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4.ハラヘッタ
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時刻はまだ昼下がりである。寝床はもちろん超高層ビルの中と決めているのだけど、まだ引きこもるには早い。
そんなわけで、白猫のスレイプニルに先導してもらいビルの周囲をぐるりと回ることにしたのだ。
彼? は鼻が利くとルルーが言っていたので、肉を探す手間が省けるなあと内心ほくそ笑んでいた。
しっかし、333メートルの直線となると豪快に木々が吹き飛んでいるなあ。超高層ビルの巨大さからしたら微々たるものに思えるかもしれないけど、玄関まわりはやっぱり綺麗に保ちたいよな。
といっても、一人で片付けるのは困難を極める。木々を一か所にまとめて乾燥させておけば、木材にはなるんだけど……ね。
木材は創造スキルで精製できないから、あるにこしたことは……いや、待てよ。木彫りの彫刻を出せたじゃないか。
てことは、生きている木はダメだけど、素材としての「木材」は大丈夫ってことだよな。うーん。基準が分からん。
でも、ま。時間はたんまりあるし、おいおい調べて行くとしようか。
倒れた木をまたぎながら、進んでいるのだけど先行するスレイプニルが一向に反応しない。
「肉センサーは……」
『いないだけもきゃ』
「あっさり気絶したイノシシが見つかったってのに」
スレイプニルの首根っこに掴まるルルーは素っ気なかった。
ん、待てよ……。
イノシシは倒れてはいたけど、気を失っているだけだった。
もしかして。
「スレイプニル。匂いの後ってさぐれる?」
「にゃーん」
すんすんと黒い鼻を鳴らし、ひょこひょこ倒れた木の枝の下へ潜り込むスレイプニル。
上に乗っていたルルーは枝に当たり、落ちた。
もきゃーとかお怒りだったけど、放置する。
こ、こいつ。スレイプニルの尻尾を掴もうとしやがった。
むんずと後ろからルルーをつまみ上げ、自分の肩に乗せる。
まんまるの大きな目をぱっちり開いたルルーは、不満気に両手を大きく広げた。
「ちょっと調べたいことがあってな。スレイプニルの鼻を信じていいんだよな。犬ではなく猫だけど」
『邪神第一の僕「スレイプニル」に間違いはないもきゃ!』
「おっけおっけ。さすがスレイプニル」
『分かればいいもきゃ』
単純なフクロモモンガだな。さっきまで不満たらたらだったのにもう上機嫌にピンク色の鼻を膨らませて尻尾をふんふん揺らしている。
でも、彼の態度を見て彼はスレイプニルを僕と言いつつも大事にしているのだなと分かって微笑ましい気持ちになった。
彼に聞いたら「ダメだ」って言いそうだから、彼の隙を見て白猫の顎をごろごろさせてもらうとしよう。ふふ。俺だって白猫を可愛がりたいのだ。
枝の下に潜ったスレイプニルは葉っぱの隙間から顔だけを出し、顔だけこちらに向け愛らしく鳴く。
もうちょっと進むってことかな?
彼の傍まで寄り、足先に彼の鼻が当たりそうなほどになると、彼は再び葉っぱの下に顔を隠す。
葉っぱがカサカサと動き、ようやく止まった。そこで彼が体まで外に出し「にゃーん」と俺たちを呼ぶ。
「ここにいたのかな」
『そうもきゃ。そして、あっちに行ったみたいもきゃ』
ルルーがビルと反対方向を指さす。
ふむ。スレイプニルが前脚で同じ方向を指しているな。
「分かった。ありがとう」
「にゃーん」
スレイプニルは何となく俺の言葉が分かっているのかな。
さっきもそうだったけど、俺が喋り終わってから「うん」とでも言わんばかりに鳴く。
おっと、次の匂いを嗅ぎつけたのかな。
今度もまた同じ。倒れていただろう地点からビルと反対側に移動している。
三度目も同じ状況だったため、匂いのあった場所を探るのを打ち切った。
この後は最初の目的通り、獲物を探すだけにしたのだけど結局アナウサギを1羽見つけただけで終わる。
ビルを一周回るだけでも1.2キロの距離があるってのに、たったこれだけとは……。
発見したウサギは飛ばされた時のショックで息をしていなかった。
他は飛ばされはしたものの、地面に強く叩きつけられて首の骨を折ったりすることもなく脱出したようだ。
イノシシをおいしく食べている間に……こんな事態になっていたとは……。
楽をせず、ちゃんと獲物を狩れってお告げなのかもしれない。
ビルの周囲は木がまばらに生えていて、木の下周辺以外の雑草も背が低く見通しがとてもいい。
この辺りは、傾斜もほとんどなく平地にある草原という表現が一番しっくりくる。
さてと。バーベキューセットのところまで戻ってきたぞ。
キャンプ用のテーブルセットも出しっぱなしになっていた。肉はビルの中に入れておいたんだけどね。いない間にかっさらわれたら困るからさ。
「んー。視界良好だったら動物の数も少ないか。隠れる場所がないからな」
『あっちに行くもきゃ?』
背もたれのない折りたたみ椅子に腰かけ、東の方角へ目を移す。
東には小高い山がそそり立っていて、木々も深く森になっているように見える。
「北側も悪くないかもな」
北もまた木々の密度が次第に濃くなっていた。
西はずーっと進むと住んでいた街に至る。こっちは平原がそのまま広がっていた。
南は荒地で視界良好なので、動物が少なそうだ。
高いところから見下ろせばもっと詳細に分かるのになあ。
ビルを登るか……いや、もっと視界がよくなればいいだけだろ。視界がよくなるといえば……。
あ。そうだ。
ポンと膝を打ち立ち上がる。
一気に想像できないなら、パーツ事に作って実物を見ながら組み合わせればいいんじゃないか。
一つ一つならより詳細に思い描くことができる!
こんな単純なことにすぐ気が付かないなんて……。
「出でよ」
『ガラスもきゃ? でも変な形。眼鏡のレンズみたいもきゃ』
「うん。中央がへこんだレンズだ。そして、もう一つ」
手の平くらいの円形凹レンズをテーブルの上に置き、続いて、もう一つ創造する。
今度は、凹レンズより二回りほど小さい中央が膨らんだ凸レンズを出現させた。
そして。
『筒?』
「うん。サイズが合えばいいんだけど。お、ぴったり」
30センチほどの真っ黒い筒を出した俺は、それぞれのレンズを筒にはめ込む。
お、一発でちゃんとはまった。すげえ俺。
さっそく、凸レンズから筒を覗き込んでみる。
ぐにゃーと景色が歪んでいた。
う、うーん。ピントが合っていないな。
次は実物を見ながら筒の長さを調整し、今度は最初からレンズの入った筒を創造する。
思った通り、実物があれば容易に創り出すことができるな!
何本も筒を出しては消し、出しては消し……。
「よっし、これだ!」
筒を覗き込み、喜色をあげる。
試しに遠くを見てみたら、見える見える! 裸眼とは大違いだ。
『それは何もきゃ?』
肩の上まで登ってきたルルーが筒に爪を立てる。
「これは望遠鏡だよ。遠くのものがよく見えるようになるんだ」
そう、俺が作っていたのは望遠鏡だった。
双眼鏡の方がよかったんだけど、構造が全く分からん。凹凸レンズを使う方式以外の望遠鏡も同じだ。
凹凸レンズ式は倍率が悪いと言うけど、全然違う! こいつがあれば、探索も捗ること間違いなし。
ガリガリと俺の指をひっかき、「オレサマにも見せろ」とアピールしてくるルルーの大きな目元に望遠鏡を寄せる。
『もきゃあああああ! ビックリしたもきゃ! 遠くが近くに』
「あはは」
驚いて両腕を開き、俺の肩から滑空したルルーは見事スレイプニルの背中に乗ったのだった。
望遠鏡を手に入れた。ならば、次にやることは一つだ。うまくいけばいいんだけど……。
そんなわけで、白猫のスレイプニルに先導してもらいビルの周囲をぐるりと回ることにしたのだ。
彼? は鼻が利くとルルーが言っていたので、肉を探す手間が省けるなあと内心ほくそ笑んでいた。
しっかし、333メートルの直線となると豪快に木々が吹き飛んでいるなあ。超高層ビルの巨大さからしたら微々たるものに思えるかもしれないけど、玄関まわりはやっぱり綺麗に保ちたいよな。
といっても、一人で片付けるのは困難を極める。木々を一か所にまとめて乾燥させておけば、木材にはなるんだけど……ね。
木材は創造スキルで精製できないから、あるにこしたことは……いや、待てよ。木彫りの彫刻を出せたじゃないか。
てことは、生きている木はダメだけど、素材としての「木材」は大丈夫ってことだよな。うーん。基準が分からん。
でも、ま。時間はたんまりあるし、おいおい調べて行くとしようか。
倒れた木をまたぎながら、進んでいるのだけど先行するスレイプニルが一向に反応しない。
「肉センサーは……」
『いないだけもきゃ』
「あっさり気絶したイノシシが見つかったってのに」
スレイプニルの首根っこに掴まるルルーは素っ気なかった。
ん、待てよ……。
イノシシは倒れてはいたけど、気を失っているだけだった。
もしかして。
「スレイプニル。匂いの後ってさぐれる?」
「にゃーん」
すんすんと黒い鼻を鳴らし、ひょこひょこ倒れた木の枝の下へ潜り込むスレイプニル。
上に乗っていたルルーは枝に当たり、落ちた。
もきゃーとかお怒りだったけど、放置する。
こ、こいつ。スレイプニルの尻尾を掴もうとしやがった。
むんずと後ろからルルーをつまみ上げ、自分の肩に乗せる。
まんまるの大きな目をぱっちり開いたルルーは、不満気に両手を大きく広げた。
「ちょっと調べたいことがあってな。スレイプニルの鼻を信じていいんだよな。犬ではなく猫だけど」
『邪神第一の僕「スレイプニル」に間違いはないもきゃ!』
「おっけおっけ。さすがスレイプニル」
『分かればいいもきゃ』
単純なフクロモモンガだな。さっきまで不満たらたらだったのにもう上機嫌にピンク色の鼻を膨らませて尻尾をふんふん揺らしている。
でも、彼の態度を見て彼はスレイプニルを僕と言いつつも大事にしているのだなと分かって微笑ましい気持ちになった。
彼に聞いたら「ダメだ」って言いそうだから、彼の隙を見て白猫の顎をごろごろさせてもらうとしよう。ふふ。俺だって白猫を可愛がりたいのだ。
枝の下に潜ったスレイプニルは葉っぱの隙間から顔だけを出し、顔だけこちらに向け愛らしく鳴く。
もうちょっと進むってことかな?
彼の傍まで寄り、足先に彼の鼻が当たりそうなほどになると、彼は再び葉っぱの下に顔を隠す。
葉っぱがカサカサと動き、ようやく止まった。そこで彼が体まで外に出し「にゃーん」と俺たちを呼ぶ。
「ここにいたのかな」
『そうもきゃ。そして、あっちに行ったみたいもきゃ』
ルルーがビルと反対方向を指さす。
ふむ。スレイプニルが前脚で同じ方向を指しているな。
「分かった。ありがとう」
「にゃーん」
スレイプニルは何となく俺の言葉が分かっているのかな。
さっきもそうだったけど、俺が喋り終わってから「うん」とでも言わんばかりに鳴く。
おっと、次の匂いを嗅ぎつけたのかな。
今度もまた同じ。倒れていただろう地点からビルと反対側に移動している。
三度目も同じ状況だったため、匂いのあった場所を探るのを打ち切った。
この後は最初の目的通り、獲物を探すだけにしたのだけど結局アナウサギを1羽見つけただけで終わる。
ビルを一周回るだけでも1.2キロの距離があるってのに、たったこれだけとは……。
発見したウサギは飛ばされた時のショックで息をしていなかった。
他は飛ばされはしたものの、地面に強く叩きつけられて首の骨を折ったりすることもなく脱出したようだ。
イノシシをおいしく食べている間に……こんな事態になっていたとは……。
楽をせず、ちゃんと獲物を狩れってお告げなのかもしれない。
ビルの周囲は木がまばらに生えていて、木の下周辺以外の雑草も背が低く見通しがとてもいい。
この辺りは、傾斜もほとんどなく平地にある草原という表現が一番しっくりくる。
さてと。バーベキューセットのところまで戻ってきたぞ。
キャンプ用のテーブルセットも出しっぱなしになっていた。肉はビルの中に入れておいたんだけどね。いない間にかっさらわれたら困るからさ。
「んー。視界良好だったら動物の数も少ないか。隠れる場所がないからな」
『あっちに行くもきゃ?』
背もたれのない折りたたみ椅子に腰かけ、東の方角へ目を移す。
東には小高い山がそそり立っていて、木々も深く森になっているように見える。
「北側も悪くないかもな」
北もまた木々の密度が次第に濃くなっていた。
西はずーっと進むと住んでいた街に至る。こっちは平原がそのまま広がっていた。
南は荒地で視界良好なので、動物が少なそうだ。
高いところから見下ろせばもっと詳細に分かるのになあ。
ビルを登るか……いや、もっと視界がよくなればいいだけだろ。視界がよくなるといえば……。
あ。そうだ。
ポンと膝を打ち立ち上がる。
一気に想像できないなら、パーツ事に作って実物を見ながら組み合わせればいいんじゃないか。
一つ一つならより詳細に思い描くことができる!
こんな単純なことにすぐ気が付かないなんて……。
「出でよ」
『ガラスもきゃ? でも変な形。眼鏡のレンズみたいもきゃ』
「うん。中央がへこんだレンズだ。そして、もう一つ」
手の平くらいの円形凹レンズをテーブルの上に置き、続いて、もう一つ創造する。
今度は、凹レンズより二回りほど小さい中央が膨らんだ凸レンズを出現させた。
そして。
『筒?』
「うん。サイズが合えばいいんだけど。お、ぴったり」
30センチほどの真っ黒い筒を出した俺は、それぞれのレンズを筒にはめ込む。
お、一発でちゃんとはまった。すげえ俺。
さっそく、凸レンズから筒を覗き込んでみる。
ぐにゃーと景色が歪んでいた。
う、うーん。ピントが合っていないな。
次は実物を見ながら筒の長さを調整し、今度は最初からレンズの入った筒を創造する。
思った通り、実物があれば容易に創り出すことができるな!
何本も筒を出しては消し、出しては消し……。
「よっし、これだ!」
筒を覗き込み、喜色をあげる。
試しに遠くを見てみたら、見える見える! 裸眼とは大違いだ。
『それは何もきゃ?』
肩の上まで登ってきたルルーが筒に爪を立てる。
「これは望遠鏡だよ。遠くのものがよく見えるようになるんだ」
そう、俺が作っていたのは望遠鏡だった。
双眼鏡の方がよかったんだけど、構造が全く分からん。凹凸レンズを使う方式以外の望遠鏡も同じだ。
凹凸レンズ式は倍率が悪いと言うけど、全然違う! こいつがあれば、探索も捗ること間違いなし。
ガリガリと俺の指をひっかき、「オレサマにも見せろ」とアピールしてくるルルーの大きな目元に望遠鏡を寄せる。
『もきゃあああああ! ビックリしたもきゃ! 遠くが近くに』
「あはは」
驚いて両腕を開き、俺の肩から滑空したルルーは見事スレイプニルの背中に乗ったのだった。
望遠鏡を手に入れた。ならば、次にやることは一つだ。うまくいけばいいんだけど……。
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