけだ」
「あ、あんまり見たくはないかもだけど……」

 ラウラは魔境ってのがどういうところか想像がついた様子だ。
 眉をしかめ、獣耳をペタンとさせて上目遣いで俺をみやる。
 
「うん。魔境で人は生きていくことはできないと言われている。つまり……勧められた行為ではないけど、使わなくなったものを拝借しようってわけだ」
「魔境に取り込まれていた村を探そうというわけよね」
「その通り。あるかどうかは分からないけど、探す価値はあると思う。遠くからでも村ならば見つけやすいから」
「大賢者様の柱の魔法を使いながら場所を変えていけば」

 魔境が縮小した範囲に村があればってのは完全なる希望的観測だ。
 そもそも、辺境も辺境だからな。
 俺が住んでいた街とこの場所の間には、ゴブリンらが勢力争いする地域がある。
 外部と取引しようにも、ゴブリンらのことがあるから護衛をつけて行商しなきゃらないので、通商にコストがとってもかかるだろう。
 これだけの実り多き大自然だから、ほぼ地産地消だけで成り立っていたことに期待……だな。
 
「獲物を狩るのが最優先。次に探索をしつつ、村があればいいなって方針で行きたい」
『低級魔族にしてはちゃんと考えておるもきゃ。感心感心』
「ルルーはお口を綺麗にしてからにしような」
「にゃーん」

 ラウラにピンク色の口元を手ぬぐいで塞がれたルルーに変わり、スレイプニルが気の抜ける返事をするのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

いや、自由に生きろって言われても。

SHO
ファンタジー
☆★☆この作品はアルファポリス様より書籍化されます☆★☆ 書籍化にあたってのタイトル、著者名の変更はありません。 異世界召喚に巻き込まれた青年と召喚された張本人の少女。彼等の通った後に残るのは悪人の骸…だけではないかも知れない。巻き込まれた異世界召喚先では自由に生きるつもりだった主人公。だが捨て犬捨て猫を無視出来ない優しさが災い?してホントは関わりたくない厄介事に自ら巻き込まれに行く。敵には一切容赦せず、売られたケンカは全部買う。大事な仲間は必ず守る。無自覚鈍感最強ヤローの冒険譚を見よ! ◎本作のスピンオフ的作品『職業:冒険者。能力:サイキック。前世:日本人。』を並行連載中です。気になった方はこちらも是非!*2017.2.26完結済です。 拙作をお読み頂いた方、お気に入り登録して頂いた皆様、有難う御座います! 2017/3/26本編完結致しました。 2017/6/13より新展開!不定期更新にて連載再開! 2017/12/8第三部完結しました。

【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」  これが婚約者にもらった最後の言葉でした。  ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。  国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。  やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。  この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。  ※ハッピーエンド確定  ※多少、残酷なシーンがあります 2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2021/07/07 アルファポリス、HOT3位 2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位 2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位 【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676) 【完結】2021/10/10 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ

神のしごきに耐え抜いて武神へと到りました

江守 桜
ファンタジー
主人公:剣崎 白 (けんざき はく)は気付いたら白い空間にいた。 そこには[神導神リーデスト]と名乗る神様がいた。「お主はもとの世界で、死んでしまった。しかし、お主は異世界で第2の人生を送るか記憶を引き継がぬまま転生することができる。異世界に行くのならお主に力を授けよう」「じゃあ、異世界にいくから俺に稽古をつけてくれ」「!!?」 出来る限り投稿していきたいです! 誤字脱字があれば教えてほしいです! 更新できるときは18時30分に更新します。 R15は念のため

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

処理中です...